2018年7月18日(水)

企業も企業小説もまず「人間」 池井戸潤×池上彰対談(1)

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2012/10/2 6:30
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 「仕事っちゅうのは、金儲(もう)けじゃない。人の助けになることじゃ」。池井戸潤氏が日経電子版で連載した「七つの会議」に出てくるフレーズです。企業小説(企業推理小説)とされる分野を開拓してきた池井戸さんの作品は会社という存在の根本を問いかけています。一方、ジャーナリズムの側から組織の問題に切り込んできたのが池上彰さんです。池井戸さんと、その作品のファンであるという池上さんの対談が実現しました。仕事論から小説論、人間論へ。対談の内容を4回にわたって連載します。

ジャーナリストの池上彰氏=左=と作家の池井戸潤氏

ジャーナリストの池上彰氏=左=と作家の池井戸潤氏

■小説作りはロングパット

池上 いろいろ聞きたいことはありますが、まずは、日経新聞電子版で連載していた小説「七つの会議」について話を聞きましょうか。この作品は非常に面白かった。とてもよく考えられている。色々な登場人物が出てきて、それぞれの人がそれぞれの段階で主役になる。なおかつ、それぞれの人物がなぜそういう性格になったのかなど、生い立ちが詳細に描かれている。少しずつ謎が解けていくが、実はその裏があったとか、どんでん返しになりますよね。こういった作品を書くときは、最初から綿密なプロットを作っているのですか。

池井戸 いえ、プロットはざっくりとはありますが、事前に詳細に作ることはありません。ゴルフでいえばロングパットという感じです。色々な傾斜があり、思わぬ転がり方をしたりもしますが、こっちの方向に向かうというのは決まっています。どんな登場人物が出てくるかまでは、最初は決まっていません。1章を書き終えてから、次の章の主人公は誰にするか、そして人となりをどうするかなどを考えます。全てアドリブですね。

池上 小説は、書き始めると登場人物が勝手に動き始めることがあると聞きますが、実際にそういうことはありますか。

池井戸 あります。しかし、あまり勝手に動かれてしまうと収拾がつかなくなるので、ゴルフでいうとカップの位置は意識しています。

池上 登場人物が勝手に動き出したら、ブレーキをかけるわけですね。

池井戸 あまりに登場人物に任せて書いてしまうと、大変なこともあるんです。例えば、「下町ロケット」では、若手社員が主人公の社長に反発するシーンがある。書いているときは若手の気持ちになってガンガン筆を進めましたが、妙に説得力がでてしまい、(社長側から)反論できないくらいになってしまった。連載だったので、社長の反論を書くまで1週間あったんですが、「どうやって反論するんだ、これ」と困ってしまった。でも作者が一番困る箇所こそ、読者にとって一番楽しいところなんですよね。読者も、「これはどうやって反論するのかな」と思って読んでいる。次の展開に持っていくには(筋立てや論理構成について)発明なり工夫なりが必要になるんです。ここをうまく乗り越えられれば、物語が生きてくる。リアリティーのある小説になるんです。

池上 連載を書いている小説家の中には、途中で物語が破綻をきたして、単行本にするときに相当書き直す人は多いと聞きます。そういうことはないのですか。

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