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「大リーグの不名誉な時代」を映す殿堂入りゼロ

スポーツライター 杉浦大介

1月9日、メジャーリーグの殿堂入り投票の結果が発表された。今年は過去に薬物使用の疑惑が取り沙汰されたバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス両氏といった大物が初めて候補に名前を連ねたことで注目されたが、誰も規定となる75%以上の投票率を満たせず、1996年以来17年ぶりに該当者なしという結果になってしまった。"ステロイド時代の産物"ともいえる今回の投票結果を受けて、米国では改めて殿堂入り資格の基準が議論されることにもなっている。疑惑の消えない大物たちが、いつか殿堂入りを果たす日はやってくるのだろうか。

ボンズ氏の投票率は36.2%、クレメンス氏は37.6%

予想されたことではあったが、今回新たに資格を得た注目の"ビッグ3"はいずれも低い投票率で終わった。

ジャイアンツなどで大リーグ記録となる通算762本塁打を放ち、最優秀選手賞(MVP)7度に輝いたボンズ氏への投票率は36.2%、ヤンキースなどで通算354勝をマークしてサイ・ヤング賞7度のクレメンス氏は37.6%、そしてカブスなどで通算609本塁打のソーサ氏は12.5%だった。

実績だけを見れば文句なしで殿堂入りしてしかるべきの3人が、これほどの低評価に終わったのには理由がある。

「ステロイド時代の顔」

ボンズ、クレメンス両氏は大リーグの薬物使用の実態を調査した「ミッチェル・リポート」で名前が挙がり、ソーサ氏はニューヨーク・タイムズ紙で陽性反応が出ていたことが指摘された。

彼らこそが、禁止薬物の使用によって大きな恩恵を受けた、いわゆる"ステロイド時代の顔"と見られてきた選手だったのである。

この3人以外でも、マイク・ピアザ氏、ジェフ・バグウェル氏(資格獲得後3年目)といった証拠はなくともステロイド使用の疑惑がもたれてきた選手たちはそろって"惨敗"。

通算3060安打を放ったにもかかわらず、68.2%の投票率で落選したクレイグ・ビジオ氏も、バグウェル氏と同じアストロズでプレーしたことがあるいは影響しているのかもしれない。

「ごく少数の栄誉ある選手だけが殿堂入りできるのであり、選出者がいなかったことに驚きはない。記者たちの意思を尊重する。(薬物問題を受けての)選考方法の変更は必要ないと思う」

"ステロイド時代"への反対声明のようなもの

今年度の殿堂入り選手がゼロとなったことについて、バド・セリグ・コミッショナーはそうコメントしている。

しかし、実績だけなら史上有数である選手たちがそろって落選したことは、大リーグにとって、やはり不名誉な事態といってよいだろう。

「(ステロイド時代の)選手たちが、ここでほぼ初めて公に糾弾されたのだと思う。そうされてしかるべきだよ。ベースボールのクリーン化のために努力しなかったことが告発されるなら、今年以上に適した年はない」

得票率38.8%で資格初年度の今年、殿堂入りを果たせなかったカート・シリング氏は、ESPNの番組内でそう語っている。

現役時代から薬物に関して警鐘を鳴らしていた数少ない人物だったシリング氏が言う通り、今年の結果は「投票権を持つ記者たちから"ステロイド時代"への反対声明のようなものだった」と指摘する声は存在する。

戸惑っていて、とりあえず様子見?

しかし、そこまで強い意味はなく、「多くの記者たちが"ステロイド時代"の選手たちをどう扱えばよいか戸惑っており、とりあえず様子を見た」という見方の方がどちらかといえば正しいように思える。

特に資格獲得後1年目での殿堂入りは最高の名誉であるといわれるだけに、薬物使用疑惑がとりざたされてきた選手たちに、その栄誉を与えることに対して、記者たちが積極的ではなかったとしても理解できる。

今後を考えても、殿堂入りの判断基準がどうなっていくかがポイントとなっていくだろう。来年以降、ステロイド使用者、その疑惑がかかった選手の選出はありえるのだろうか。あるいは、今年と同じような結果になり続けるのだろうか。

「公になっていないだけで、ステロイドを使用した選手は山ほどいる。過去約20年以上にわたって薬物がこのスポーツに蔓延(まんえん)してきたことはもはや無視できず、ステロイドも大リーグの歴史の一部だったと考えるしかない。そしてクレメンス、ボンズ両氏が素晴らしい選手だったことを忘れるべきではない」

「投票」「今後も投票せず」…様々な意見

ESPN.comの有名記者、バスター・オルニー氏はそう記述し、ボンズ、クレメンス両氏、さらには過去の薬物使用を公に認めたマグワイア氏にも投票したと明言している。

大リーグのステロイド使用への対処は遅く、2003年にいたるまで薬物検査の規定すら存在しなかった。

だとすれば、その間に薬物を使ったとしても正確には違反ではないわけで、とやかくいうのはおかしいという声もあるのは事実である。

その一方で、オルニー記者のような意見はやはり少数派。スポーツ・イラストレイテッド誌のトム・バードゥッチ氏のように、"ステロイド使用者には今後も投票しない"と断言している記者も多い。

「ステロイド使用が明白な選手に投票するのは、ステロイドを奨励するようなもの。"あの時代には誰もが使用していた"というのは誤りで、使わなかったために不利益を被った選手だってたくさんいるんだ」

バードゥッチ氏が指摘する通り、たとえルール上は規制がなくとも、プロスポーツ選手のステロイド使用がタブー視されていたのは、はるか昔からだった。

殿堂入り選手の条件には、「誠実さ」「スポーツマンシップ」「人格」といった項目が含まれている。それだけに、モラルを無視して薬を手にした選手に投票したくないという記者の気持ちも理解できる。

この2人以外にも、新聞、テレビなどの記者、元選手、関係者など様々な分野の人が、種々な意見を述べている。

「ステロイド使用者はすべて除外」という人がいれば、「薬物を使用し始める前から名選手だったボンズ、クレメンス両氏は殿堂入りに値する」という考え方もある。

「パワーだけが飛び抜けていたマグワイア氏の場合、そのパワーをアップさせるのに薬を使っていたという時点で選外」と語る人もいる。

終わりない議論、今後も関係者の頭を悩ます

08年に殿堂入りを果たしたリッチ・ゴセージ氏のように、「殿堂入りさせないだけでなく、薬物使用者の残した記録は歴史から消されるべきだ」といった強硬論を展開する人もいる。

また、確たる証拠がなく、使用の噂だけで不利益を被った感じがあるピアザ、バグウェル両氏らをどう考えるべきかも難しい問題だ。明確な答えがないだけに、意見が割れることだろう。

いずれにしても、来年以降もこの時期がくるたびに、大リーグは"ステロイドの時代"の選手たちの殿堂入りを巡って議論が湧き起こることになる。

グレッグ・マダックス氏、トム・グラビン氏、フランク・トーマス氏、マイク・ムシーナ氏といった有力候補がいる来年は、クレメンス、ボンズ、ソーサの3氏らが大きく票を伸ばすことは難しそうだ。

それでも、"ビッグ3"を中心とした"ステロイド時代"の選手たちの評価、意見の推移は気になるところである。

一つ確実なのは、薬物問題に関する議論には終わりはなく、これから先もしばらく大リーグ関係者を悩ませ続けるということ。

そして、結果が発表されるたびに、私たちは後味の悪い想いをすることになるのである。

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