スコアアップ工房 良いクラブとは(3) スペック理解が上達の第一歩
クラブデザイナー 喜多和生

「自分に合ったゴルフクラブ」に出合うための最初のステップは、今使っているクラブについてよく知ることです。前回(1月8日掲載)、お話したように、クラブの品質にはみなさんが考えている以上にバラツキがあります。クラブについて理解して初めて、自分のゴルフのどこをどう改善したらいいのか、どのようなクラブが必要なのかが見えてきます。クラブのスペック(仕様)への理解を深めることで、フィッティングへと進めるのです。
■基本データに9つの数値計測
最初におすすめしたいのがクラブ1本1本のデータ計測です。私は基本データとしてロフト角A、ロフト角B、ライ角A、ライ角B、フェース角、振動数、重量、長さ、スイングバランスの9つの数値を計測します。
計測したそれぞれのデータをグラフ上に落とし込んでいき、クラブの番手ごとのデータがほぼ右肩上がりの直線を描けば、プレーヤーはどの番手でも同じ感覚でスイングできます。
言い換えると、どの番手でも同じスイングのまま打てるわけです。
■使い手の感想と突き合わせ
ところが、番手ごとのデータが不規則な線になって表れた場合は、そのゴルファーは番手ごとにスイングを微妙に変えて調整している可能性があります。
本人は意識していなくても、データが突出した番手だけは別のスイングで打っているケースも珍しくありません。
クラブを計測しながらソールの傷、フェースの打球痕、グリップの減り方などをチェックしていきます。
どのようなスイングをしているのか、どのような悩みがあるのかはおおよその見当がつきます。
その上で使い手の感想、例えば「8番が引っ掛かりやすい」「ウエッジがトップしやすい」などという話を聞きながら、データと突き合わせていきます。

そうすることで、使い手の悩みがクラブの問題なのか、スイングの問題なのかが見えてきます。実際には一方がもう一方に影響を与えるケースが多いのですが……。
■ボール打つスイング、自分の目でも
このほか、プレーの頻度やどのような状況のショットが苦手か、どのようなミスが出やすいのかなどについて1時間ほど話を聞きます。そのうえで、実際にボールを打ってもらいます。
私の工房には、1000分の1秒単位でボールの弾道や回転数などを計測すると同時に、スイングの連続写真を撮影できる装置があります。
その際には実際にボールを打つときのスイングを、私の目でも確認します。素振りのときはきれいなスイングをしているのに、実際にボールを打つ段階になると、大きく違っているケースが多いからです。
自分の目で確認するのは、映像や画面を通して見たのではわからないスイングの問題点をつかむためです。
■計測とスイング診断、車の両輪
このように1つずつ手順を踏んで、スイングに合わせてクラブのスペックを調整したり、必要な番手だけを作り直したりしていきます。
クラブの計測とスイングチェックは、フィッティングをするうえで車の両輪だと思います。
どちらか一方しか確認せずに作業をすると、クラブに問題があるのにスイングを矯正したり、スイングに問題があるのにクラブを交換したりして、問題の本質を見誤ることになります。
こうした問題を取り違えているため、ゴルフがなかなか上達しないケースが意外に多いのです。

理想をいえば、コースでのラウンドも拝見するのがベストです。
ゴルファーによっては、実際のコースに出るとデータ計測のときにはわからなかった打ち方をしたり、打球ケージでの分析のときとは全く異なったフォームで打ったりするケースがあるからです。
■フィッティング、使い手も理解してこそ
地区アマチュア大会やクラブ選手権を目指しているプレーヤーと、スコアが100を切るか切らないかのプレーヤーとでは、それぞれの目標達成に必要なクラブは異なります。
使用するクラブそのものを把握すると同時に、使い手についても理解しなければ、本当のフィッティングはできません。これが半世紀近くクラブの製作に携わってきた私の思いです。