/

LINE・JINS・五輪…今年映す「チームワーク」の教え

 2012年も残すところわずか。さまざまな商品やサービス、組織がヒットを飛ばし、活躍を見せた。その陰に「チームワーク」の存在がある。優れたチームを表彰する「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー2012」。その受賞チームから、「LINE」、「JINS PC」、「ロンドン五輪・日本代表」に話を聞いた。

今年で5回目となるベストチーム・オブ・ザ・イヤー2012。日本の組織が持つ「チーム力」の認知向上と理解促進のため、一橋大学の野中郁次郎名誉教授を委員長とする実行委員会がその年の優れた「ベストチーム」を表彰している。

企業部門から選ばれた「LINE開発チーム」は、いわずと知れたスマートフォン(スマホ)向け無料通話・メッセージアプリの雄。韓国の大手ネット企業の日本法人、NHN Japan(東京・渋谷)が11年6月に配信を開始、11年末までに世界約1000万ユーザーまで普及した。

それが12年に入り大躍進を遂げる。12年末までに世界約1億ユーザーと10倍近い伸びを見せ、無料通話・メッセージアプリ市場を日本からけん引した。スマホ普及の追い風や、感情を端的に表す大きな絵文字「スタンプ」などがヒットの要因とされるが、矢継ぎ早に行われている機能改修やトラブル対応など運用面も忘れてはならない。チームワークを支えるのもまた、LINEだ。

「LINE」編、1つの命題に関係各所が即時応答

「PRもCS(顧客満足度)も今日のiPhoneの3.4.0リリースで問題なさそうですか?」「まさかこんなに早く承認されるとは……」。12月14日午前、主にLINEの画面デザインなどを手がけるウェブサービス本部UXデザイン室の稲垣あゆみ氏からLINEでメッセージが飛んだ。

稲垣氏が送ったのは、開発チームからユーザーサポートチーム、広報まで、関連するあらゆる部門の責任者が参加するグループのチャット画面。iOS向けアプリは米アップルの承認を待つ必要があり、いつ承認が下りるかは分からない。

突然の承認通知を開発チームの稲垣氏がメンバーに共有すると、広報・PRチームが「大丈夫です!」と反応し、LINE事業を統括する舛田淳執行役員も「イケイケー!」と鼓舞しながら追認。公式ブログやツイッターなどユーザーサポートを担当する金子智美氏が「ブログ原稿をなるはや(なるべくはやく)で作るので、できたら確認お願いします」と返した。この間、わずか2分である。

電話での情報共有は「伝言ゲームになって間違いが生じたり、遅れたりする」

「時間に関係なくLINEでメッセージが飛び交う。メールよりLINEを見ていないと仕事にならない感じで。部門内、部門間、あらゆるグループを作って、情報共有から対策、ユーザーへの対応まで、みんなで相談しながら一気に進めます」

こう話す金子氏はユーザーサポートを担当しているため、特に不具合などのトラブル対応に追われることが多いという。

「LINEは夜や週末の利用頻度が高く、不具合などのトラブルが起きた場合は平日の業務時間以外の方が影響範囲が大きい。即座に第一報をLINEで共有、それぞれのチームのメンバーがそれぞれの立場で動き出すという感じです。例えば『ツイッターで不具合報告出しますか?』と、文言を作成して共有、開発部門や責任者の舛田が『OK』となればツイート。数分とかかりません」

「緊急時は携帯電話で連絡、という風潮もありますが、それだと1対1。伝言ゲームになって間違いが生じたり、遅れたりする。でもLINEだと、みんなで共有しながら、早く進めることができるのが利点。メールの『CC』で共有する文化もありますが、それだとCCの人が返信しなくてもいい、みたいになりがち。その点LINEでは全員が一言ずつ反応してくれたり、既読したかどうかが分かるので、送信者も安心です」

年末年始もLINEで厳戒態勢

業務スピードの速さに貢献するLINE。トラブル対応にかかわらず、あらゆる業務がスピード感をもって進められる。取材時でも、その場で分からないファクトは「後日、確認します」となることが多いが、LINEの取材の場合はその場で広報が関連部門にLINEで確認、取材時間中に回答がまわってくることが多い。

「LINEのおかげで情報共有のための会議も少ないです。会議中でも常にLINEを見ていて、LINEの向こうのメンバーが会議に割り込むことも。特に、責任者の舛田は予定が詰まっていてなかなかつかまらないので、LINEでプッシュすることが多い。迅速な意思決定をしてくれるのは、現場としては助かりますね。逆に指示が山のように飛んでくるので大変ですが……」

年末年始は1年で最もメッセージが飛び交う時期。特にお正月は「おめでとう」メッセージの急増が予想され、LINEもサーバーを増強するなどの厳戒態勢をとっている。その陰でLINEをベースとしたチームワークが発揮されることだろう。

「JINS PC」編、機能性メガネという新ジャンル

「JINS」ブランドを展開するメガネ販売のジェイアイエヌも企業部門からベストチーム・オブ・ザ・イヤーを受賞した一つ。12年11月の既存店売上高は68.3%増。年末の時価総額は744億円と、年始の5倍に膨れた。けん引したのが、パソコン・スマホ向けメガネ「JINS PC」。「日経トレンディ『2012年ヒット商品ベスト30』」でも第6位に選ばれた。

11年9月に発売されたJINS PCは、スマホやタブレットが普及した12年、売り上げを大きく伸ばした。販売本数は、12年11月末に累計100万本を突破。同分野への競合の参入もあったが、現時点で約7割の市場シェアを抑えているという。

JINS PCは機能性メガネ。度の入っていないパッケージ商品が主力商品だ。液晶画面から発せられ、目の奥の網膜にまで届いてしまう青色光(ブルーライト)を30~50%カットでき、パソコン作業などによる目への負担を和らげる効果があるとされる。12年秋、ヤフーが従業員ほぼ全員分にあたる約4200本を購入するなど、IT・ネット企業へも広がっている。

このJINS PC、約100人という本部スタッフのほぼ全員が開発・販売に携わる「全社一丸」のプロジェクトだと、ジェイアイエヌ マーケティング室の矢村功マネージャーは話す。

「全社一丸」を支える危機感とビジョン

「会社内で開発にかかわっていない人はいないんじゃないかな。最初は社長と有志で試作品を作って、方向性が決まった段階で生産、商品企画、流通など、各分野のエキスパートを集めたプロジェクトチームを発足させました。マーケティングやプロモーションチームを中心に、レンズ調達などの生産部門、販売店も巻き込んだ。だから、本当に全社プロジェクトなんです」

全社一丸というのは、言うはやすいが難しい。部門間のセクショナリズムや、プロジェクトごとの競争が邪魔をしてうまくいかないことも多い。どう乗り切ったのか。矢村氏はいう。

「一番大きいのは危機感だと思うんですよね。我々はすごく安いメガネを提供するようになって、業界で販売本数ナンバーワンになりました。そのあいだに、業界(全体の市場規模)は年間6000億円から4000億円にシュリンクした。なんでシュリンクしているかっていうと、我々のような安いメガネ屋さんがシェアを奪っていくから。それって本当に我々にとって価値のある成長なの? ちがうよね。絶対、どこかで頭打ちになるよ。その恐怖感、危機感だと思うんですよ」

「もちろん日々の業務の中で、部門間の争いみたいなものや競争は当然あります。でも、それを超えた強いビジョンを共有できている。何かというと、メガネというものは昔は視力矯正だけだった。でも、メガネっていろんな付加価値を提供できる。それを僕ら『新しい当たり前』っていってるんですけれど、新しい当たり前を作っていかないと我々の成長ってないよね、というビジョンです。ビジョンによって、チームワークが強固になっている」

「手柄とか賞賛を浴びる余裕がない」

とはいえ、何か事業が成功したとき、ヒット商品が生まれたとき、どこかが手柄を主張したり、逆にどこかに手柄を与える必要がある。全社一丸とうたった場合、手柄はどうなるのか。

