/

相手の裏かき悲願の「銀」 卓球女子監督・村上恭和(上)

カリスマ性があるわけではない。巧みな弁舌をふるうタイプでもない。ロンドン五輪で卓球女子を率いた村上恭和(54)を例えるならば、娘を温かく見守る口数少ない父親といったところだろうか。それでいて、相手の裏をかく勝負師でもある。資質を存分に発揮したのが初のメダルを懸けた大一番でのことだった。

勝負師の本領、五輪初の銀メダル

団体の準決勝、シンガポール戦前夜。村上は一人、選手村近くのスポーツバーにいた。愛用の手帳と「iPad」を傍らに置き、相手の技量・戦術を日本の3選手と何度も比較し直す。団体戦のオーダーをシミュレーションし、あれこれと思いを巡らせていた。

北京五輪では前監督の近藤欽司の下でヘッドコーチを務めたがメダルに一歩届かず。北京後に監督に昇格した。

卓球が五輪競技になった1988年のソウルからおよそ四半世紀。悲願達成を担った村上と同じ船に乗ったのは、27歳の平野早矢香、23歳の福原愛、19歳の石川佳純という4歳ずつ違う"三姉妹"だ。

村上はロンドンでメダルを争うのは韓国かシンガポールと想定していた。早々に代表メンバーを固定。試合を左右するダブルスでは、カット主体の韓国なら緩急自在に攻められる平野・石川組を、台の近くに立つ前陣形のシンガポールにはカウンターに強い福原・石川組をあてようと決めた。

試合前夜、ペアの組み合わせ悩む

「相手の戦術に合わせた練習もやってきた」。が、直前になってそれを覆すべきか悩んでしまったという。

きっかけは、準決勝の対戦相手がシンガポールに決まった後のミーティングで石川が発した一言だった。村上が当初の予定通りに福原・石川組で戦うと伝えると、「平野さんと組んだ方が勝つチャンスがあると思うんですけど……」。

五輪前1年間は平野・石川組は試合に出ておらずリスクと言えたが「若い石川が異を唱えた。めったにないこと」と村上。

他の2人の意見を聞くと、平野は「自信がない」。福原も「わからない」。「あした練習してみて決めよう」と引き取ったが、内心は「選手は早く覚悟する必要がある。今晩中に決めなければ」。

真ん中にダブルスを挟み、シングルスが4試合。シングルス2試合を受け持つのはダブルスに出ない選手だ。どのペアで戦うかによって、ゲームの展開は変わってくる。

試合前練習見て「銀」を予感

彼我の力量差や勢いを読んで戦略を立てるのは「団体戦に強い」と定評のある村上の得意分野だが、試合前夜のこの苦慮の時こそ、「五輪で最大のヤマ場」(村上)といえた。

どこで3つ勝つか。シングルス2試合には個人銅のフェン・ティアンウェイが出てくる。ダブルスは落とせない。残るシングルスを2つ取れるのは福原だろうか。

バーで約3時間悩み抜いた結果、「選手が進言してくれた意味は大きい。相手の裏をかけるかもしれない」と腹を決めた。

翌日の試合前の練習を見て、村上は胸中で笑みを浮かべた。「相手は福原がダブルスに出てくると思い、彼女の使う特殊ラバーを打ち返す練習をしていた」。これならダブルスは取れる。銀メダルを予感した瞬間だった。

(敬称略)

〔日本経済新聞夕刊10月22日掲載〕

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン