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20代、30代で転職を経験した人材は強い

城繁幸氏・岩瀬大輔氏 対談(下)

少子高齢化やグローバル化などを受け、日本の雇用制度が大きく揺らいでいます。新しい時代に対応するには、国や企業、個人はいったいどうすればいいのか。どんな制度が理想なのか。人事コンサルタントの城繁幸氏とライフネット生命副社長の岩瀬大輔氏が前回に続き、求められる会社の仕組みや人材などについて話し合います。

既得権を手放すのは難しい

――働く意欲が高い人がいる一方で、ベテラン社員には、現行の制度を守ってもらったほうが都合がいいという人もいます。

 外資系であれば40歳を過ぎて会社に残るのは、パートナー(共同経営者)になれる人くらいで、人数は少ない。残るような人は、すごく優秀。一方で、日本企業の場合だと、若い時は安い給料で働いて、40歳を過ぎてから若い頃の投資を回収するというスタンスだったりします。

岩瀬 労働者といっても一様ではないわけですよ。若い世代は変えなくてはいけないと思っている。でも、今の制度のまま逃げきりたい人を責めるのも難しいと思います。みんな個人レベルでは、利己的ですから。既得権をギブアップしろというのは難しい。だから、経営トップが腹をくくるか、国などが仕組みを強制的に変えていくしかないと思うんです。

 それでも日本の場合、組合が非常に強くて、法律で守られていますから、そこはなかなか変えられないですよね。

岩瀬 でもドイツの企業って、労働者の権利が強いけれど好調じゃないですか。そのあたり、何かご存じですか。

欧州から学べる点はあるか

 ドイツでは取締役会の上に監査役会のようなものがあって、そこに従業員代表が入らないといけない。だから労働組合がある意味、経営よりも上のカードを1枚持っていて、経営に参入するわけです。日本と違って、小さな会社は一応解雇はできますが、大企業はたとえば1000人単位で整理解雇するとなるとハードルが高くて、政治化するんです。2006年くらいまでは、やっぱり「ドイツ病」とか、ヨーロッパのお荷物的なことを言われていたんですね。

オランダやベルギー、北欧などは、国が積極的に会社を潰すし、企業も解雇してかまわないよという仕組みです。失業した国民には、社会保障をきちんと行って、職業訓練、再就職の斡旋、失業給付など面倒を見て雇用市場の流動性を高めている。税制も法人に有利なように、起業しやすいようにして、とにかく経済活動がしやすいスタイル。そういう国々が勝っていると言われていたんですね。

ところが2007年くらいから急激にドイツが伸びてきた。ただ、これはやっぱりユーロ危機にともなうユーロ安の恩恵です。

岩瀬 北欧の話に学ぶべき点はたくさんあります。ただし、国の規模がまったく違うという面はあります。スウェーデンの人口は1000万人に満たないわけですよね。もちろん、そういった国々から学びたいんですが、実際には、日本のように大きな国では難しいんだろうなとは思います。それを言い訳にすべきではないですけどね。

今はチャンス、頑張った人は報われる

――日本や日本企業の仕組みがそう簡単に変わらないのであれば、一人ひとりは、どういう意識で生きるべきでしょうか。

岩瀬 厚生労働省の友人は、「社会保障もそうだが、国の制度は巨大タンカーのようなもので、一気に方向は変えられない。ゆっくりしか変えられないと思ってくれ」と話します。

では、どうすればいいか。僕にも答えはありません。必死に努力してスキルを高めて、企業に依存しなくても生きていけるようにするしかない。厳しいようですが、昔のように、特別な努力をしなくても、誰もがいい思いをできる時代は終わってしまったということに気づいて、できる範囲で努力するしかないんじゃないでしょうか。ただ、僕はチャンスがあると思います。なぜならみんなそんなに努力しないので、頑張った人は絶対に報われる気がするんですよね。

自分で何とかするしかない

 そのとおりですね。国ができることは非常に限定的なので、最後は自分で何とかするしかありません。日本は業界で統一された職務給があるわけではないですから、一度、労働市場の中で自分のスキルを標準化してみる、あるいはどういう評価を受けているかさらしてみるべきだと思いますね。それには転職がいいと思います。20、30代のうちに1度転職を経験している人と、まったく転職していない35歳を比べると、意識が決定的に違います。

知り合いの中には、外資をまったく経ずに、日本企業から日本企業へ移っている人もいます。彼らに会って話を聞くと、日本人とは思えないくらい組織に対して非常にクールで、自分がやるべきことは何か、組織の中でそれがどこまでできるかをいつも考えています。1回転職をすると、自分が前の会社でやってきたことが通じないという経験をして、大きなショックを受けたようです。

岩瀬 城さんの言われるように、自分のスキルのどれが汎用的で、どれが特定の企業でしか通用しないかは、転職してみると気づきますよね。その気づきが大切だと思います。

企業規模問わなければ、転職市場はそこそこある

――汎用的なスキルを持っていても、雇用市場が硬直化していて、なかなか転職できないということはありませんか。

 いや転職市場はそこそこありますよ。

岩瀬 企業規模にこだわってはダメです。大企業の給料を保障してくれる転職先はほとんどないとは思いますけど。

 新興企業に移られて、そこですごく活躍されている方もいますよね。

岩瀬 いっぱいいます。あるいは東京でなくても地方に行くという選択肢もありますし。やりがいも含めてトータルな満足を考えるべきだと思います。

「40代定年制」になると中高年バブルに

 先ごろ国家戦略会議のフロンティア分科会が、報告書で「40歳定年制」を提言したんです。これを考えた人はすごく頭がいいというか、わかっているなと思います。40歳定年といっても、クビにするわけではなくて、賃金体系を見直すということですよね。この年齢になったら、年功賃金ではなくして、1年、2年の契約社員にした上で職務給にするスタイルです。クビになる人はほとんどいないと思います。

この制度を採用すると、「新卒カード」にほとんど価値がなくなって、中高年バブルが起きるでしょう。たとえば優秀な営業マンを1人募集したとします。そこに22歳の新卒と45歳の営業歴20年のベテランが応募する。新卒は20年は会社で面倒を見なくてはいけなくて、45歳はいつでも契約を解除できるとなれば、絶対45歳のほうを採用しますよね。

岩瀬 その場合は、やっぱり給料は45歳のほうが高いんですか。

 そういう縛りはないということにします。

岩瀬 であれば、45歳の人のほうがいいかもしれません。でも若い人を採用したいという気もするんですよ。新卒を雇って20年面倒を見るのがイヤだという感覚だけではなくて、若い人には未来があるから、成長して卒業すると考えることもできるじゃないですか。

30歳未満まで「新卒」扱い

企業に65歳まで雇用することを義務づけようとしていますが、問題だと思うんですよね。おかしいと思うのは、全体のパイが限られているのに、上の世代の人たちが仕事の内容に見合わない給料をもらってしまっていることで、その部分は適正化しなければいけないと思います。

考えるべきことは、全体のパイを大きくすることです。だから雇用の仕組みは断片的に直しても意味がなくて、全体の仕組みを変えなければいけないと思うんですよ。ですから40歳定年制にして、そこから職務給にするというのは、僕もすごくいいアイデアだと思います。若いうちは、年齢に従って給料が上がっていくという仕組みはある程度必要だと思うんです。しかし一定以上の年齢になったら、やっている仕事に応じて対価を払うというのは、基本的に大賛成ですね。

ですが、あまりマクロの状況を嘆いていても仕方がないので、自分たちのできることから変えていこうと思っています。僕の会社では、新卒一括採用ではなくて、30歳未満までは「新卒」として受け付けるようにしているんですよね。個人としても、自分自身の人生をよくしていくためには、それぞれが努力をするしかないんじゃないのかなと思っています。

 まったくそのとおりだと思いますね。

(撮影 有光浩治)

▼城繁幸氏(じょう・しげゆき) 1973年生まれ。97年東京大学法学部卒業、富士通入社。2004年に退職し、『内側から見た「富士通」成果主義の崩壊』を上梓、以後、人事コンサルタントとして活躍。コンサルティング会社「Joe's Labo」代表。著書に『日本型「成果主義」の可能性』『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『7割は課長にさえなれません』『世代間格差ってなんだ』等。

▼岩瀬大輔氏(いわせ・だいすけ) 1976年埼玉県生まれ。98年東京大学法学部卒業。2006年ハーバード大経営学修士。外資系コンサルティング会社などを経て、現在ライフネット生命副社長。著書に『ハーバードMBA留学記』、『生命保険のカラクリ』、『入社1年目の教科書』、『入社10年目の羅針盤』など多数。

[日経プレミアPLUS Vol.1の記事を基に再構成]

「日経プレミアPLUS」はハンディな新書サイズで、ビジネス、経済、生活情報など、盛りだくさんの情報を伝えるビジネスパーソン向け「マガジン型新書」。6ページ~十数ページの読み切りやすい構成で、通勤時など、すき間時間に最適。佐藤可士和、石田衣良、瀧本哲史といった豪華執筆陣による連載にも注目。2012年10月より毎月発行。730円(税込み)

日経プレミアPLUS VOL.1

著者:
出版:日本経済新聞出版社
価格:730円(税込み)

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