「手柄はないんですよ。まだまだなんです。たかだか100万本しか売れていない。確かにすごい数字かもしれないけれども、ドライアイに苦しむ方、パソコンで目が疲れる人、何人いるんですか。何千万人もいますよ」

「しかも、売れてすごいで終わるはずがなくて、売れれば売れるだけいろんな課題が一気に噴出する。生産体制どうするの、流通の体制どうするの、店舗での対応どうするの、普通のメガネを買いにきたお客さんのための環境をちゃんと整えられているの、とか。それを1つずつつぶしていく作業を考えると、手柄とか賞賛を浴びる余裕がないっていうのが正直なところです」

フリーアドレス制度で部門間コミュニケーション

もう一つ、JINS PCのチームワークを支えるポイントが「フリーアドレス」だ。11年夏の本社機能移転を機に、フリーアドレス制度を導入したことが、「JINS PCによるメガネ革命に全社一丸で取り組んでいるという空気をさらに濃くした」と矢村氏は話す。

「急激に大きくなって、新しいスタッフが入ってきたときに、部門だけで独立していたらその部門では仲良くなるけれど、ぜんぜん周りの人を知らないっていう状態ってよくある。けれど、フリーアドレスの場合、そういうのはないんですよね。新しい人がいろんなところに座って、いろんな人と関係ができて、どんどん輪が大きくなって。その効果が大きい」

「会社の規模的にもちょうどよかった。何人までフリーアドレスが耐えられるかは分からないですけれど、ビルのワンフロアにいるっていうことはすごい大事なことのような気がします。これが複数フロアになると、フリーアドレスの意味が変わってくるんじゃないかな」

約100人という規模、急成長の過程だからこその効果。JINS PCが500万本、1000万本と成長し、スタッフも数倍、十数倍と大所帯になったとき、チームワークをどう維持していくかが課題となりそうだ。次は、ベストチーム・オブ・ザ・イヤーのスポーツ部門から。

ロンドン五輪編、フェンシング日本代表・太田キャプテンの思想

12年夏、日本中を沸かせたロンドン五輪。メダリストによる凱旋パレードには沿道に50万人もの人が押し寄せ、話題となった。中でも大きく取り上げられたのが、銀メダルを獲得したフェンシング男子フルーレ団体の活躍。最大の見せ場は準決勝のドイツ戦だった。

キャプテンでエース。チームを率いる太田雄貴選手がわずか残り1秒で同点に追いつき、延長戦へ。ビデオ判定でサドンデスの1点を挙げ、メダルを決めた。獅子奮迅の活躍を見せた太田選手はロンドン五輪におけるチームワークを語るにふさわしい。五輪後、一時戦線を離れ、今後の進退を考える太田選手は何を思うのか。彼が考えるチームの作り方とは。

「団体戦前の個人戦は全員ダメで、試合まで中4日で団体戦をどう戦うかというミーティングを何回も重ねて。その中で、僕自身北京五輪でメダリストになって、メダリストだからいえる言葉として、彼らには『メダルをとって人生を変えよう。より人生が豊かになるし、視野も広がる。メダルをとらなかった人生なんて考えられないようになる』と、ずっといっていました」

「メダルを取る取らないでは雲泥の差があるんですよね。五輪前にいくら注目されていても、メダルがない選手は五輪後、消えますから。何とか人生変えられるように一致団結しようと。そうしたらたまたま劇的な勝ち方をして、よりたくさんの報道をしていただいて。彼らの今までにない素晴らしい動き、プレーがメダルに直結した」

「特に、僕が戦ったドイツ戦の逆転劇は、個人戦だったら勝ててないと思う。僕はあくまで最後を締めるというのが仕事だと思っていて、本当に彼らに助けられた五輪だったと思います。自分たちの今の実力を加味したら、銀でもがんばった銀だと思うし、今は満足感でいっぱいです」

「自分の役割を彼らに任せないと、彼らの成長を止めてしまう」

キャプテンとしてチームをまとめあげ、エースとして大事な局面で結果を出す。フェンシング日本代表チームにとって欠くことのできない太田選手は、だからこそ自らの去就に悩む。

