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サッカー監督として…夢の続きを追う

5月26日のJリーグ第13節鹿島戦からヴィッセル神戸で監督業を再開した。昨年末にG大阪を辞して以来の監督復帰となったが、現場の充実感はやはり何ものにも代え難いものがある。監督をするとなると、全神経をそこにフォーカスさせなければならない。縁あって始めたこのコラムも、私をとらえてはなさない監督業の魅力について語って、今回で終えたいと思う。

私に強烈なインパクトを与えたニカ

私は20年を超えるコーチ業の大半を監督として生きてきた。アシスタントコーチとして人の下に付いた経験は2人しかいない。日本ユース代表(現在の20歳以下代表)の監督だった永井良和さんと柏レイソルの監督だったブラジル人のニカノールである(以下、親しみを込めてニカと呼ばせてもらう)。

永井さんの下にいたのは1カ月ほどで、すぐにコーチからユース代表の監督になった。ニカの下にいたのも1997年の1年だけで、翌年から柏の監督になった。

つまり、私には監督の何たるかについて誰かに手取り足取り教えられた経験は、ほとんどないわけである。

しかし、たった1年ではあったけれど、ニカが私に与えたインパクトは強烈だった。彼と一緒に仕事をすることで、プロのコーチの世界には「指導者とはいえないのかもしれないが、監督ではある」というタイプがいることに気づかされたのだ。

「監督」と「指導者」の違い

監督、指導者、どこがどう違うのか。

ニカの仕事の比重を「監督」と「指導」に分けた場合、明らかに監督の方に重きが置かれていた。練習グラウンドで選手を「ああしろ」「こうしろ」と動かしたり、「君はここをこうすればもっとうまくなる」というような指導を事細かにすることはあまりなかった。

グラウンドでのそういう細かい指導はアシスタントコーチの私とフィジカルコーチのブローロに任せ、自分は後見役といった態度を取っていた。

試合になると突然カリスマに

ところが、ニカは試合になると突然、前面にぐいぐい出てきてカリスマに変身するのである。特に最高だったのが試合前のミーティングだった。語り方、伝え方に異様な迫力があり、聞いているコーチの私ですら熱くなるのだから、選手はものすごく奮い立った。

今日の試合は何が何でも勝つんだという気に乗せていく。監督の話が終わって、私が戦術的な注意点などを付け加えようとすると「黙れ!」。その場の熱気をそのままピッチに持って行かせたかったのだろう。戦術的な補足を私に許すようになったのは、シーズンの最後の方になってからだった。

最初は「この人はどういう人なのだろうか?」と思った。私が見てきた監督たち、思い描く監督像とは違っていたからだ。

しかし、それでも結果を出すニカを見て「プロのコーチにはいろいろなタイプがあって、選手の力を伸ばす指導者タイプというより、ニカは試合に勝たせるカリスマタイプの監督なんだ」と思えるようになった。

監督といってもいろいろなスタイル

両者をきっちり線引きできるわけではないし、一人のコーチの中に両方の資質がミックスされた人もいるけれど、とにかく選手に実践させる力があれば監督としてOKなんだと思うようになった。

ブラジルのように選手個々の能力が高い国だと、個別の技術指導に力点を置く必要はたぶんそれほどない。それよりも選手の気持ちを動かして、一つにして、求心力を高める方が勝利に近づける。それでこういうスタイルが出来上がったのかもしれない。

選手との付き合い方も自宅のホームパーティーに平気で呼んだりする。それが必ずしも全員ではない。呼ばれない選手は不満に思うかもしれないが、呼ばれた選手は意気に感じる。

公平という観点から、どんな選手とも等距離で付き合うべきだという観念はなかった。すべてを見習いたいと思ったわけではないけれど、一口に監督といっても本当にいろいろなスタイルがあるんだなあと、ニカが気づかせてくれたことは間違いない。

そのニカの下で一緒に働いたフィジカルコーチのブローロを、G大阪に続いて神戸にも呼んで、再び一緒に働くことになった。

普通、フィジカルコーチの任期は良くても悪くても2年といわれる。選手に課すメソッドが同じだから徐々に選手が飽きてくるからだ。そういう意味では私とブローロの関係は異例かもしれない。

ブローロとは「あ・うん」の呼吸で

私が彼を重用するのは勉強熱心というのが一つ。選手に飽きが来ないようにシーズンが変わるたびにいろいろメニューを微妙に変えてくる。

何より、シーズンを通して本当にケガ人が少ないようにチームをしてくれる。緻密(ちみつ)にマメに働いて、成績も出ているし、責任感も強い。安心して任せられる。だから続いてきた。

負傷して戦列を離れた選手が治って戻ってきたとき、医学的には全治でも試合に使えるかどうかは別問題ということがよくある。

このメディカルからフィジカルへの移行期のジャッジというのが難しく、焦って早く仕上げようとすると故障再発というリスクが発生する。そうやって選手を壊して私の手元に戦力として戻せないと、フィジカルコーチの責任になる。

