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グリー・DeNA、ゲーム健全化へ「不安」な船出

ソーシャルゲーム協会発足もヤフーめぐり不協和音

 グリーとディー・エヌ・エー(DeNA)を中心とする業界団体「一般社団法人ソーシャルゲーム協会(JASGA)」が8日、発足した。「さらに業界一丸となって、健全化に対して継続的に取り組む必要を感じた」とグリーの田中良和社長は目的を語る。しかし具体策や実効性に乏しいうえ、グリーとDeNAとの間に早くも不協和音が生じるなど、不安を感じさせる船出となった。

コンプガチャ問題などを経て、ようやく立ち上がった業界団体。ソーシャルゲームの自主規制ルールなどを定めていたネット大手6社の協議会を母体に、関連団体や、ゲーム開発会社など約50社の賛同を得て発足した。ミクシィ、サイバーエージェント、NHN Japan、ドワンゴがそれぞれ理事を出したが、実質は業界をけん引するグリー・DeNAの2社が仕切る体制だ。

ソーシャルゲーム協会の発足会見に臨んだグリーの田中良和社長(中)。両脇は、協会の事務局長に就いた慶應義塾大学の中村伊知哉教授(左)、同諮問委員会委員長に就いた一橋大学の堀部政男名誉教授

共同会長・代表理事にはグリーの田中社長とDeNAの守安功社長がそれぞれ就任。訴訟合戦を含め激しく競合する両社のあいだを取り持つように、IT業界や政界に精通する"ご意見番"、慶応義塾大学の中村伊知哉教授が事務局長に就いた。事前には3人がそろって会見、「田中社長と守安社長が握手をする歴史的な2ショットが撮れる」との情報もあったのだが……。

「まず、おわびがございます。ご案内した際は(DeNAの)守安様がご出席とご案内しましたが、諸事情により、本日は欠席となりました」――。

スマホ向けゲームでヤフーとグリーが包括提携

守安社長の突然の欠席。説明はこれだけだった。開始からおよそ40分。早々に質疑応答を打ち切り、写真撮影を済ました後、田中社長を取り囲んだ報道陣が「守安さんが出なかった理由を教えてください」と詰め寄るも、代わりにグリー広報がさえぎる。「申し訳ございません。次の予定がありますので。終了させていただきたいと思います」。田中社長は無言のまま、足早に会見場を後にした。

8日、会見するヤフー・グリーの両トップ。提携範囲はゲームや映像コンテンツの新会社設立など広範囲に及ぶ

グリー・DeNAのトップがそろわなかった理由。それは、約2時間後の田中社長の「次の予定」にあった。

同日18時45分、場所は東京・六本木のミッドタウン。ヤフー本社が入るビルの会議室で、今度はヤフーとグリーによる包括的業務提携の記者会見が行われた。ヤフーは2010年4月、ゲームサイト「Mobage(モバゲー)」を運営するDeNAと提携し、同年10月よりパソコン向けのゲームサイト「Yahoo!モバゲー」を開始。現在は約900万人のユーザーを抱えている。

しかし、利用者が急増しているスマートフォン(スマホ=高機能携帯電話)向けのゲーム分野では、グリーを選んだ。

笑顔で握手を交わすヤフーの宮坂学社長(左)とグリーの田中社長

グリー側からアプローチしたという今回の提携は、田中社長とともに登壇したヤフーの宮坂学社長いわく「ひとことでいうと、ヤフーで見つけてグリーで遊ぶ」という内容。スマホのヤフーのトップページに「GREE」のリンクが目立つように置かれ、ユーザーを誘導する見返りに、ヤフーはGREEでの課金収入の一部を得るという。さらに今後は、ヤフーの決済手段やポイントをGREE内で使えるようにしていく。

この会見で田中社長は「単なるゲームの提携ではなくエンターテインメント全般の提携に広げていきたい」とし、今後、ゲームのみならずアニメなど映像コンテンツの共同制作など、幅広い提携であることを強調。ライバルのDeNAを成長分野のスマホ向け事業で出し抜いた喜びからか、2時間前とは打って変わり、笑みがこぼれた。

発足時からかみ合わず

半面、釈然としないのは出し抜かれた格好のDeNAだった。ソーシャルゲーム協会の船出の日に、あえてグリーがヤフーとの提携発表をぶつけてきたように見えるから面白くない。

関係者の話を総合すると、DeNAはヤフーとグリーが協会発足と同日に提携発表を行うことを直前になって知った。「ヤフーとの提携発表を1日でもずらせないか」というせめぎ合いがあったが、グリー側が「話は別」と取り合わず、もの別れに。結果、守安社長は姿を見せなかった。

グリー・DeNAの両社はビジネスで激しい攻防戦を繰り広げてきたうえに、「模倣」「名誉毀損」といった内容で互いに提訴し合い、いまだ係争中の「犬猿の仲」。最近は有力ゲーム開発会社の買収で火花を散らす。それでも今回、業界の健全な発展のためにと手を取り合ったのだが、発足時からかみ合わなかった。解決すべき課題は山積しているだけに、不安の船出といわざるを得ない。

健全化の具体策は「これから」

健全化に向けた具体的な施策は、依然としてぼやけたままだ。ソーシャルゲーム協会は「ソーシャルゲームの自主規制」「青少年等に対する啓発活動」「顧客サポートの品質向上」を3本柱に掲げる。だが、具体的に決まっているのは月内に東京・恵比寿に事務所を構え、そこにグリー・DeNA双方が1人ずつ出向させ、計2人が常駐するということくらい。議論を重ね、来年1月から活動を本格化させるとする。

