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日本ハム優勝の陰に栗山監督の2つの「情」

就任1年目の日本ハム・栗山英樹監督によるパ・リーグ制覇は今年のプロ野球で一番のサプライズともいえる。ダルビッシュ有が抜けた穴は大きく、私もAクラスがギリギリのところではないかと予想していた。しかし、振り返れば、なるほどと思えることがある。「栗山日本ハム」の勝因を探ろう。

楽天・星野仙一監督が常々言っていること

監督の心構えとして、欠かせない「情」が2つあると、楽天・星野仙一監督が常々言っている。それは選手・スタッフに対する「愛情」と「非情」だそうだ。

柔和なイメージから想像できる愛情のみでなく、非情を併せ持っていたのが栗山監督かもしれない。

栗山監督はヤクルト時代の同僚でもあり、私は3月の開幕シリーズを札幌で取材した。コーチ陣に対する気遣いに、それまでみたこともないような種類の「愛情」をみた。

吉井コーチらに「お願いベース」で

吉井理人投手コーチと話しているときのこと。監督より年下の吉井コーチだが、選手時代の実績はもちろん、指導者としての経歴も"先輩"である。その吉井がどうも監督の力量を値踏みするかのような話し方をしているように見えた。

新任の上司が赴任してきたとき、どれだけの人物か試してみるのはプロ野球の世界だけではないだろうが、栗山監督は全く気にするそぶりもなく「お願いベース」の話し方をしていた。

監督としては投手の登板前の準備の仕方などについて、変えたい部分があったようだ。それを一軍の将とは思えない腰の低さで「お願い」しているのである。

吉井コーチに対してそうだから、1つ年上の福良淳一ヘッドコーチに対し、より低姿勢で接していたのは言うまでもない。

「そんなにみんなに気を使っていたら、胃を悪くしますよ。言いたいことはどんどん言ったらいいじゃないですか」と思わず栗山監督に口にしてしまった。

「何か気づいたことがあったら教えてくれ」

しかし、それは余計なお世話だったようだ。栗山監督は結局シーズンを通して、姿勢を変えなかった。あの身のこなしはおそらく天性のもので、だれにでもできることではない。

更に、だれにでもできるわけではないことがもう一つあった。

1つ年下の私に「何か気づいたことがあったら教えてくれ」と言うのだ。評論家としての顔を立ててくれる社交辞令みたいなものかと最初は思ったが、会話を重ねるうちに純粋に情報と意見を求めているらしいことがわかってきた。

各球団を取材していて監督に教えを請われたのは初めてだった。

無用に意地を張ることもなく

監督になる人は「自分を有能に見せたい」「野球の見識があると見せたい」「俺は優秀で監督に選ばれた」という妙なプライドがあって、見えを張りたがる。1年生監督ならなおさらだ。

そのプライドゆえに人の意見に耳を傾けず、また、自分を過大評価するあまり判断を誤り、結局、監督業を失敗することが多い。つまり、頭を下げて意見を聞くことなどできない、というのが監督という"種族"だ。

ところが栗山監督に限ってはそうしたつまらないプライドもなければ、無用に意地を張ることもない。

現役を引退してから監督になるまで、ずっと解説者を務めて、現場で指導したことがなかった栗山氏を「素人」とみる向きもあった。素人で結構、素人なのだから誰に教えを請うても恥ずかしくないでしょう、という姿勢を取れたことがすごいところだ。

色々、アドバイスをもらったあとで取捨選択すればいいのだから、情報や意見は、多くもらっておいて損はない、というところまで考えていたのではないだろうか。

4番に据えた中田翔を辛抱強く見守ったのも「愛情」の表れといえる。

では監督として不可欠な「情」のもう一つである「非情」はどこに……。それは斎藤佑樹の起用法に表れている。

「斎藤開幕投手」のもう一つの意味

5月のこのコラムで斎藤の投球を取りあげた。その時にも触れたが、栗山監督は斎藤への期待だけで、開幕投手に任命したのではないということを最初からほのめかしていたのだ。

