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アジアで準V サッカーU16代表は何を得たのか

サッカージャーナリスト 安藤隆人

来年のU-17W杯出場権を獲得し、喜ぶ日本イレブン

2年に一度開催されるサッカーのU-16(16歳以下)アジア選手権(6日まで、イラン)で、日本は決勝でウズベキスタンにPK戦の末に敗れたものの準優勝を果たした。彼らはどんなサッカーを披露し、大会を通じて何を得たのか。そして彼らの中から、未来のフル代表に選ばれる選手が出てくるのだろうか。

来年のU-17W杯出場権をかけて

大会が開かれたイランは現在、核兵器開発疑惑をめぐり、欧米から厳しい経済制裁を科されている。このため、大会開催期間中もテヘラン市内で物価上昇による大規模な市民デモが起き、警戒に当たる治安当局との間で衝突が起きていた。

そうした緊張高まる国に、16歳以下の若きサッカー選手たちが集まり、アジアナンバーワンの座をかけてしのぎを削った。

この大会は一次予選を突破した計16か国の代表が4チームずつ4つのグループに分かれ、各組の上位2チームが決勝トーナメントに進むシステム。決勝トーナメントの1回戦を突破して4強入りすると来年、アラブ首長国連邦で開かれるU-17(17歳以下)ワールドカップ(W杯)の出場権が与えられる。

フル代表では昨年のアジアカップで4度目の優勝を飾った日本だが、年代別代表になると、簡単にはアジアで勝てない。3大会連続でU-17W杯に出場しているものの、直近の5大会(2002年~10年)ではU-16アジア選手権で優勝したのは06年の1度しかない。

ベンチで戦況を見守る吉武監督(右)

「全員攻撃、全員守備」を志向

今回、U-16日本代表を率いたのは吉武博文監督。前回の10年大会でもU-16代表を率いて4強入りして、翌年のU-17W杯ではチームをベスト8に導いている。その手腕を買われ、連続して指揮をとることになった。

吉武監督のサッカーはFCバルセロナのスタイルに近い。布陣も同じ「4-1-2-3」を敷き、丁寧にパスをつなぎながら、「全員攻撃、全員守備」のスタイルをとっている。

「この形で全員でパスを回していけば、日本人が不利とされるフィジカルコンタクトを避けることができる。マイボールの時間を長くすれば、それだけ自分たちが主導権を握れる」と吉武監督は話す。

実際、昨年のU-17W杯ではジャマイカ、フランス、アルゼンチンといった強国が並んだグループリーグにおいてボールポゼッションで圧倒して首位通過。決勝トーナメントでも1回戦ニュージーランドに6-0で大勝し、準々決勝ではブラジルを相手に2-3という接戦を演じた。

北朝鮮戦でゴールを決め、喜ぶ中村(左)

日本は強豪ぞろいの厳しいグループに

こうした手応えから、吉武監督は今回のチームにおいても同様の手法を導入した。傑出した「個」には頼らず、「全員守備、全員攻撃」――。特定の選手を軸にしたチーム作りではなく、献身的で、技術があって、1人で複数のポジションをこなすことができる……そんな組織として戦える選手を基準に選考してきた。

今大会、日本は「死のグループ」と呼ばれる最も厳しいグループに入ってしまった。中東の強豪・サウジアラビア、アジアのライバル・韓国、年代別代表は無類の強さを誇る北朝鮮。このため、グループリーグ突破を危ぶむ声も出たほどだ。

緊張も見えた初戦、2-0で白星

実際、日本はグループリーグで苦戦した。初戦のサウジアラビア戦、明らかに選手たちは緊張のしすぎだった。試合会場となったテヘランのPASスタジアムはピッチが固く、デコボコで、イレギュラーする。しかもテヘランが高いところでは標高1600メートルほどの高地にあることから、ボールの反発力も高く、バウンドも大きい。

ショートパスでの組み立てを身上とする日本のサッカーをするには、難しい部分が多かった。また、中東のチームの徹底したロングボールと、ミドルシュートに手を焼いた。

それでも得点シーンは日本の良さが出た形だった。ゴール前で細かくつないで、サイドバックや2列目の選手が飛び出してゴールに迫る。先制点は左のクロスから右サイドバックの佐々木渉(FC東京U-18)が蹴り込み、2点目はFW杉本太郎(帝京大可児高)が2列目から飛び出して、ゴールに突き刺した。初戦は2-0でものにした。

しかし、第2戦の韓国戦ではポゼッションで優位に立ちながら、韓国の個の力を警戒しすぎてDFラインが下がってしまった。一瞬のスキを巧みに突かれる形で失点を重ねて1-3で敗戦。グループリーグ突破に黄信号が灯った。

日本の攻撃の核の1人である中村。初先発した北朝鮮戦では先制ゴールを決めた

北朝鮮戦で初先発コンビ活躍

決勝トーナメント進出を賭けた運命の第3戦。相手の北朝鮮は勝てばグループリーグ突破が決まるだけに、立ち上がりから全身全霊で攻めてきた。それに対し、日本はポゼッションで相手をいなしながら、パスで崩して点を奪うという吉武監督が志向していたサッカーを見事に具現化してみせた。

この試合で目立ったのが、FW中村文哉(G大阪ユース)とMF三好康児(川崎U-18)の初先発コンビだった。

「自分は10番を背負っているのに、ずっと出られなかった。その分、自分が決めるつもりでプレーした」という中村が先制点をたたき込むと、その後も中村と三好がポジションを入れ替わったり、果敢に相手の裏のスペースに走り込んで、北朝鮮の守備陣を混乱させた。

中村は2点目もアシストして、3-0の快勝に大きく貢献。日本は見事にグループリーグ突破を果たした。

開始早々に中村が負傷退場、全員でカバー

この勝利が選手たちを波に乗せた。続く決勝トーナメント1回戦のシリア戦で、吉武監督はこの流れを引き継ごうとメンバーを北朝鮮戦から1人しか変えなかった。

その狙いは見事に的中した。開始早々に中村が負傷退場するアクシデントこそあったものの、その穴を全員でカバー。0-0で迎えた後半35分に途中出場のFW杉森考起(名古屋U-15)のゴールで先制し、その2分後には三好のシュートの跳ね返りを杉本が押し込んで加点した。

その後のシリアの猛攻を全員が体を張って守り、1点こそ返されたものの、2-1で逃げ切った。吉武監督の目指すサッカーを貫き、これで4大会連続のU-17W杯出場を決めたのだ。

準決勝では先発全員を入れ替え

最低限のミッションを達成した吉武監督は、何と次の準決勝のイラク戦でスタメンを全員入れ替えた。この起用について問うと「コンディションがいい選手を使うということなので、これがベストメンバーです」とはっきりと答えた。

結果は5-1の圧勝。今大会初先発となったFW大西勇輝(京都U-18)の先制点を皮切りに、ゴールラッシュを見せた。

この起用法には現地メディアも不思議がり、「なぜ日本はこんなにコロコロとメンバーを変えるのか? 次の試合はいったい誰を使うのか?」とプレスカンファレンスで何度も質問が飛んだ。

3ゴールを挙げ、大会MVPとなった杉本

決勝はPK戦で屈したが…

決勝では1-1からのPK戦(1-3)で惜しくもウズベキスタンに屈したが、日本はこの大会で全6試合を戦って、23人全員がプレーした。さらに第3GKの田口潤人(横浜Mユース)以外は全員が先発を経験。これは、いわゆる"消化試合"が1試合もなかった状況下での数字だ。

「選手の出場時間が180分以下にならないように考えた。その中でコンディションがいい選手をピックアップして起用していった」と吉武監督。

傑出した個に頼らない、全員で戦うチームを作り、結果に結びつけた吉武監督。日本は惜しくも準優勝に終わったが、チームとしての組織力、サッカーの質は間違いなく今大会ナンバーワンだった。

そして、この大会を通じて、選手も大きく成長した。大会MVPを獲得した杉本は、前線でボールを失わず、着実に味方につなげるだけではなく、果敢に前に飛び出して、精度の高いシュートを放って今大会3得点。日本のポゼッションサッカーの中心的な存在となった。

三好は最初途中出場のみだったが、短い時間でも「全体の流れを考えて、自分が攻撃にアクセントを加えたかった」と、ミスの少ないプレーと精度の高いパスを武器に、何度もチャンスを演出。

徐々に杉本とともに攻撃の中核を担い始めると、三好は準決勝、決勝とフル出場。今大会でただ1人全試合出場を果たしたように、吉武監督の最も信頼が厚い選手に成長した。

他にもDFリーダーの宮原和也(広島ユース)、北朝鮮戦とシリア戦でPKを2本セーブし、杉本に「影のMVP」と言わしめたGK林瑞輝(G大阪ユース)ら、大会を通じて頼もしい存在に成長していった選手は多い。

酒井(中央)らDF陣も奮闘した

組織と個の融合が課題

韓国、オーストラリアといったアジアの強豪が、中東勢やウズベキスタンの勢いに飲み込まれ、4強に勝ち残れずにU-17W杯切符を逃す中で、日本はたくましく生き残った。

サッカーの質にこだわった日本の姿勢が、選手個々の成長を導き、うまく結果につながったといっていい。

しかし、すべてがうまくいったわけではない。グループリーグでは韓国に敗れているし、優勝も目前で逃した。前々回(08年)のチームのFW宮市亮(ウィガン)やMF宇佐美貴史(ホッフェンハイム)、柴崎岳(鹿島)、前回(10年)のチームのDF岩波拓也(神戸)、植田直通(大津高、鹿島内定)のように、将来が約束されているようなタレントがいるわけではない。

いまの方向性を順守しつつも、やはりすべての局面を変えてしまうような傑出した個の存在もほしいところだ。組織と個の融合――。これができたときこそ、日本がさらに上のステージに行けることになるだろう。

第二の香川、本田は現れるか

16歳以下の選手にとってイランという未知なる国で過ごした2週間は、きっと刺激的で、人間的にも大きく成長するきっかけになったに違いない。

「全く違う環境で、こんなに長くみんなといて、すごくチームとしてまとまれた。それがアジア突破(U-17W杯切符獲得)の大きな要因になったと思います。世界に向けてもっともっと個々が成長して、それぞれの欠点を修正して、進化させていくことが大事だと思います」とMF鈴木徳真(前橋育英高)。

今大会を通じて、全員で戦い切る重要性を実感することができた。そして、U-17W杯切符をつかんだことで、もう1年、このチームで上を目指して戦っていける。これは、今回はメンバーに選ばれなかったU-16世代の選手全員にいえることであり、目標を世界に定めて日々を過ごせることこそ、育成世代の選手にとって非常に大きなメリットになる。

果たして、チャンスをつかみ、世界の高いレベルを経験して、さらなる成長を遂げていくのはどの選手か。こうした経験を通じて、第二の香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、第二の本田圭佑(CSKAモスクワ)が現れるかもしれない。日本サッカーの将来は彼らの成長が重要なカギを握っている。

(写真もすべて安藤隆人氏提供)

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