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米最大の人気スポーツ、NFLを揺るがす脳振盪問題

米プロフットボールリーグ(NFL)が脳振盪(しんとう)問題で揺れている。12月に入ってから、現役選手が交際相手を射殺した後に自殺する事件があったほか、飲酒運転の末にカーブを曲がりそこねて同乗のチームメートを死亡させる事故も発生した。ともに脳振盪との因果関係が証明されたわけではないが、激しいタックルによる度重なる脳へのダメージで、選手は感情的な起伏が大きくなりやすいと指摘する声もある。CDC(米疾病対策センター)もかねてより注意喚起していて、全米一の人気を誇るプロスポーツが抱える問題は大きくクローズアップされている。

交際相手を射殺した後に自殺

今月1日、NFLのカンザスシティー・チーフスに所属するラインバッカー、ジョバン・ベルチャー(25)が自宅で交際相手を射殺した後、自殺するという衝撃的な事件が起きた。

ここ数日、両者の間で口論が絶えなかったといい、仲裁のため滞在していた親戚の努力も実らなかった。ベルチャーは拳銃で交際相手を複数回撃った後、チーフス本拠地のアローヘッド・スタジアムに行き、コーチとGM(ゼネラルマネジャー)に感謝の気持ちを伝えると、駐車場で自らを撃って命を絶った。

ベルチャーと交際相手の間には3カ月になる女児がいたが、たった1人残された。ベルチャーに交際相手を紹介したのはチーフスの選手の妻だったとされ、8日の葬儀にはチームメートなど関係者が多数出席したという。

飲酒運転の事故で同乗の同僚選手が死亡

その1週間後の8日、今度はダラス・カウボーイズのディフェンスタックル、ジョシュ・ブレント(24)が飲酒運転の末に事故を起こし、同乗していたチームメートのジェリー・ブラウン(25)が死亡した。

ブレントは約3年前にも、飲酒運転で保護観察処分を受けていた。ブラウンとブレントはイリノイ大学でも一緒。やるせない気持ちが募るカウボーイズは8日のチームミーティングを短縮、余った時間でカウンセラーの話を聞く時間を設けた。

ベルチャーは今季チーフスで11試合、ブレントはカウボーイズで12試合に出場。現役バリバリの選手が起こした事件や事故だっただけに全米でも大きな注目を集めた。

また、今年4月末から5月にかけて、元NFLの選手が立て続けに拳銃自殺する事件も起きている。そのうちの1人は、2年前に引退したばかりで名ラインバッカーとしてプロボウル(オールスター戦)に12度選ばれた名選手、元サンディエゴ・チャージャーズのジュニア・セアウだったからショックは大きかった。

CDCは脳振盪について注意喚起している

CDCも脳振盪の問題について警告

もちろんこうした事件や事故、そして自殺は、選手の個人的な問題が原因なのかもしれない。だが、頭をよぎるのは近年、NFLで大きな問題として指摘されている「脳振盪問題」だ。

激しいタックルがつきものの競技で、度重なる衝撃による脳へのダメージは大きく、引退してから深刻な後遺症を訴える選手も少なくない。アルツハイマー病になる率が高いというデータもある。

頭痛、短気、落ち着きのなさ、感情的になりすぎる、不眠、記憶喪失、目まい、倦怠(けんたい)感など……。CDCも脳振盪による後遺症の問題について注意喚起している。

グッデルコミッショナーが啓蒙活動に乗り出す

NFLはかねてよりドメスティックバイオレンス(DV、家庭内暴力)や飲酒運転、拳銃に関する問題などに頭を悩ませてきた。

AP通信によると、06年には68選手がなんらかの事件を起こして逮捕され、これは全選手の交通違反の切符数よりも多かったという。

そのため、この年にNFLのコミッショナーに就任したロジャー・グッデル氏が啓蒙活動に乗り出し、DV、飲酒運転、銃保有による逮捕者をおよそ40%も減らした。それでも昨年、NFL32チーム中21チームで逮捕者が出たとされる。

また、NFLは脳振盪、脳の損傷関連で100件以上も元NFL選手が原告になった訴訟を抱えているといわれている。「脳への影響に関する情報を開示してこなかった」という理由だ。

グッデルコミッショナーはこうした「脳振盪」の問題に熱心で、ずっと危険なタックルに代表されるような「"戦闘士精神(warrior mentality)"の文化を変えないといけない」と話してきた。

今年3月に発覚した「bounty scandal」でもグッデルコミッショナーは厳しい態度で臨んだ。3季前のスーパーボウル覇者、ニューオーリンズ・セインツがコーチ、選手でお金を出し合い、相手チームの選手にタックルしてケガなどをさせて退場に追い込んだら、その選手に賞金を出していたというスキャンダルである。

こちらを立てれば、あちらが…

これに対し、コミッショナーは加担した選手らに、最も重いもので今季全試合出場停止などの厳しい処分を科した(現在、一時保留中)。

ただ、これについては先に述べた元選手らが訴えている訴訟を有利に進めるために、「NFLは決して暴力を助長していない、という姿勢を示そうとしているだけだ」という批判もあるのだが……。

USAトゥデーの調査によると、昨季NFLでは脳振盪について190の事例が報告された。これは大リーグの13、アイスホッケーの128、バスケットボールの報告なしといった他のプロスポーツと比べると、突出して多い。

それだけ荒々しいから、観衆も熱狂する。激しいプレーを制限すれば面白さは減り、人気も落ちるかもしれない。

かといって歯止めをかけなければ、脳の病気に悩む選手や事件が増えてしまうかもしれない。こちらを立てれば、あちらが立たない。

アメフト人気に陰りはなし

難しい問題を抱えながらも、今のところアメフト人気に陰りはない。

悲惨な事件が2週続いても、週明けの紙面はニューヨークでは首位を快走する昨季のスーパーボウル覇者のジャイアンツをはじめ、終盤に入ったNFLの話題でテレビも紙面も埋め尽くされる。

今年の夏、ヤンキースの野球以外のイベント担当役員に取材した際、ヤンキースタジアム内にある彼の部屋に入って驚いた。ボールや写真、トロフィーのレプリカ……アメフトグッズで埋め尽くされていた。

アメフトの魅力に直結するだけに…

NFLで13年以上務めていたとはいえ、現在の職場であるベースボールに関するものはほとんどない。

その彼がサンドイッチを豪快にほお張りながらこう口にした。「見るならアメフトが一番。これほどエキサイティングなスポーツはない。でもね、子供には野球とサッカーをさせている」

こちらがキョトンとしていると、「今どき、アメフトをやらせたい親はいないだろ。体に危険だ」。おそらく、そんな風に考えている米国人も多いのだろう。

全米一の人気を誇るプロスポーツであるNFLを揺るがす脳振盪問題。だが、その問題の根幹がアメフトというスポーツの魅力そのものに直結するだけに厄介である。

(原真子)

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