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激戦ア・リーグ東地区、ペナントのカギ握る"日本組"

スポーツライター 杉浦大介

群雄割拠の大リーグのアメリカン・リーグ東地区で、今季もヤンキースが前評判通り首位に立っている。トレードの締め切り直前、駆け込みでイチローを獲得して話題を呼んだ。このまま順当に地区を制覇するのか。チェン・ウェインがエース級の働きで引っ張るオリオールズ、松井秀喜に戦力外として心機一転を狙ったレイズ、ボビー・バレンタイン監督が苦闘するレッドソックスが追い上げるのか。多くの日本球界経験者が所属し、一段と興味深くなった地区優勝の行方を占う。(記録は8日現在)

本命ヤンキースに理想の助っ人

ア・リーグ東地区の首位を快走していたヤンキースは7月23日、イチローの獲得を発表して全米を驚かせた。

「スピードと守備力を供給するブレット・ガードナーがケガで戦線離脱してしまった。その穴を埋めるためイチローは適した存在だったんだ」

8月6日のタイガースとの試合前、ジョー・ジラルディ監督は改めてイチロー獲得の理由をそう述べた。

好調のチームにとって、明確な欠点と言えたのがスピードと外野守備の物足りなさ。それを埋め合わせるため、打力は衰えが目立っても、いまだ高いレベルの走力と守備力を保ち、しかも今季限りで契約が切れるイチローは理想的な補強要員だった。

イチロー効果は限定的?

もっとも、このトレード以降のヤンキースが調子を上げているわけではない。オールスター以降は12勝13敗で、イチロー獲得以降でも7勝8敗。7月18日時点で10ゲームあった2位との差が、現在は4.5ゲームまで縮まっている。

今季のヤンキースは実はケガ人が多い。8月には入っても、抑えの切り札のマリアーノ・リベラ(今季復帰は絶望)、2番手先発のはずだったアンディ・ペティット(9月復帰か)、4番打者のアレックス・ロドリゲス(8月末に復帰予定)が離脱している。

選手層の厚さでしばらく乗り切ってきたが、経験豊富な主力の不在がここに来て響いてきた印象がある。打線で結果を残しているのはデレク・ジーター(打率3割1分5厘、8本塁打)、ロビンソン・カノ(3割1分6厘、24本塁打)くらいだ。

「本塁打に頼り過ぎ」の声多く

ニック・スウィシャー、イチロー、マーク・テシェイラ、カーティス・グランダーソン、ラウル・イバネス、ラッセル・マーティンはすべて打率2割6分5厘以下にとどまっている。

長打力を生かし必要な得点は挙げていたものの(170本塁打はメジャー1位)、勝っている間も「本塁打に頼り過ぎ」の声が多かった。

先発投手陣もCC・サバシア(12勝3敗)、黒田博樹(10勝8敗)は安定しているが、防御率5点前後のイバン・ノバ、フレディ・ガルシアはもう一つ。このままいけば、足首を傷めて6月27日を最後に戦列を離れているペティットに復帰直後から大きな負担がかかりそうだ。

ラストスパートに影差す高齢化

「私たちが苦しんでいるのは間違いない。しかし開幕直後にも不振の時期はあったし、それを乗り越えてきたんだ。苦しい時期はどのチームにもある。力のあるチームなら、それを乗り越えられるはずなんだ」

タイガースに2連敗した7日の試合後にジラルディ監督はそう語り、今後の立て直しに意欲を燃やす。

イチロー獲得も理にかなっており、ヤンキースが走、攻、守に駒がそろったチームであることは間違いない。ただ主力の高齢化の影響か、夏場に来て全体に覇気が欠けているようにみえる。残り2カ月弱で再び好調の波に乗れるか、大本命の行方に注目が集まる。

このようにヤンキースも決して順風満帆ではない。しかし、それでも最終的に地区制覇は揺るがないと多くの関係者が考えている理由の1つは、2位で追いかけるチームが実績あるレイズやレッドソックスではなく、前評判の低かった古豪オリオールズだからだろう。

古豪オリオールズの健闘は本物か

14年連続で負け越してきたオリオールズは今季、大健闘している。若手の多いフレッシュなロースターがバック・ショーウォルター監督の下で躍動し、リーグのサプライズチームとなってきた。

特に今季からメジャーで活躍するチェンはここまで10勝6敗の好成績。「ダルビッシュ有よりも投球内容は上ではないか」という声が出るほどで、すでにこのチームのエース投手と言える。

しかし、チェン以外の先発陣は極めて心もとない。前半だけで8勝を挙げたジェイソン・ハメルは故障で離脱し、3番手以下はほぼ壊滅状態だ。

33セーブのジム・ジョンソンをはじめ、ペドロ・ストロップ、ダレン・オデイ、ルイス・アヤラ、トロイ・パットンらを中心とした救援陣が支えてきたが、やはり先発投手の安定した投球なしでは限界がある。

