/

涙の2年ぶりV…石川遼、新たなスタート

編集委員 吉良幸雄

優勝してあんなに泣く姿を見せたのは初めてだった。男子ゴルフの三井住友VISA太平洋マスターズ(8~11日、静岡県太平洋C御殿場C)で、石川遼が通算15アンダーで今季初優勝。史上最年少の21歳1カ月でツアー通算10勝を達成した。ホールアウト後は爽やかな笑顔をふりまいた石川だが、突然の涙、また涙。2010年の同大会以来、2年ぶりの優勝に感極まった。

勝てなかった2年間の思いが交錯して…

会場やテレビ観戦していた女性ファンの中には、もらい泣きした人も少なくなかった。翌日も街のあちこちで「劇的な優勝。遼君が勝ってよかった」という声を聞いた。

石川は21歳の若者らしく、おしゃれ好きでスタイリッシュだ。「『もがいてる』『悩んでる』『苦労して、苦労して』というのは大嫌い。カッコつけてると思われるかもしれないが、そうは見られたくない」と本人はいう。

だが、何年か前、弟の航君は「お兄ちゃんは泣き虫だから」と言っていた。今大会は勝てなかった2年間のさまざまな思いが交錯し、石川が思わず「素の姿」を見せて目を潤ませたということだろう。

「優勝の味、感触を忘れていた」

水鳥が水面下で必死に脚を動かすように、石川も世界で戦うため、より遠くへ飛ばせる理想のスイングを求めて試行錯誤、懸命に練習を重ねている。

しかし、2008年のプロ入りから3年間でとんとん拍子に8勝を重ねてきたのに、10年のVISA太平洋以来、とんと勝てなくなった。

「優勝の味、感触を忘れていた」。昨年3月、米ツアー遠征中に東日本大震災の悲報に触れ、無力感にとらわれた。自動車の無免許運転問題もあった。

今春は高校時代から交際している女性との婚約も発表した。ところがマスターズ、全米オープン、全英オープンといずれも予選落ち。腰痛で満足に練習できずに、ずいぶん苦しい思いもした。

そんな石川を支えてくれたのが婚約者や家族、加藤大幸キャディーをはじめとする「チーム遼」のメンバーだった。

記念のウイニングボールはそっとしまいこむ

優勝スピーチの後、用具使用契約先のヨネックスの担当者らの顔を見ると、涙があふれ出てきた。

「この2年間いろいろあった。みんなの応援に応えたいと思っても、気持ちだけじゃ応えられない。サポートしてくれる人に迷惑ばかりかけ、何もできなくて……」

グリーンサイドのファンにボールを何球も投げ渡したが、記念のウイニングボールはそっとしまいこんだ。

「今まで彼女にずっとウイニングボールをあげている。寂しい話で、彼女に『最近はボールをくれないね』と言われていました」と照れ笑いを浮かべた。

今回の優勝で胸のつかえは下りた。目標の16アンダーには1打足りなかったが、「ホッとしているのが本音。正直、もっといい勝ち方ができたと思うけれど」という。

太平洋C御殿場Cは大好きなコース

太平洋C御殿場Cは「大好きなコース」だ。プロになってから5位、4位、優勝、8位とずっとトップ10入りを続けている。今大会も初日2位と今季最高のスタート。3日目に首位に立つと、松村道央の追撃をかわして逃げ切った。

初日からティーショットが左にブレがちだったが、最終日は4日間で初めてスタートホールで真っすぐボールを飛ばした。1番(パー4)で3番ウッドの第1打をフェアウエーに運んだのを見た父の勝美さんは「体が切れている。今日はいいな、と思った」という。

最終日にティーショットでフェアウエーを外したのは3回。パーオンできなかったのも3回で、ともに出場選手中トップだった。

11番(537ヤード、パー5)のドライバーショットは318ヤード(1位)もかっ飛ばし、第2打は5番アイアンで2オン、楽々バーディーを奪った。

「11番は今週で一番のショット。セカンドもドライバーと同じハイドローで最高のスイング」。ショットはこれまでになく、かなり安定していた。

この日2度目の3パットで2連続ボギーをたたき、松村道央に1打差まで迫られた18番(517ヤード、パー5)の池越えの第2打は圧巻だった。

雨の中で勝ったのは初めて

フェアウエーから5番ウッドでピン手前6メートルに。1メートル距離が足りなかったら、斜面を転がり落ちて池につかまっていたはずだ。

だが「(2オンの)松村さんより3打目を不利な状況からは打てない。これ以上隙を見せられない」とグリーン左サイドでなく、まっすぐピンを狙った。

いつもは辛口の勝美さんも「米ツアーを見てるから、あそこへ打てた」とほめる勇気あふれる一打だった。

「練習したら本当にうまくなるんだろうか、と思ったこともあるけれど……。自分が積み上げてきたものの成果が出た。練習することで技術は上がるし、精神的にも強くなる」と石川。

雨の中で勝ったのは初めてで「明らかに今までの9勝より内容が濃い優勝」と振り返る。

開催コースを所有する太平洋クラブは会社更生手続きを進めているさなかだが、「コース管理、メンテナンスが素晴らしい、世界に通用するコース」と御殿場での開催継続を訴えた。

「自信を持って米ツアーへ」

米ツアーでは今季87万ドル余り(約6900万円)を稼ぎ、賞金ランク108位相当となって来季のシード権獲得が確定した。来年は米ツアーメンバーとして1月から本格参戦する予定で、「自信を持って米ツアーへ行けるのでは」と話す。

国内では15日開幕のダンロップフェニックス(宮崎)、カシオワールド(高知)、日本シリーズJT杯(東京)と残り3戦。年内にはアジアツアーのタイ選手権(12月6~9日)、アジア・欧州対抗戦のロイヤルトロフィー(12月14~16日、ブルネイ)も控えている。

「今週のショットなら、フェニックスもうまく攻略できそう」。今回の1勝は新たなスタートだ。新生・石川が力強く、世界での戦いへ足を踏み出す。

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン