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イチロー、2500安打の先にあるもの

スポーツライター 丹羽政善

開幕を日本で迎え、3、4月を2割9分4厘で終えたイチロー。まずはスムーズな滑り出しだったが、昨年と同様、5月につまずき、6月も態勢を立て直しているうちにズルズルと後退。6月17日の時点で打率が2割5分5厘まで下がってしまった。

スタメン外れ「悔しい」

その翌日、スタメンから外れた。試合をベンチから見守ったのは今季2度目だったが、5月30日に休みをもらったばかりだったので、いつもの休養とは少し意味合いが違うことを本人こそが強く感じとっていた。

「こういう状態で休みをもらうことと、ずっと結果を出していてもらうのとは意味が違う。悔しいですよ。本当に悔しい」

寂しげに言葉をつなぐ。

「出てなんぼというより、必要とされてなんぼ……」

おそらくこうした形で休養を与えられたのは、メジャーに来てからというより、プロに入って初めてのことだったのではないか。

スタメン復帰後、最初のヒットが通算2500安打

その時点で、6月の打率は2割6厘。これまでヒットを量産してきた"打ち出の小づち"が、まるで根詰まりを起こしているようでもあった。

しかし、スタメンに復帰した19日から27日まで8試合連続安打。28日は無安打に終わったが、29、30日と2試合連続安打して、6月を終えた時点の打率を2割7分4厘まで戻した。

これでイチローらしい打撃が戻るかどうかはまだ判断できないが、ひとまず、そのきっかけとなった19日の最初のヒットが、メジャー通算2500本目のヒットだったというのは、偶然とはいえ、復調の暗示とも映った。

さて、その2500安打はメジャー通算91人目。1817試合目での達成は、1900年以降ではアル・シモンズ(1784試合)、タイ・カップ(1790試合)、ジョージ・シスラー(1808試合)に次いでメジャー4番目のスピードである。

「ちょっと遅い」

ただ、メジャー2000本を1402試合目に達成したときは、アル・シモンズの1390試合に次ぐ2番目の記録だったので、今回、到達スピードで順位を下げたことになる。

「ちょっと遅い」

イチロー自身もペースダウンを認めた。

これまでの節目を振り返ると、最初の500安打は354試合、1000本までの500安打は342試合、1500安打までの500安打は364試合、2000安打までの500安打は342試合と、まるで金太郎アメのように正確に安打のペースを刻んできている。

しかし今回は415試合を要し、平均と比べれば約65試合も遅いのだ。

今まで打ってきたヒットが役立たない世界

500安打を打つのに400試合以上を要したのは、日本で最初に500安打に達したときだけ。このときは403試合目だったが、その後は、日米通算でも500安打ごとに要した達成試合数を調べてみると、ほぼ350試合前後で到達している。

苦しんだことは、この一言に凝縮されていた。

「最近思うのは、いままで打ってきた2400何本のヒットが今日の試合では何の役にも立たない世界にいるということ」

重い言葉だ。大リーグでこれだけのヒットを打ってきた選手でさえ、次の1本が打てるかどうかにおびえる。

それでも、2500本目を打った瞬間には、それなりの開放感もあったようだ。

それなりの開放感、感慨も

「ロベルト・アロマーが2500(安打)を打ったとき、『とんでもない数字だな』と思った記憶がある。そこまできたことに感慨深いものがある」

それはイチローが渡米して2年目のこと。02年7月26日、当時メッツにいたアロマーがレッズ戦で2500安打を放つと、それを間接的に知ったイチローの脳裏にそのインパクトが刻まれた。

今回、逆にイチローからインパクトを受けたチームメートがいる。

やはり2年目のダスティン・アクリーは、大型スクリーンに"2500"という数字が映し出されるのをみて、10年前のイチローと同じように、「とんでもない数字だ」と思ったそうだ。

「1500、2000だって、すごい記録だ。2500? ちょっと、今の僕には想像ができない」

ハードルはヒットを打つことだけじゃない

アクリーもまた将来的には2000安打、2500安打を打つ逸材とされるが、「イメージできない」と首を振った。

「たとえば年間150本打ったとしても、16~17年かかる。その間、ケガもできない。レギュラーでい続けなければならない。ハードルはヒットを打つことだけじゃないから」

イチローが11年ちょっとでここまで来たことには、別の想像力を働かせている。

「彼が僕らの年齢でデビューしていたら、今頃、何本ぐらいのヒット打っているんだろう?」

3週間ほど前のこと、ドジャースがシアトルを交流戦で訪れたとき、ドン・マッティングリー監督から「イチローは、日米通算で何本ヒットを打ってるんだ?」と聞かれた。

アクリーが想像する世界とどこか交差するが、「もうすぐ3800本」と答えれば、かつてヤンキースの打撃コーチを務め、長く敵チームからイチローを見てきたマッティングリー監督は、「信じられない」という顔つきで語っている。

「なんてことだ。4000本も見えてるじゃないか」

ここからがいよいよ試練

日米通算に関しては、無意味な合算ととらえるのが一般的だが、マッティングリーのように認めている人もいる。レンジャーズのノーラン・ライアン社長もそうで、必ずしも全否定されているわけではない。

イチローの日本での1試合平均安打は1.34本。メジャーでの1試合平均安打は1.38本。その事実は、もう少し考慮されてもいいということか。

日米通算の是非をここで問うつもりはないが、日米通算4000本、メジャー通算3000本が見えてきていることは、まぎれもない事実だ。

ただ、ここからがいよいよ試練か。登山でも、標高が高くなるにつれて、次々と試練が訪れる。

目指す高みに向けた今回のペースダウンは、どこかそんな世界をうかがわせた。

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