たとえば、消費者庁から違法判断が下されたアイテム課金の手法「コンプガチャ」や類似する手法を全廃する、アイテム売買の「リアルマネートレード(RMT)」を禁止する、といった業界の「自主規制ルール」の具体的な運用方法はまだ煮詰まっていない。

自主規制には強制力がない。協会はルールが順守されているか監視していくとするが、すでに数千タイトルもあるソーシャルゲームをきちんとチェックできるのかは未知数。協会で「自主規制委員会」の委員長を務めるグリーの山岸広太郎副社長は会見で、「すべてを事前にチェックするのは難しい」とし、「パトロールやユーザーからの情報を分析して実効性を担保していきたい」と答えた。

同じく、ソーシャルゲーム事業者の外で行われているRMTについても、中村教授は「当方は命令できる立場じゃなく、ご相談する立場だと思いますけれど、アクションはとっていきたいと思います」と答えるにとどめた。そのわずか数時間後、今度はRMT問題を「棚上げ」にするようなやり取りがなされるから、協会への不安はますます募る。

ヤフオクのRMT問題は「棚上げ」

ヤフーオークションには今でも多数のカードが出品され、数万円から十数万円と高額で取引されている(8日、画面は「探検ドリランド」関連の出品)

一連のソーシャルゲーム問題の発端は今年2月、グリー製の人気ゲーム「探検ドリランド」のカードが大量に複製された騒動だった。その背景には、希少なカードを得るため10万円以上もガチャにつぎ込む「射幸性」、そしてカードを現金化できる「換金市場」の存在があった。中でも換金市場の中心を担っていたのは「ヤフーオークション」。ドリランドだけで約3カ月のあいだに4億円以上もの取引があった。これを機に、業界は健全化へと舵(かじ)を切った経緯がある。

ヤフー自体は、法令違反ではないRMTを許容する立場を貫いており、カードなどのアイテムを削除対象としていない。そのため、数は減ったものの、いまだに常時、希少なレアカードを中心に数千点のアイテムが出品されている。しかしグリーとヤフーの包括的な業務提携は、そのことにあえて触れていない。

RMTについてどう対処するのか。提携発表の場で問われたヤフーの宮坂社長は、「今回の提携はあくまで、スマホ向けのソーシャルゲーム。オークションについては一線を画したかたちで、今のところは特に考えていない」と一蹴。田中社長も特にコメントしなかった。

この数カ月間、「RMTの根絶を目指したい」と繰り返してきた田中社長。RMT問題含め、業界一丸となって健全化に対処するために、業界団体も発足させた。ところが同日、RMT問題を置き去りのまま、ヤフーと「包括的な」業務提携をした。ヤフーは今のところ、業界団体にも参加しておらず、RMTを排除する考えもない。その前提で、グリーはビジネスを優先させたということになる。

新手の「パッケージガチャ」台頭、射幸性問題は白紙

ガチャ自体、どう自主規制を進めていくのか。その議論もまだこれからだ。コンプガチャは、たまたま景品表示法が禁じている「絵合わせ」に該当するとして違法となったが、問題の本質である射幸性についての議論は、ほとんどなされていない。すでに新手のガチャも台頭している。

コンプガチャなき今、主流となっているのは「パッケージガチャ」「ボックスガチャ」と呼ばれるガチャで、コンプガチャの収入減を埋めている。数百種類あるカード、全種類を1つの箱に入れ、そこから1枚300円程度で順に引いていくようなイメージの手法だ。一度引いたカードは箱から除外され、引けば引くほど希少なレアカードが当たる確率が高まる。

GREEの「探検ドリランド」で行われているパッケージガチャ。ユーザーが欲しがる最上級のレアカードは、330枚中1枚しか入っていない

しかし、コンプガチャの景品となっていたような最上級のレアカードが出現する確率は極めて低い。たとえばグリーの売り上げをけん引するドリランドのパッケージガチャでは330分の1。「10万円以上つぎ込めば必ず出る」という上限が、かえって射幸心をあおっているとのユーザーの声も多い。

こうした手法がコンプガチャを代替する中、15歳以下は月額5000円、16歳以上20歳未満は月額1万円という課金上限が高いのか、低いのか。その議論も分かれるところだ。

ビジネスか健全化か、バランスは「諮問委員会」で

ビジネスや成長を追求する以上、各社は収益力の高いガチャに頼らざるを得ない。すなわち、射幸心をあおる方向へ自然と傾倒するが、それは安心・安全で健全な遊技環境を求めることと背反する。プレーヤー中心の業界団体に、そのバランスが取れるのか。健全化を担保する第三者機関を作るべきではなかったのか。

協会発足の会見終了後、しばらく残ってくれた事務局長の慶応大・中村教授にぶつけた。

「そこがですね……。まずは、大手が足並みをそろえ、同じテーブルに乗って動き出すというのを始めたかった。バランスが取れるかは、協会に設置する諮問委員会の独立性、そして『ちゃんとしなさいよ』という強いリーダーシップがどれだけ発揮できるか、によると思っています」

ソーシャルゲーム協会の諮問委員会には、協会の準備委員会座長も務めた一橋大学の堀部政男名誉教授以下、4人が名を連ねる。いずれも政策や法律などに精通した「大人」だが、ソーシャルゲームの実態に精通しているかは未知数。中村教授は続ける。「それでうまくいかなかったら、別途、第三者機関うんぬんという議論が出てきてもおかしくはない」

健全化の御旗は監督省庁に向けた打ち上げ花火なのか、本気なのか。世界で勝負できる可能性を秘めた日本発の産業とされるソーシャルゲーム。足元では自浄能力が試されている。

(電子報道部 井上理)

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