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柔道はなぜ期待はずれに終わったか

銀メダルを取ったとはいえ、女子78キロ超級の杉本美香(コマツ)は今大会の日本勢を象徴するような戦いぶりだった。決勝戦も勝てない相手ではなかった。

なのに、攻めずして負けたというか、フラストレーションがたまる試合だった。これまでにも指摘したように、事前に試合に出場しすぎたことなどの調整の失敗があったのだろう。

昔は強い選手と思ってくれたが…

ただ、女子は持てる力を引き出せなかっただけで、まだまだいける。問題は史上初めて金メダルを取れなかった男子だ。

選手層が薄く、体操でいえばそもそもの持ち点が足りない選手が代表になっている。だから、力を出し切ってもメダルに届かない。史上初めて金メダルを取れなかったことも悪い前例になるだろう。負けることに慣れてしまうと、立て直すのは大変だ。

これまでは日の丸を付けていると、審判も対戦相手も強い選手だと思ってくれた。それは格闘技では非常に大きい部分だったのに、そうした"アドバンテージ"も小さくなっていくのだろう。

低迷にはそれなりの理由

男子の低迷にはそれなりの理由がある。まず、男子は女子よりも身体能力の差が如実に結果に出るのに、日本は体力をつけるための練習が少ないことだ。

男子は野球やサッカーというプロの人気スポーツがあり、他競技との子どもの奪い合いが激しいことも一因だ。いずれにせよ、1年や2年では好転しない問題である。

もちろん、個々の選手はコーチの言う通りに精いっぱいやったと思う。ただ、そのコーチをはじめ、強化策には問題が多かったのではないか。

たとえば「一本を取る柔道」を掲げながらも、そのための強化はしていなかった。技を練り、切れ味を増すためには、むやみに試合に出るのではなく、じっくり練習する時間が必要。試合に出れば出るほど技の切れ味は鈍り、相手に研究されることもあって、逆に一本は取りにくくなる。

世界ランキング制の導入など環境の変化はあったにせよ、目指すものと実際の施策に矛盾があった。今回のコーチ陣には、何がいけなかったのかということをしっかりと振り返って明らかにしてもらいたい。

コーチをどう選ぶか

コーチの選び方も考え直した方がいいのではないか。今は代表合宿や試合で選手を1年のうち半年近く拘束する。ならば代表のコーチは現役時代の成績より、選手を育てた実績を重視して選ぶべきではないか。陸上のマラソンなどのように、個々の選手の指導は所属チームのコーチに任せる手もある。

海外ではロシアの姿勢はヒントになる。金メダルゼロに終わった北京五輪後、初めての外国人コーチとなるイタリア人と契約。今回のロンドンでは男子が金メダル3個と成果をあげた。

日本が外国人ヘッドコーチを呼ぶのはハードルが高いが、強い国から学ぶことは必要だ。

ロシアの他にも、カザフスタン、ウズベキスタンなどの中央アジア勢が非常に力をつけている。高度経済成長期の日本もそうだったが、発展している国は格闘技のように荒々しいスポーツの人気が高いことがその背景にあるのだろう。

欧州以外の国も強く

女子は4年後にリオデジャネイロで五輪を開くブラジル勢の活躍が光った。4年後を見越した強化が実り始めている。モンゴルも強くなっている。日本はこれまでフランスなどの欧州にばかり目を向けてきた。合宿も欧州に行くことが多かったが、これからは欧州以外の強い国に行くことも大事になる。

他競技では、日本の水泳の選手選考は参考になる。水泳は国内のトップ選手でも、厳しい派遣標準記録を突破できないと五輪に出られない。柔道が日本選手権を勝てない選手でも連れてきているのとは対照的だ。

日本代表として五輪や世界選手権に出ていると、自分は強いんだと勘違いしてしまう選手も生まれてしまう。

柔道界が「金メダルしか意味がない」というのなら、メダルが取れそうにもない選手は、こうした大会には出さずに国内で力をつけさせるくらい厳しくしてもいい。

強くないことを認識するところから

今回のような結果では、スポンサーやテレビ局も徐々に日本の柔道から離れていってしまうだろう。国際柔道連盟の中での日本の発言力もさらに弱くなる。だから、畳の外での存在感が乏しかったことも残念だった。

主審の判定に審判委員(ジュリー)が介入する問題で、日本として正式に意見を発表しなかった。問題があったときにしっかりと発言してこそ、一目置かれる。

今回の結果につながる前兆は何年も前からあったのに、日本の柔道界は「今回がうまくいかなかっただけ」といって、受け入れてこなかった。

だが、ロンドンの結果で、今の日本柔道界が大きな問題を抱えていることは、誰が見ても明らかになった。日本はもう強くないということを、柔道界全体で認識するところからスタートするしかない。

 やまぐち・かおり 84年世界選手権で日本人女子として初優勝。公開競技として女子柔道が導入された88年ソウル五輪で銅メダルに輝き、翌年引退。シドニー、アテネ五輪で全日本コーチ。筑波大大学院准教授。日本オリンピック委員会理事を務める。47歳。

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