開幕投手になると、先発の中6日起用が各チーム共通の回し方になった今、しばらく各チームのエースと対決が続くことになる。

そこに「斎藤開幕投手」のもう一つの意味があった。日本ハムには安定感なら斎藤よりはるかに上の武田勝、ブライアン・ウルフといった先発陣がいる。相手エースが出てくる連戦の初戦に彼らをぶつけて負けるとダメージが大きい。それより2、3戦目に彼らを回し、確実に白星を拾っていこうという思惑なのだった。

期待していると話す一方で…

斎藤に期待していると話す一方で、各チームとの3連戦のなかで、初戦を落としても、2、3戦目を勝てば良い、という「したたか」な考えだ。

つまり、毎週、6試合するなかで4勝2敗を目標に考えるということだ。

斎藤の将来性に期待している、と発言する一方で、負けても武田やウルフで勝てば良い、という、2つのスタンダードを持つ。そこに情を捨てられる栗山監督の姿があったのだ。

もちろん大化けの期待もあったに違いない。しかし、その裏ではしっかり計算もしている。こわい監督ではないか。

優勝するチームには多少の幸運も必要で、6年目の吉川光夫が突然開花して2ケタ勝利を挙げたかと思えば、3年目の増井浩俊も立派なセットアッパーに成長した。2人がメジャーに移籍したダルビッシュの穴を埋めたのは幸運だった。

とはいえ、愛情と非情を絶妙に使い分ける栗山監督の存在がなければ、優勝はおぼつかなかったに違いない。

「非情」の部分は来季以降もっとはっきりと?

「非情」の部分はおそらく来季以降、もっとはっきりした形で出てくると私は予想する。今年は自身の球歴に対する引け目や、先輩コーチへの遠慮があったが、優勝監督になったからには、何もためらうことはない。

たとえばベテランの金子誠あたりをどう処遇していくか。動きをみると遊撃手としては守備範囲も含めて、もうギリギリのところにきている。

西武との首位攻防シリーズで金子がゴロをファンブルしたばかりに併殺が取れず、西武に勝ち越された一戦があった。

このとき栗山監督は徹底して金子をかばった。「マコトらしく、きっちり勝負したね」

併殺が取れるかどうか微妙な打球に対して、あくまで1点もやらないという気持ちで突っ込んでいき、その結果たまたま失敗したというのである。

「ニコッと笑ってバッサリ」ができるタイプ

金子としては悪い気はしないだろうが、来年もこの優しさが続くかどうかはわからない。それどころか、遊撃が無理だと判断したとき、栗山監督はあっさりとコンバートに踏み切る可能性がある。三塁か二塁か。

三塁には小谷野栄一がいるし、二塁はケガをしているが田中賢介がいる。ベテラン勢には厳しい椅子取りゲームになる。

そういう配置転換を平然とやりそうなのが栗山監督。時代劇でいうと「ニコッと笑ってバッサリ」ができるタイプだ。振り返ればヤクルトの現役時代からそういう割り切りの早いところは見え隠れしていた。

栗山監督のコメントを注意深くみると、細部に神経が行き届いているのがわかる。選手を褒めるときは実名を出し、しかるときは「勝負どころで弱い」といったチーム全体の話にもっていく。見る人が見れば誰のことを言っているのかわかるが、表面的にはぼかしている。

これはテレビ朝日の報道ステーションのコメンテーターとして名を売った栗山監督としては朝飯前の芸当だと思う。人を褒めるばかりなら誰でもできるわけで、ひとかどの解説者となるには批評がなくてはいけない。

栗山監督を起用したフロントの勇気

個人攻撃にならないように批評らしきことを語るテクニックはあの時代に磨かれ、選手操縦に生かされている。

ユニホームを着ていなかったという、普通はマイナス材料になることをすべてプラスに転じさせた。それが栗山監督である。

そして、付け足しになるが、栗山氏を監督に起用したフロントも賞賛したい。

梨田昌孝監督の後任を選ぶ過程でどんな議論があったか知らないが、指導経験のない人を起用するには、よっぽどの根拠や確信が要る。来年以降の成績は保証の限りではないけれど、今年はその球団の人を見る目がピタリと当たったのだ。広い視野で監督人事をした勇気あるフロントにも金メダルが与えられるべきだろう。

結局、プロ野球の世界も 現役時代の功績による"論功行賞"では 結果を残せる組織は作れない、ということである。

(野球評論家)

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