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「IT武装した伊能忠敬」、グーグルが描く地図の未来

リュック型撮影機や独自空撮も

最新のグーグルアースは立体表示の質を大幅に高めた(6日、米サンフランシスコ)

最新のグーグルアースは立体表示の質を大幅に高めた(6日、米サンフランシスコ)

インターネット検索最大手の米グーグルは6日、「グーグルマップ」など地図サービスの新戦略を公開した。同社は歩行者の視線で街並みが見られる「ストリートビュー」の写真を撮影するため、これまでに赤道200周に相当する800万キロメートルを走破している。自転車や船、雪上車からも風景を撮影しているほか、新たに人が背負って歩くリュックサック型の撮影装置も導入。さらには独自に飛行機を確保して空撮で街の隅々を撮影して立体表示する取り組みも進める。最先端のIT(情報技術)を駆使した「現代の伊能忠敬」と呼べる同社が描く地図サービスの未来をのぞいた。

「地図の次の次元」と題した説明会はグーグルのサンフランシスコ事務所で午前9時半に始まった。同事業を担当するブライアン・マクレンドン副社長が2005年のグーグルマップの提供開始から現在までの歩みを説明。08年に世界全体を網羅し、空撮写真を閲覧できる「グーグルアース」も現在は世界の75%を高解像度の画像でカバーしている。

利用者は現在、毎月10億人に達するという。マクレンドン副社長はこれまでの成功の背景には「総合性」「正確性」「利便性」という3つの要素があり、グーグルによる大規模な投資がそれを可能にしたと説明した。これに続いて3つのテーマに沿って担当者が次の一手について話を始めた。

まずは利便性。プロダクトマネジャーのリタ・チェン氏は「利用者からの要望が一番多かったテーマ」として、インターネットに接続していない状態でもタブレット端末やスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)からグーグルマップを利用できるようにすることを説明した。まずはグーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」を搭載した製品が対象になる。

これまでグーグルマップはネット接続が切れると、拡大や表示エリアの変更といった操作が難しく、紙で印刷して地図を持ち歩く利用者が多かった。新機能によりスマホなどにあらかじめ必要なエリアの地図データを保存しておくことが可能になり、ネット接続が途切れても地図を操作することが可能になる。

総合性に関しては、ストリートビューの大幅な機能拡充を目指す。多数のカメラを搭載し、街並みを片っ端から撮影していくストリートビューの撮影車はおなじみになったが、自転車や船、雪上車からも撮影していることを説明。さらに"最新兵器"として紹介したのは人が背負って歩くリュックサック型の撮影装置だった。

15個のカメラを搭載し、「1日の連続使用が可能」(エンジニアリングディレクターのルーク・ビンセント氏)という装置は重量が40ポンド(約18キログラム)弱。ビンセント氏は「車などで入れなかった国立公園などの写真を拡充したい」という。

異形の装置からは「世界中の情報を整理して誰でも使えるようにする」と言い続けてきたグーグルの執念が伝わってくる。

そして最後に正確さ。グーグルアースの立体表示の質を大幅に高めるというのがこの日の説明会の最大のヤマ場になった。

グーグルはグーグルアースの立体表示の機能を段階的に拡充してきたが、「もとになる画像情報の提供元がまちまちで、統一感がなかった」(プロダクトマネジャーのピーター・バーチ氏)という。

これを根本的に改めるため、新たに設計した撮影システムを使って画像を撮り直す。

独自に飛行機を確保し、街を隅々まで様々な角度から空撮し、コンピュータで処理する。複数の方向からの画像データを基にして粘土細工の要領で立体を構成。そこに写真から選んだ色や模様を貼り付けて、立体的な街をコンピューターの中にそのまま再現するというのが大まかな手順だ。

説明会ではサンフランシスコの街並みを披露し、その正確さとリアリティーは圧巻だった。これまでのような表示のずれなどは一切なく、もちろん見る方向や角度、縮尺を自在に変えることもできる。

「自分のヘリコプターで空を飛んでいる気分になれる」(バーチ氏)という説明もあながち大げさとはいえない。大都市からサービスを開始し、年内には計3億人が住むエリアをカバーするという。

ストリートビューのために文字通り「地を這(は)い」、立体表示のために「空撮機を飛ばす」という常識外れの取り組みができるのは、年間100億ドル(約8000億円)近い純利益をあげるグーグルの財務力があるからこそだ。

地図サービスの母体となったベンチャー企業の共同創業者でもあるマクレンドン副社長もこの日、グーグル傘下入りを決めた理由として投資余力が大きかったことを挙げた。

グーグルはネット広告で圧倒的な地位を築いており、これがある限り地図サービスの将来も安泰と思いがちだが、不安要素もある。

そのひとつはプライバシー問題だ。この数年間でもストリートビューの撮影車による情報誤収集問題が世間を騒がせ、特にプライバシーへの意識が高い欧州では度々問題になっている。

6日の説明会でも、マクレンドン副社長はプライバシー問題に関する質問を受け、「これまで通り適切に対応する」と応えた。だが、"陸海空"を駆使した情報収集に対しては利用者でもある市民団体が不安を抱く可能性もある。これまで以上に丁寧な説明が求められるのは間違いなさそうだ。

もうひとつの不安要素は、スマホを巡って激しい戦いを繰り広げている米アップルとの関係だ。アップルはこれまでスマホにグーグルの地図関連サービスを組み込んでいたが、自社で地図関連のベンチャー企業を相次いで買収していることもあり、独自のサービスを立ち上げるとの見方が浮上している。

6日の説明会でもこの点が焦点となり、「アップルによる締め出しをどう考えるのか」「アップルの方がいい地図サービスを作ったらどうするのか」などといった質問が相次いだ。

マクレンドン副社長は「あらゆるプラットフォームにサービスを提供したいと思っている」などとかわしたが、先行きには不透明感も漂っている。

アップルは今月11日からグーグルが説明会を開いたのと同じサンフランシスコで、毎年恒例の開発者会議「WWDC」を開く。この会議では地図について新たな発表があるとの見方もある。アップルはグーグルが一足早く放った先制パンチにどう応えるか。地図を巡る"頂上決戦"の行方に一段と関心が集まっている。

(シリコンバレー=奥平和行)

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