ジーターらが語るイチローの素顔 - 日本経済新聞
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ジーターらが語るイチローの素顔

シーズン最終戦までもつれ込むオリオールズとの激戦を制して、ア・リーグ東地区で連覇を成し遂げたヤンキース。7月に移籍したイチローも、10年連続200安打を放ったころの輝きを取り戻し、優勝に貢献した。「9月の大きな活力となった」とジラルディ監督も話す。ロッカールームではチームメートを笑わせ、「こんなにオモロイ面もあったのか」と評判に。後半戦、チームの"ホット"な選手となったイチロー。ジーターらが語るイチローは……。

米国の記者も驚く仲の良さ

「イーチ」。ロッカールームに、ややハイトーンなジーターの声が響く。横ではイチローがニヤニヤしている。この2人、やたらと仲がいい。

ロッカールームの中だけでなく、試合前の打撃練習や試合中のベンチでも……。「9番イチロー、1番ジーター」、または「1番ジーター、2番イチロー」と打順が近いからか、なにやらよく話している。

イチローは、ジーターが好きなのだ。野球好きの少年がスターにあこがれるような感じか。ジーターもイチローに好感を持っているようだ。

「ジーターはイチローを好きだよね。しょっちゅう話しかけているだろう」

スポーツ専門局ESPNの記者も驚いていた。新参者を気遣うレベルを超えているというのだ。

「どうしてこんな簡単にヒットが打てるんだ?」

どんな話をしているのか。「どうしてこんな簡単にヒットが打てるんだ、って突っ込んでくる」とイチローはうれしそうに話す。さらに詳しい内容を聞こうとすると、「それはジーターさんに」とつれなくなった。

というわけで、ジーターにイチローについて聞くことにした。

ヤンキース一筋18年、通算3304安打を放っているジーターはヤンキースだけでなく、大リーグの中でも「超」が付く、特別な存在だ。本人が意図的にしているわけではないだろうが、近寄りがたい。

同じ38歳で親近感?

しかし現在38歳、徐々に同世代の他の選手が引退していく寂しさもあるだろう。同じ年(イチローは22日で39歳になるが……)のイチローには親近感が湧くのだろうか。

「そうなんだ。イチは何年にデビューだっけ? 2001年からこっち(米国)でプレーか。日本時代もあるよね。僕のキャリアと重なる数少ない選手。だからお互いいいプレーができるとうれしいんだ」と、ジーターは語る。

そう話しているところに、イチローがロッカールームに戻ってきた。「断っておくが、イチは僕より年上だから。サダハル・オー(王貞治)とプレーしていたくらいだからね(笑)」とジーター。

「ロッカールームでいつも笑わせてるよ」

イチローはサングラス越しにニヤニヤ。「お前、酔っぱらってるだろ」とイチローがいえば、「お前こそ」とジーター。

この2人、ロンドン五輪の女子サッカー決勝で、日本と米国のどちらが勝つか昼食を賭けたこともあった。結果は米国が勝って、ジーターは大喜び。こうした他愛もないやりとりは大切な息抜き。「イチとふざけるのが楽しいんだ」とジーターはいう。

「敵のときは、ジーターのような(ビシっと決める)タイプかと思って見ていたら、(外野手の)スウィシャータイプだったんだね。ロッカールームでいつも僕らを笑わせてるよ」と、ケビン・ロング打撃コーチも話す。

自らを「party guy」というスウィシャーによると、「イチは僕を笑わせてくれる。こんなに面白いとは思わなかった。試合への準備はまさにプロだけどね。僕にはマネできない……。僕はジョークばっかりだけれど、イチほど試合に集中する選手を見たことがない」

2人ともバットを持った魔術師

「今、世界で最もすごいリードオフマンが2人も、ここ(ヤンキース)にいるんだよ。右打者のジーターと左のイチ。2人ともバットを持った魔術師。どうにかしてバットにボールを当て、フィールドの穴を見つけて運んでいく。見ていて壮観、興奮するよ」とスウィシャー。

ボールをギリギリまでひき付けて右中間に流し打つジーター。悪球だろうがどんなボールもはじき返すイチロー。「タイプが僕とは違うからイチを見ていて楽しいよ。でも、僕はイチのすることをやるつもりはないし、イチも僕のやっていることはしないと思う」とジーターはいう。

