大リーグ、放映権料を巡る様々なカラクリ
スポーツライター 丹羽政善
2014年以降のテレビ放映権交渉が大詰めを迎えていたドジャース。米王手ネットワーク「FOX」との再契約が濃厚とされていたが、最終的にはケーブルテレビ会社の「タイムワーナー・ケーブル(以下TWC)」と新規契約を結んだ。
■ドジャース、TWCと大型契約
契約総額は25年で70億~80億ドル(約6500~7400億円)とのこと。FOXの提示額は25年で60~70億ドルと報じられていたので、昨年12月半ばにFOXとドジャースの独占交渉期限が切れてから交渉に参加したTWCがマネーゲームを制した格好だ。
まだ正式には発表されていないが、TWCの番組の一つとして「ドジャース・チャンネル」を立ち上げ、それをドジャースが別会社を設けて所有するという。運営はTWCが行うが、放映権料はまずTWCから「ドジャース・チャンネル」へ、その後にチームへと渡る仕組みとなる。
■"税金対策"が裏に
単純な流れではないのは"税金対策"が裏にある。ドジャースが直接、TWCから放映権の支払いを受ける場合、収入分配金として34%をリーグに納めなければならない。
1月21日掲載のこのコラムで年間8400万ドル以上については課税されないという特例の可能性を紹介したが、リーグはその無効を示唆している。
別会社に入るお金までは課税されないことから、ドジャースはこの契約形態を選択したようだ。その別会社がチームに支払う放映権料を低く抑えれば、リーグからの課税額も少なくなるだけにそのメリットは大きい。
こうした契約形態は他のチームもとっている。たとえば、ヤンキースが34%を所有していた「YES」ネットワークは、2011年に2億2400万ドルの営業利益を上げたが、そこからヤンキースに放映権料として支払われたのは、わずかに9000万ドルだった。この数字は、ヤンキースの価値を考えたら半値以下と考えられる。
別会社の利益が収益分配の課税対象とならないのは、リーグが、「チームがリスクをとっている」と見なしているからだ。
■自前の放送局、容易でない立ち上げ
初期投資がかかる上、広告収入、受信料収入がある程度見えていないと、日々のオペレーションそのものが負担となる。そこが考慮されているのだ。
実際、立ち上げは容易ではない。数年前、ツインズが自前の放送局立ち上げを画策。ドジャースのようにケーブルテレビ会社のプログラムに組み入れてもらい、視聴者から課金して収入を得ようとしたが、ケーブル会社から「余分にお金を払ってまで見たいという人は少ない。スポンサー収入も見込めないだろう」という厳しい現実を突きつけられ、断念した。
そのとき、ツインズのように、中小規模の市場しか持たないチームは、地元の放送局に頼りながら、わずかな放映権でやっていくしかないという現実が浮かんだのである。
ヤンキース | 9000万ドル | 2011年 |
メッツ | 6500万ドル | 2012年 |
レッドソックス | 6000万ドル | 2012年 |
オリオールズ | 2900万ドル | 2012年 |
ナショナルズ | 2900万ドル | 2012年 |
■ドジャースの契約、リーグが承認に難色
現時点でチーム自前のチャンネルを持っているのは、ヤンキース、レッドソックス、メッツ。距離的に商圏が重なるナショナルズとオリオールズは、共同で「MASN」という地元スポーツ局を所有。いずれも大都市圏のチームであることは、偶然ではない。
さて、ドジャースとしてはそうした前例にならったまでだが、リーグが承認に難色を示している。「ドジャース・チャンネル」の立ち上げ、運営の責を負うのはTWCで、ドジャースは巨額の放映権料を保証されている上に、リスクもとっていない、よって、税金免除にはならない、というのだ。
ドジャースとしてはそれを避けたいがため、リーグ側と折衝中。この契約が最終的な形になるのは、数カ月後になるといわれているゆえんである。
■一部を配当で受け取る球団も
いずれにしてもこの形態は、リスクはあるものの、成功すれば税額を抑えられ、メリットは大きい。だが、市場規模によって左右される面があるため、最近は、別の節税手段として、放映権料に加え、その地元放送局の株式を放映権料の一部として譲り受け、その持ち株比率に応じて、毎年配当を受け取る契約が多い。
最近契約を結んだレンジャーズ、エンゼルス、アストロズ、パドレスは、いずれもこの契約形態だ。
この契約の利点は、配当に関しては収入分配の対象とはならないこと。つまり、配当についてはリーグから課税されないのである。
仮に放映権料が年5000万ドル、配当が年5000万ドルだった場合、実質的な放映権料は1億ドルだが、課税されるのは5000万ドル分だけ、ということになる。うまく考えたものである。
ところが先日、リーグはレンジャーズとこうした配当についても課税することで合意にこぎつけた。リーグとしては新たな"税金対策"の手法に待ったをかけた格好で、これは遅かれ早かれ他チームにも影響しそうである。
カブスなどはユニークな契約
近々、契約の更新を迎えるマリナーズ、フィリーズ、ロッキーズ、ダイヤモンドバックス、レッズなどは、別の形の契約を模索する必要があるのかもしれない。
配当が含まれている点で似ているというか、ユニークな契約を結んでいるのがカブス、ホワイトソックス。
ここは、それぞれのオーナーが個人的に地元の放送局の大株主で、その放送局はチームと1試合単位での契約を結んでいる。
カブス、ホワイトソックスともに1試合の放映権料は11年のデータでは45万ドル。この場合、単純計算で年間7290万ドル。いずれも市場価値を下回るが、チームはもうからなくとも、オーナーの懐は潤うというわけだ。
さて、ここまでは節税方法を考えなければならないほど、ある意味で景気のいい契約形態を紹介してきたが、まだ名前の出てこないチームは、さほど放映権料収入をあてにはできず、ますます広がる収入格差に苦しんでいる。
次回は、その実態と新たなうねりについて触れたい。
(次回は18日掲載予定)