/

レアアース・バナナ…中国が仕掛けた経済戦争の行方

編集委員 後藤康浩

中国の「反日」が燃えさかっていた9月。内モンゴル自治区や江西省のレアアース鉱山は生産停止に追い込まれていた。世界のハイテク産業で不可欠といわれていたレアアースの需要が激減、在庫の山となっていたからだ。様々なレアアースの価格も総じて最高値の3分の1以下に落ち込み、政府は赤字生産で飢餓輸出も辞さない構えの鉱山に生産停止を命じた。2010年9月の尖閣諸島での中国漁船衝突事件をめぐってレアアースの対日供給を絞り、一時は日本企業が青ざめ、奪い合うように買っていた中国産レアアースがなぜ売れなくなったのか?

中国によるレアアースの事実上の禁輸措置から約2年。産地で今何が起きているのか

日本や韓国などの需要国が「脱中国」を着実に進めたからだ。日本は米国、カナダ、インド、ベトナムなどに新たな供給源を求め、各地で鉱山開発や旧鉱山の再開を促した。豊田通商と双日はレアアースの埋蔵量が世界第3位といわれるベトナム北西部のドンバオ鉱山の開発に参加、13年中に生産が開始される。代替材の開発、使用量の削減も劇的に進んだ。東芝はレアアースの代表ともいえるジスプロシウムを一切使用しないモーター用の高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を開発、今年8月に発表した。

70年代の石油危機と同じ構図

こうした動きをみて思い出すのは1970年代の2回にわたる石油危機だ。サウジアラビア、リビアなどアラブ石油輸出国機構(OAPEC)はイスラエルを支援する米国とオランダに対し、石油全面禁輸を宣言、さらにイスラエル友好国への供給削減に踏み切った。日本向けの原油供給の減少は一時的なものだったが、日本は国を挙げて「脱石油」に動いた。原子力、液化天然ガス(LNG)の利用拡大、石炭の見直しなどに加え、省エネを強力に推進した。結果的に日本の石油消費は横ばいから減少に転じ、世界の石油需要も伸び悩んだ。一方、産油国は原油の値上がりで増産に走り、1986年前半、原油価格の大暴落が起きた。「逆オイルショック」だ。その後、原油価格は03年まで15年以上も低迷した。いったん減った需要、代替物に逃げた需要を再び増やすのはきわめて難しい。中国のレアアースもまったく同じ轍(わだち)にはまっている。

中国税関は今年夏前からフィリピン産バナナの輸入を差し止め、中国に向かっていたバナナが日本やその他の市場にあふれている。その代わり、中国では味の落ちる海南島などのバナナが流通しているという。背景は中国とフィリピンが対立する西沙諸島のスカボロー礁の領有問題。中国の海軍艦船が占拠し、長らく周辺海域で漁をしていたフィリピン人漁民は出漁できない状況だ。中国はさらにバナナ農民を追い詰める狙いでフィリピンバナナの輸入を止めている。

経済戦争の背景に領土問題

バナナの価格下落が続いている。その背景には経済戦争がある

中国にとってバナナもレアアースも領土紛争の武器であり、経済を政治・外交上の問題解決に持ち込んだ。こうした行為が正当化できるかどうかの議論は分かれるだろうが、重要なのは最終的に困るのは経済を政治に持ちこんだ張本人となることだ。石油危機のアラブ産油国だけではない。73年、米ニクソン政権は大豆の禁輸に踏み切り、主要な輸入国だった日本は豆腐、納豆の原料不足に直面した。だが、日本は官民あげてブラジルでの大豆栽培を促した。その後、米国は禁輸を解除したが、日本向けの供給は限定的となった。さらに、米国は今や圧倒的な大豆輸入国である中国市場をブラジルと分け合うことになった。米国の禁輸がブラジルを育てたのだ。

中国が日本、韓国や東南アジアの多くの国と繰り広げる領土紛争は軍事衝突のリスクもはらみながら、経済戦争に向かいがちだ。だが、禁輸などの経済戦争は発動した側が長期的に損するのが常だ。中国はそうした事実を学ぶべきだろう。一方、日本は中国一辺倒のリスクを改めて意識すべきだ。資源だけでなく、市場、生産拠点の両面でも多様化、多角化を進めるべき時だ。

 「私が見た『未来世紀ジパング』」はテレビ東京系列で毎週月曜夜10時から放送する「日経スペシャル 未来世紀ジパング~沸騰現場の経済学~」(http://www.tv-tokyo.co.jp/zipangu/)と連動し、日本のこれからを左右する世界の動きを番組コメンテーターの目で伝えます。随時掲載します。筆者が登場する「バナナとレアアース~価格暴落の裏側に中国の戦略と誤算」は12月10日放送の予定です。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン