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from FIFAマスター(宮本恒靖) サッカー選手の価値と財務諸表

サッカークラブにとって、選手は最大の財産といえるだろう。では、クラブの経営状態を表す財務諸表で、選手の価値がどのように表現されるかご存じだろうか。

一般企業と同じように、クラブが抱える資産と負債の額はバランスシートで示される。ユースからそのままトップチームに昇格してプレーしている選手の場合、実はバランスシートには何も記録されない。その選手の「金額」がまだ決まっていないからだ。

他クラブから獲得した選手が…

他のクラブから獲得した選手の場合は違う。相手クラブに支払った移籍金の額が資産として計上され、契約年数によって減価償却されていく。パソコンや工作機械など、一般企業の設備と同じ具合だ。

仮に僕自身のケースで考えてみよう。G大阪でプレーしていたときはユース上がりだったので、バランスシートには登場しない。

ザルツブルク(オーストリア)から日本に戻り、神戸に加入したときは資産として処理される。会計基準は国やクラブによっても違うが、欧州ではこの方法が主流だそうだ。

イタリア1部リーグ(セリエA)のACミランで40歳までプレーしたパオロ・マルディーニという選手がいる。セリエAの史上最多出場647試合という金字塔を打ち立てたが、ユースから引退までミラン一筋だったため、会計上は生涯、値段がつかないままだった。

クラブの名前自体が大きなブランド価値

国際サッカー連盟(FIFA)の大学院、FIFAマスターに籍を置く僕は今、そのミランの地元でこういった内容を勉強している。年明けから始まった2つ目のテーマがマネジメントの授業だ。

クラブの財産には、選手のように会計的な処理が難しいものが他にもある。ミランのように世界中に名がとどろいている名門なら、クラブの名前自体が大きなブランド価値を持つ。

それは本来、値段をつけることのできない無形の財産のはず。しかし、クラブがペーパーカンパニーを設立し、その企業にブランド名を売却することも手続き的には可能だ。

クラブには会計上、莫大な収入が入ることになり、クラブの経営状態を実際よりいいものに見せかけることができる。今は禁止されているが、かつてイタリアで使われていた手法だという。

各国リーグの経営の特徴について学ぶ

自己資本利益率(ROE)や投下資本利益率(ROI)……。現役時代には全く縁がなかったいろいろな数字も使いながら、クラブや各国リーグの経営の特徴なども学んでいる。

例えば、クラブの収入の内訳は大きく違う。セリエAはテレビの放映権料が大きいが、観客数世界一のブンデスリーガ(ドイツ1部)は入場料やグッズ販売の売り上げが多い。そのバランスが取れているのが、プレミアリーグ(イングランド1部)だ。

僕が財務のスペシャリストになることはないだろう。しかし、何かの組織に所属するなら、自分で会計の資料を読んだり、財務担当者と会話できる能力は重要だ。

サッカーを分析できる指標をたくさん持ちたい

FIFAマスターに入ったのも、サッカーについて分析できる指標をたくさん持ちたいということが理由だから、とても興味深い毎日だ。

といっても、まだ授業が始まって2週間あまり。勉強と同時に、イタリアの生活にも早くなじんでいきたい。

こちらでは車の運転もしている。ミラノの街並みはきれいだけれど、広い道路でも白線で車線を区切っていることは少なく、走る位置に気を使う。車の横からの割り込み方も強引だ。

こっちもアグレッシブに運転しないと逆に危ない。自分で判断してわずかな隙間に体をねじ込こむような、激しい守備に優れたイタリア人選手が育つ理由にはこういう環境があるのかと、感心もしている。

1年の初めだから、ワールドカップ(W杯)の前年を迎えた日本代表についても少し話したい。秋には昨年のように欧州遠征が組まれる可能性もあるというが、一番大事なのはやはり6月のコンフェデレーションズカップだと思う。

控え選手の底上げが重要

日本が対戦するのはブラジル、イタリア、メキシコ。これだけいい国とたくさん試合ができる機会はそうない。

僕がいたときの日本も、2005年の大会でメキシコ、ギリシャ、ブラジルと戦って、手応えと課題の両方を知ることができた。8年前はコンフェデの直前にアジア最終予選の突破が決まり、慌ただしく準備したが、今回は3月のヨルダン戦に勝てば出場権を手にすることができる。早くコンフェデに集中できる環境を作ることができれば理想的だ。

若い選手が今のメンバーにどれだけ割って入れるかということも今年の重要なポイントだ。ザッケローニ監督はここまで作り上げてきたチームを急激に変えるようなことはしないだろう。

しかし、たとえ先発の座を奪えなかったとしても、控え選手の底上げができていることはW杯を戦うときに重要だ。

(元日本代表主将)

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