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世界で飛躍…錦織に「壁」を破らせたもの

男子テニスの日本のエース、錦織圭(23、日清食品)の四大大会での挑戦がまた始まる。今年最初の四大大会、全豪オープン(メルボルン)は14日に開幕、世界ランキング18位(7日時点)の錦織は第17シードとなった。すでにテニスの今シーズンは昨年末に開幕していて、錦織はブリスベーン国際に出場。準決勝を膝のケガで途中棄権したものの、4強入りした。1989年の巳(み)年生まれ、年男のシーズンは……。

IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーで練習する錦織

昨年のクリスマス、米で練習

昨年末のクリスマス。米フロリダ州ブラデントンにあるIMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーは閑散としていたが、シーズン開幕が近いプロたちは激しく打ち合っていた。

錦織もその1人。18歳のクリスチャン・ハリソン(米国)や35歳のマックス・ミルヌイ(ベラルーシ)と試合形式の練習を延々と続けていた。

「ア~」「もう」。ハリソンとやっていたときはまだ、ライン際のショットなどがアウトになることが多く、そのたびに声が出るか天を仰いだ。しかし、渡豪前の最後、ミルヌイとの練習ではピントが合ってきて、黙々とプレーしていた。

いつの間にかジュニア選手やその親たちが集まり、錦織のプレーをビデオに収めている。「最近、増えたかな。昨年の全豪でベスト8に入った後はすごかったですけれどね」と錦織。気軽に子供たちにサインしてから、シャワールームに消えていった。

ケガ予防のためにもトレーニング重視

2011年のオフと同様、12年のオフもまずシカゴでトレーニングだけの日々を過ごし、12月初旬にフロリダに戻ってからラケットを握った。

「言いたくはないけれど、体形、筋肉の質は欧米の人やラテン系の人とやはり日本人は違う。(欧米、ラテン系の人は)がっちりしている」

錦織は178センチとテニス選手としては背が低い。そのため、ケガ予防のためにもトレーニングをより重視している。いい結果が出た試合の後に、故障する傾向がある。昨年は全豪の後、楽天オープン優勝の後に、しばらくして故障が出た。

今季初戦のブリスベーン国際で準決勝進出(途中棄権したが、ドクターの診断は膝の軽度の炎症)。今の錦織なら、この規模の大会ならこうした成績もまったく驚かなくなった。11年後半に世界ランク30位以下に入り、12年2月以降、20位以下を維持、ツアーでシードの常連に。昨年は初戦負けは2度しかなく、ムラがなくなってきた。

磨かれてきた"勝負勘"

「そこがこれまでと一番違ったところだと思う。今、どんどん分かってきている。ここに打ったら絶対にここに返されるから、クロスに返しとこう、とか。(攻めのショットを)打っていい場面、いけない場面が分かってきた」と話す。

"勝負勘"というもので、「なぜここで打ってはいけないのか?」とかは説明できない。その瞬間、頭の中に勝手に「打つな」「打て」という指令がひらめく。「トップ選手ほど、そのカンは鋭い。世界ランク4~5位になると、ほとんど間違わないです」

トップ選手はすべてのショットに全力投球はせず、要所を締める。このため、四大大会で体力的にきつくなる準々決勝以降を戦うエネルギーが残っている。錦織はそこに至るまでに疲れてしまっていた。

「疲れると集中力と爆発力がなくなるのが分かった」。昨年の全豪、そしてロンドン五輪と準々決勝で散った錦織の実感だ。ショットの多彩さや戦術眼には定評があったので、"勝負勘"はおのずとさらに磨かれていくはず。

今季は「自分から攻めたい」

今季は「自分から攻めたい。(これまでは)相手が攻めてきたところをカウンターで返して、そこから自分の攻めの形になるパターンが多い。相手の動きを見てしまっているので、自分から仕掛けたい」。それができれば、もっと試合の主導権を握れるはずだ。

ブリスベーン国際の準決勝でマッサージを受ける錦織。この試合は途中棄権になってしまったが…=ロイター

「だいぶ自分のテニスが確立してきたと思う」。錦織が、こう口にできるのは憧れの選手、ロジャー・フェデラー(スイス)のおかげらしい。

11年の錦織はディフェンスを重視していた。それまでのリスクを恐れなさすぎる攻めのテニスは、自滅も多かったからだが、「守るだけではダメだとずっと思っていた」。

その試行錯誤の過程で、10月のマスターズシリーズ上海大会でベスト4に入り、「自分なりに何かをつかんだ」と思った翌週、バーゼル国際決勝でフェデラーにまったく歯が立たず完敗した(1-6、3-6)。「つかんだ」と思ったその自信を、フェデラーに見事なまでに粉砕されたのだ。

「衝撃的だった。このままのテニスでは勝てないと気づかされて、昨年は攻める意識が出てきたんです」

フェデラーとは昨年、対戦がなかったが、全米オープンで練習に誘われた。「ロジャーはおちゃめで楽しい。遊び心があって、練習でも遊ぶショットばっかり。やる気がないっていったらウソだけれど、力が抜けている。練習だといつも勝てるんだけど……」と錦織。

フェデラーは試合になるとギア

ほとんどの選手は練習もしっかりするが、フェデラーは違う。「試合になるとギアを入れられるんだろな」。彼のショットはあらゆる面で、全くの別次元だという。「ラファエル・ナダル(スペイン)もそうだけれど、参考にするのは現実的じゃない。他の人は入らないショットを全部入れるから」

ノバク・ジョコビッチ(セルビア)、アンディ・マリー(英国)の方が自分に近いという。「ロジャーのプレーは彼にしかできない。攻めが早すぎるし、あれだけリスクを冒してるのに、ミスしない」

ちなみにこの全米では、練習の開始時間が突然大幅に早まり、錦織は10分以上も遅れた。そうした中で、フェデラーを待たせても、必要なウオーミングアップをした。こういう面に錦織の芯の強さや、プロ意識を感じる。フェデラーは全く気にしていなかったが、錦織のコーチであるアルゼンチン人のダンテ・ボッティーニ氏だけはオロオロしていた。

世界ランク100位以内に日本人3人…錦織効果?

世界ランク、ジャパンオープン優勝……、この1年強の間に、錦織は次々と「日本人初」を達成してきた。

こうした壁を突き破る存在が1人出ると、「僕もやれるかも」と、周囲の選手もつられて強くなることはよくある。

今、世界ランク100位以内に日本人が3選手もいるのは"錦織効果"だろう。3年前には、想像できないことだった。

「日本に住んでいたら無理だった」

錦織に壁を破らせたものは何だったのか――。

「日本に住んでいないからじゃないですか。今、改めて思いますね。もし日本に住んでいたら、テングになってしまっていた自信がある。日本に住んでいたら、絶対に無理だったと思う。自分が一番というのが見えちゃうから、そのことに多分満足しちゃう」

IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーで、ダンテコーチと話す錦織

帰国すればたくさんのライトを浴び、CM撮影には一流の面々が顔をそろえ、有名人に紹介される機会も多い。「刺激を受けますし、それはそれで楽しいですよ」という。

しかし、試合に追われる身だから、日本に長逗留(とうりゅう)もできず、少しいい気分になったところで、練習拠点のフロリダかツアーに戻ることになる。これがちょうどいいタイミングなのだという。

米国では「誰も相手にしてくれない」。自分の練習を見る人は増えたが、決してちやほやはされない。この練習施設は女子のスーパースター、マリア・シャラポワ(ロシア)の拠点でもあるのだ。

そのシャラポワとは「挨拶するくらい」という錦織。「ここは世界が近いから危機感がある。日本ではここまでの危機感は得られない」

進み続けなければ生き残れない

トップ選手や有望ジュニアが頻繁に練習に訪れるので、遊び気分も吹き飛ぶし、10代のころはそうした選手が身近な目標となった。

「ミロシュ・ラオニッチ(カナダ)、ライアン・ハリソン(米国)、グリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)……。若い選手が出てきているのも肌で感じられる」と話す。

競争が日常。進み続けなければ生き残れない。それが13歳からの錦織の環境だった。本人はニコニコと、拍子抜けするほどほんわりした口調で話しているけれど……。

IMGニック・ボロテリー・テニスアカデミーで笑顔で話す錦織。コートを離れると今はやりの"ゆるキャラ"のよう

闘争本能の大半は、テニスに費やしているのだろう。コートを離れると、今はやりの"ゆるキャラ"のようだ。だからこそ、普段はおちゃめなフェデラー、「すっごく優しくて紳士的」というナダルに10代のころからかわいがられたのかもしれない。ランキングが上がった今、マリーやジョコビッチともよく話している。

今季の目標は世界のトップ10

今季の目標は世界のトップ10。「願望ですけれど。ケガなくやれれば……。なんか、毎年(ケガなくと)同じことをしゃべってる気がする」と錦織。

毎週、世界を転戦するテニスツアーは過酷で、ケガなしで1年戦える選手は皆無に近いし、組み合わせにも左右される。

「今年は例年とスケジュールを変える。毎年4、5月に必ずケガをしてしまうので、トレーニング期間を入れるつもり。ケガが出なければ、またスケジュールを変えればいい」

すべての大会に予選なしで出場できる立場にいるからこその、自信に満ちた言葉だった。

(原真子)

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