失点が得点上回っても貯金たっぷりの不思議

失点(511)が得点(464)より多いオリオールズが、なぜ60勝51敗の好成績を残せているのか、説明するのは難しい。延長戦にもつれ込んだ試合ではなんと12連勝という勝負強さはあるものの、この勢いはどれだけ続くのか。

終盤戦にミゲル・ゴンザレス、クリス・ティルマンら先発投手たちが台頭してくれば、ワイルドカード争いに最後まで残るかもしれない。しかし現実的にヤンキースを追い抜いて地区優勝となると、相当に難しい。

ヤンキースにとっては、6ゲーム差の3位につけるレイズの方が怖いチームだろう。冷静な指揮官、駒のそろった投手陣を擁するレイズには、この4年間で3度プレーオフに進んだ実績がある。

対抗馬レイズは大黒柱復帰

8月7日にはハムストリングを傷めて長期離脱していた大黒柱の三塁手、エバン・ロンゴリアが復帰し、士気が大きく高まることは間違いない。

4月30日にロンゴリアが戦列を離れて以降、レイズのチーム打率は2割3分3厘、出塁率も3割4厘とどん底だった。

てこ入れのため開幕を過ぎても未契約だった松井秀喜を試したが、その松井も34試合で打率1割4分7厘、2本塁打と振るわず、7月25日には戦力外を通告した。

それでも、ロンゴリアのいない85試合で41勝44敗と大崩れしなかったのは投手陣の頑張りがあったからこそ。

デビッド・プライス(14勝4敗)はエースらしい働きを続け、ジェームス・シールズ(10勝7敗)、マット・ムーア(8勝7敗)も上昇気配。ブルペンにも切り札のフェルナンド・ロドニー(34セーブ)が控え、軸のしっかりした陣容と言える。

大逆転でポストシーズン進出の不気味な実績

選手層の厚さで勝るヤンキースを追い抜くのは容易ではない。とはいえ厳しい時期を何とか乗り切ったチームに、精神的支柱の存在が戻ってきた意味は計り知れないほど大きい。ロンゴリアの復帰はデズモンド・ジェニングスやB・J・アップトンら他の主力野手にも好影響を及ぼすはずだ。

ワイルドカードでのプレーオフ進出は十分に射程圏内にある。昨年9月4日の時点でレッドソックスに9ゲーム差をつけられながら、大逆転でポストシーズン進出を果たしている。

昨季のラスト2カ月で17本塁打を放ったロンゴリアが完全復活し、チーム全体が波に乗ればわからない。ヤンキースを慌てさせられるチームがあるとすれば、知将(ジョン・マドン監督)、エース(プライス)、クローザー(ロドニー)、主砲(ロンゴリア)の必要な核がそろったレイズではないだろうか。

昨季終盤に大逆転劇されたショックを引きずったままなのか、レッドソックスは勝率が5割前後と、煮え切らない戦いを続けている。

レッドソックスに流れる不協和音

沈滞ムードを振り払う切り札として登用されたボビー・バレンタイン監督も、思うように仕事を果たせないまま。それどころか、選手たちとのコミュニケーションが足りないと地元では能力を疑う声すら出始めている。

「ボストン・レッドソックスの成功も失敗も、我々すべての人間が分かち合うべきもの。監督を代えるつもりはない。このチームが勝率5割前後にとどまっていることで、バレンタインを非難するのは間違っている」

8月6日には、ジョン・ヘンリーオーナーがそんな声明を発表した。しかし、シーズン中にこうした声明を出した時点で、チーム内の不協和音を認めたようなものだ。このまま成績が上向かなければ、来年は別の監督が指揮を執ることになるかもしれない。

ただ、責任のすべてを新監督に負わせるのがフェアとは思えない。ジョシュ・ベケットが5勝9敗で防御率4.97、ジョン・レスターが5勝10敗で5.36と、先発の2枚看板が不調だ。

松坂復帰も"あとの祭り"か

クレイ・バックホルツ、松坂大輔、ジョン・ラッキー(今季復帰は絶望)も故障が多く、チーム防御率は24位。肝心要の投手陣がこの状態ではどんな優れた監督、コーチでもできることは限られている。

経験豊富な選手がそろった伝統チームを見限るべきではないのかもしれない。だが、今季ここまでの戦いを見ると、この先チーム状態が急激に好転することは想像し難い。

右僧帽筋痛で離脱している松坂は近々、メジャーに戻ってきそうではある。しかし、松坂にとって契約最終年の最後の数カ月は、チームとして目標の見えない中で過ごすことになるかもしれない。

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