「チームでの役割は全部引き受けていた。(チーム監督の)オレグコーチが熱くなるのを止めるのも僕だし、英語を日本語でチームメンバーに伝えるのも僕だし。あと、メンバーに向かってくる矢は全部受けようと思っていた。負けたら僕のせいでいいし、勝ったらみんなのおかげでいいよって、いつもいっていたんですよ。みんな若いので、彼らが矢面に立たされるのはつらい」

「だからオレグコーチは今僕が抜けることをすごく嫌がると思うんですけど、これから、日本のフェンシングチームは大きく変わると思います。強いチームでい続けることは、同じメンバーでい続けることではないんですよね。同じメンバーで引っ張ってるチームほど世代交代に必ず失敗する。10年不動のキャプテンがいたとして、その良さと弊害は必ず発生する。僕自身も(現役を)続けたいという思いがある半面、いろんなことに挑戦したいという思いもある」

「今の日本チームの勝ち負けを考えるのであれば、僕は抜けてはいけないというのは誰もが分かることなんですけど、チームの将来を考えれば、僕の出場機会を減らしていくことの方が圧倒的にいい。日本が今後、一皮むけるためには、僕が自分の役割を少しずつ彼らに任せ始めないと、僕ばっかり成長して、彼らの成長を止めてしまう。それじゃあ、意味がないんです」

「出る、引くのバランス感覚が大事」

アスリートは、結果を残すほど、現役にこだわる傾向にある。しかし太田選手は、自分自身との戦いや夢よりも、チームの将来を優先しているように思える。なぜなのか。

「日本のフェンシングをもっと普及させたいという思いですね。若手の彼らのことが好きだとか、自己犠牲だとか、そんなんじゃないんですよ。僕は出るところは絶対に出るし、引くところは引く。その出る、引くのバランス感覚、オンオフが大事だと思っていて、試合でもそうです」

「全員の良さを出すために、ここは僕が引くべきだと考えれば引く。引くことで僕は彼らの動きがよく見える。ゴールはチームが勝てばよいわけであって、団体戦において目立つ試合をする必要はないんですよね。全員がいぶし銀みたいなプレーをしても構わない。大事なのは結果です」

メダリスト、キャプテンという「座」を守りたいとは思わないのだろうか。社会でいえば、一度手にした部長、役員、社長という立場を守ろうとする人間は多い。

「メダリストの地位を失う怖さがあった」

「北京五輪後、やっぱりメダリストの地位を失う怖さが実際にあった。メダルの効果が4年だとすると、次のメダリストが生まれて自分のポジションがなくなる怖さというのがあった。その時に『あ、これは自分の成長を止める考え方だな』と改めて思ったんですよね」

「バックグラウンドにあるのは、僕は18歳で五輪に出ていて、20歳くらいの時は僕よりほかの選手の方が勝っていたんですよ。そうすると五輪選手なのに彼らに勝てないという、部長が席を失う状況とすごく似通ってたんですよね。この時に、やっぱり守りに入らない、攻めの姿勢を貫いて学ぼう、という思いが出てきてから、僕の人生観はすごく変わりました」

「だから今は素直にメダリストという立場を守ろうとは思わない。そうはいっても、金メダルという目標はある。次のリオ五輪は、もう出るだけじゃダメなんですよね、僕は。自然とリオを目指したいと思えば目指せばいいし、思わなかったらやめる。復帰するなら、来年の4月くらいが(伸ばせる)限界でしょうね。今の僕に、半年先の自分のことは分からない。考える時間をもらえている立場に感謝しながら、自分の将来像を固めて行ければいいなと思います」

3つのチームワークから学ぶこと

LINEでは常識にとらわれず、新しいツールを駆使しながらスピード感をもって立ち向かうチームのあり方を、JINS PCでは危機感やビジョンの共有が組織の壁を乗り越えることを、そして、フェンシング日本代表ではチームリーダーの役割とは何かを、知ることができる。

2013年は、どんな組織力、チーム力が、新たなヒットや活躍を生むのだろうか。欧米流の個人主義が日本にも浸透する中、3つのベストチームに学ぶことは多い。

(電子報道部 井上理)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン