バルサ前監督を招へい バイエルン、改革への決意
年が明け、欧州の各国リーグは後半戦に突入した。監督交代や選手の移籍も盛んに行われている。その中で最大の話題は、前バルセロナ監督のグアルディオラ氏が来季からドイツの雄、バイエルン・ミュンヘンを率いるというニュースだろう。
■腰を据えて改革できるチームを選択
元名選手でもあるグアルディオラ氏はバルセロナの監督としてスペインリーグで3連覇しただけでなく、2008~09年、10~11年シーズンに欧州チャンピオンズリーグ(CL)を制している。昨季限りでバルセロナを離れてからは、その去就が注目されていた。
グアルディオラ氏にすれば、じっくりチームの改革ができるクラブで仕事がしたかったのだろう。バイエルンは財政的に安定しているだけでなく、組織もしっかりしている。目先の結果だけで解任される危険性も少ない。そういう意味では、腰を据えてチームづくりができる。
この人事からはバイエルンの強い意志が伝わってくる。ブンデスリーガ(国内リーグ)では22度の優勝を誇り、今季も首位を快走している。しかし、欧州CLでは00~01年の優勝を最後に覇権から遠ざかっている。09~10年、そして昨季は決勝で苦杯をなめた。
■「世界基準のサッカー」を手に入れるには…
その苦い経験をもとに、「欧州を制するにはどうしたらいいのか」と本気になって考えたのだと思う。
チームには豪華なメンバーがそろっている。ドイツ代表がずらりと並んでいるだけでなく、リベリ(フランス)、ロッベン(オランダ)、ダンテ(ブラジル)、マルティネス(スペイン)、ピサロ(ペルー)と顔ぶれは国際色豊かだ。
では、次にどこに手を加えるべきかと考えたとき、当たり前のことかもしれないが、超一流の監督を呼ぶしかないという答えが出たのだろう。
いま、バルセロナこそが世界最強だと、誰もが認めている。グアルディオラ氏はその世界の最先端をいくサッカーをつくりあげた。本当の意味での「世界基準のサッカー」を手に入れるには、グアルディオラ氏を獲得するのが一番とバイエルンは考えたのだろう。
グアルディオラ氏が監督に就任することで、イニエスタやシャビといったスペインのトップ級の選手がバイエルンへ渡ってくる可能性もある。バイエルンはそこまで期待している気がする。ただ強いだけでなく、魅力的でもなければいけないと思い始めているのだろう。
■「自分たちとは違う視点」がほしかった?
バイエルンがほしかったのは「自分たちとは違う視点」なのかもしれない。おそらくグアルディオラ氏はサッカーについて、ドイツ人とは全く違う見方をしている。全く違う概念のサッカーを志向している。選手育成についても考え方がかなり違う。
バイエルンはただ単に勝ちたいだけではない。自分たちとは異なる視点で、自分たちのサッカーを評価し直してほしいのだと思う。それによって新しいものが生み出せると考えているのだろう。
昨年、ミュンヘンでハインケス監督が率いるバイエルンの練習を見る機会があったが、目新しいことはしていなかった。私が1990年代に視察したときと、さほど変わっていなかった。クラブ自体に行き詰まり感があるのかもしれない。そこにグアルディオラ氏が新しいメソッドを持ち込んでくれる。
■サッカーの概念は対極
バイエルンとバルセロナではサッカーの概念が全く違う。対極にあるといってもいい。
バルセロナの選手はどんな場面でも共通のイメージを頭に描いている。効率的にボールをつなぐというコンセプトをもとに、自分はどのタイミングで、どの場所に移動すればいいのかということを常に考えている。
誰かのために走ってスペースを空けるという考え方とは違う。自分がパスをもらえるところに動く。その行為を1人もさぼらず続ける。
いつ、どこに動くべきかを全員が意識しているから、次々とパスがつながる。その連続で最終的にGKと1対1になる場面をつくる。
一方のバイエルンは両サイドの選手のスピードや個人技でチャンスをつくり出す。力ずくで相手を崩してしまう。リベリやロッベンの爆発的な力を頼りにしている。
■ドイツのサッカーが変わるかも
グアルディオラ氏にしてみれば、1対1の場面で個人がそんなにしゃかりきにならなくても、点は取れますよといいたいのではないか。バルセロナはフィニッシュに至る作業においても、肩に力が入っていない。グループでひょいひょいとつないでいって、いつも「あっ、入っちゃった」という感じなのだ。
バルセロナと対極にあるバイエルンが来季、どう変わっていくのかは非常に興味深い。バイエルンがバルセロナとそっくりになるということはないだろう。しかし、必ず何か新しいものがつけ加わるはずだ。
バイエルンが変わったら、ドイツのサッカーが変わるかもしれない。ドイツほどのサッカー大国がスタイルの異なるスペインに学ぼうというのだ。ある意味ではプライドをかなぐり捨てている。何としても本物のナンバーワンになるのだという決意が伝わってくる。
■ブンデス、監督交代が相次ぐ
グアルディオラ氏が就任するのは来季の話だが、ブンデスリーガではシーズン途中の監督交代が相次いでいる。長谷部誠のウォルフスブルク、清武弘嗣のニュルンベルク、内田篤人のシャルケ、宇佐美貴史のホッフェンハイムでも昨年12月に監督が代わった。
シーズン途中で就任した新監督というのは目先の結果が求められている。だから、ちゅうちょなく使う選手も入れ替える。そこまでの実績など関係なくベンチに下げられる選手もいる。ウォルフスブルクなどではシーズン半ばにして、新たなチーム内の競争が始まったといえる。
だからといって、監督の言うことばかり聞いていたのではいけない。それでは自分の色が出せない。そんなことをしていても、また監督は代わるかもしれないのだ。大切なのは早い段階で自分のプレーを監督に見せることだと思う。そのうえで結果を出した選手だけが生き残っていく。
話題をイングランドに移すと、故障で長期離脱していたマンチェスター・ユナイテッドの香川真司が復帰した。
■復帰の香川は焦っている?
そのプレーを見ると、結果を出そうとするあまり、焦っているような気がする。ドルトムント時代のように自分の持ち味が出せていない。
同僚から、まだ完全な信頼を勝ち得ていないのか、いいタイミングでボールをもらえていない。だとしたら、「いま、寄こせ」と強く要求したほうがいい。「どうして出さないんだ」と怒るくらいでいいと思う。
簡単にボールをさばいてばかりではなく、もっとドリブルをしてもいいだろう。「ボールを速く回せ」といわれているのかもしれないが、必ずしもチームの決め事を守る必要はない。アタッキングゾーンに入ったら、ルーニーは好き勝手なことをしているのだから。
たぶんルーニーと一緒にプレーしたほうが、香川はやりやすいのだと思う。ルーニーは中央にいるだけでなく、左に張り出すなど幅広く動く。だから香川も自由にポジションを替えながら、プレーできる。とにかく、もっと我を出したほうがいい。
■厳しい戦いで活躍すれば成長できる
ここから先の後半戦はよりシビアな戦いになる。優勝争いや残留争いで、チームは切羽詰まった状況に追い込まれる。そういう中で活躍すれば、周りの見る目が変わる。本物の評価を獲得できる。
香川は昨季の後半戦に結果を残して優勝に大きく貢献したたことで、マンチェスターUへの移籍をかなえた。
厳しい戦いで活躍すれば、自信が膨らみ、成長できる。これからの5カ月で結果を残せるかどうかで、さらに大きなクラブに移れるのか、日本に戻らなければならないのかが決まる。
(元J1仙台監督)