ジーターのバットは今シーズンの序盤からずっと"ホット"だったが、イチローはヤンキースに移籍してきた当初、打率は2割6分程度。守備と走塁に対する期待は高くても、打撃はそれほどでもなかった。

「一つ一つ重ねることで結果が特別に」

その証拠に起用法は一定せず、外野のユーティリティープレーヤーという感じ。相手が左投手のときは先発を外れ、2試合連続ベンチスタートということもあった。ヒットは打っても、得点や勝利につながらない試合も決して少なくはなかった。

そうした起用法が一貫しない中での調整法に話が及ぶと、「今日はここまで」。試合後の取材は打ち切られた。

そんなイチローだったが完全に"全開"となったのは、9月19日のブルージェイズとのダブルヘッダー。1日に計7安打と、まさに打ち出の小づちのようにヒットを連発した。イチローの変貌ぶりに驚いたのか、米メディアは「何をしたのか?」としつこく聞いていた。

「していない。一つ一つ重ねることで結果が特別なことになる。米国人って面白いよね。『何が違うのか?』って何度も聞くんだ。一緒だよ。何か違いがあると思っていないから。それが野球。打撃の技術を全く理解していない質問に驚いているよ」とイチロー。

ジーターにイチローについて質問していると、そばにいたイチローが口をはさんできた。「彼(ジーター)はその質問には答えないよ」

「そもそもイチはヒットを打てる選手」

「イチは"ウソツキ"(日本語で)」とジーターは笑顔で返した後、こう続けた。

「そもそもイチはヒットを打てる選手なんだよ。僕たちには打てる時期というものがある。今、イチがホットなんだ。12年間もメジャーでやってきたんだし。もともと才能があるんだ」

イチローは、ヤンキースでリズムをつかんだということか。「一定のルーティンをこなす姿はずっと変わらないよ。ちょっと手が後ろ気味、とか、メカニカルな点は話したけれど、大した差じゃない」と、ロング打撃コーチも語る。

休みを与えられたことでフレッシュに

しかし、マリナーズ時代とは決定的な違いがある。「休みを与えていること。彼をずっとフレッシュな状態にしておきたいんだ」とジラルディ監督。

ジラルディ監督は慎重すぎるくらい、選手を休ませる。イチローはマリナーズ時代、毎年のように160試合以上出場していた。日本では"皆勤賞"は一種の勲章だが、メジャーでは違う。

20連戦も珍しくなく、時差のある移動もきつい。1年間、一定のコンディションを保つことが一番大切なのだ。莫大な年俸を払っているのだから、疲れ気味で出場してケガしても困る。

「毎年162試合もプレーするのは無理だし、誰の利益にもならない。20代の選手だって、全試合出場なんてしないだろう。コンディションは下がるし、後々響いてくるんだ」とロング打撃コーチ。

地区優勝を決めた試合では、監督から交代を打診されたものの、「迷いなく自分は『行く』っていった瞬間、いつもの自分と思った」とイチロー。結局、その日のスタメンで最後まで出場し続けたのはイチローとスウィシャーだけだった。

ジーターはメジャー18年で最も多く出たのが97年と05年の159試合。今季も159試合だが、負担の少ないDHでの出場も25試合ある。

休むからこその効果を、イチローも感じているようだ。終盤に交代することについて、「(監督の気遣いを)感じますね。けっこう楽なんですよ。最初から最後まで出ない試合って。次の日の準備ができたりとかね」。

「休んだことが、イチローの調子が上がった一因だと思う」とロング打撃コーチもいう。

ファッションでも"ホット"

余談だが、イチローが"ホット"であり続けたトピックがある。様々なオリジナル機具を用いて、わざわざロッカールームでやるストレッチ(ヤンキースタジアムには広大なスペースが奥にある)、特製のバットケース、整然と並べられた化粧品に靴……。その中でも度肝を抜いたのはファッションだった。

ピンクのTシャツにそろいのソックス、ロールアップしたジーンズ……。日本のファッション誌で若い俳優やタレントがしそうな格好だが、米国では「女の子っぽい」と感じるらしい。

「彼(のファッション)にはスタイルがある」。チーム内でもおしゃれなスウィシャーとグランダーソンが口をそろえたが、ちょっと間があった。「自分に自信があるんだと思うよ」とグランダーソン。

「イチにはスタイルがある。でも、僕とは全然違う。僕は絶対着ない。いいか『never ever(絶対しない)』の部分は必ず訳せよ」。ジーターが念を押していたのがおかしかった。

(原真子)

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