ブローロはその辺の判断が非常に厳格だ。「まだ早い」と思えばメディカルに平気で送り返すし、確実に使える状態にしてから私のところに送り届けてくれる。私とブローロの関係は「話は早い」というより「話さなくてもすむ」というもの。まさに「あ・うん」の呼吸で仕事を進めることができる。

コーチに求めるものは監督によってさまざま

コーチに求めるものは監督によってさまざまだ。腹心というか、参謀というか、かなり重めのヘッドコーチを脇に置きたがる人がいる。私はどちらかというと、ヘッドコーチではなく、アシスタントコーチを欲するタイプだ。トップチームのコントロールは自分自身でやるから、アシスタントコーチにはバックアップ、若手を中心に見てほしいと考える。

フィジカルコーチはコンディション全般の管理。この方が仕事の分担、指示系統がすっきりすると思う。

もちろん、デイリーのトレーニングについてコーチたちと意見交換はするし、サポートもしてもらう。しかし、サッカーという競技の特性で、選手交代など試合中のベンチワークは誰かに相談する猶予など与えてくれない。

57歳の私が最年長の日本人監督に

試合中に動きが鈍い選手を見て「おかしいんじゃないか?」とフィジカルコーチに確認するくらいで、戦術的な事柄は自分でその場で即断するしかないと思っている。

監督業を再開することになり、J1、J2を通じて現時点で57歳の私が最年長の日本人監督になった。外国人監督を含めても私より年長なのは、大宮の新監督に決まったベルデニック監督(63)、柏のネルシーニョ監督(61)と町田ゼルビアのアルディレス監督(59)だけだ。

年齢の話になると「そろそろ誰かに監督学を伝授した方が」などと言う人もいるが、そういう発想は自分の中にまったくない。

監督という仕事を突き詰める途上

クラブの側には私の下に若いコーチを付けて勉強させたい、という考えはあるのかもしれないが、自分にできることは自分なりのやり方を貫いて何かを感じ取ってもらうことくらいだろう。

「こういうやり方をまねろ」とも自分からはいえない。教えるも何も、そもそも私もまだ監督という仕事を突き詰める途上にある。そういう意味ではどんなに若いコーチとも同じ土俵にいるといえる。

若いコーチたちから見られている、という意識はある。ミーティングで話すことを熱心にメモられたり、ちょっと食事に行くと「こうですか」「ああですか」と質問攻めにされたりする。

困るのは「監督に向いているのはどんな人ですか」という質問。監督にも感性とかセンスは必要かなと思う。チームは生き物のようにデイリーに変化していくので、臨機応変に対応する力もいるかもしれない。ただ、変化を見逃さない、聞き逃さない、ということで、あまりぴりぴりし過ぎるのも良くないと思う。

こちらが見ている以上に選手もこちらをよく見ている。監督の顔を毎日見ているから、普段と少しでも様子が違うと「監督もテンパッてきたな」と思われる。チーム内ではほんの小さなことが波紋のように広がっていくので弱みは見せられない。そうなると問題をどんどん一人で抱え込んでしまう。

監督の資質として自分にあるものを挙げるとすれば、そういうときにあまり深刻になりすぎないところかもしれない。プレシャーに耐えることに慣れているというか。

ユース監督を経験、少々のことではへこたれなく

ユースとはいえ、代表監督からこの仕事を始めたことが大きいのだと思う。「何がなんでも出場権を取れ」「いい試合じゃなくていいから、とにかく勝ち抜け」というプレッシャーにいきなりさらされた。

その後、オリンピックチームを任されたときはそれがさらに大きくなった。「負けたら覚悟を決めろ」といわれたこのころ、白髪が一気に増えた。そういう経験を踏まえたことで、少々のことではへこたれなくなったような気がする。

それに、プロの世界では常に「次だ、次」と言っている自分がいないと本当におかしくなってしまう。終わったことを引きずっても、次の試合は確実にやってくる。終わったことより、次の勝負、次のゲームに入っていくことを考えなければならない。

私は次の試合の対策を立てるとき、わくわくするようないいイメージを思い浮かべる。キックオフから終了までの試合のシミュレーションを頭の中で組み立てていく。交代選手、スコアはいくつで、数的優位、不利、思わぬことが起きたとき、スイッチは誰が入れる、システムも変えるか…。そのイメージは数限りない。もちろん、相手の動きも入っている。最終的には躍動した自分たちが勝つイメージを膨らませている。

チーム状態が悪い時ほど、そのイメージづくりはアタマから離れない。目を閉じて寝ていても頭の中ではずっと試合のことを考えていて、夢なのか現実なのか区別がつかなくなるときもある。そういう状態でイメージしたものが現実になることもある。

他チームの若い監督に挑戦

だから、試合の2日前に決める先発メンバーの決定はとても大事にしている。考え抜いたイメージを最初に託すメンバーだからだ。もちろん、そのイメージ通りに事が運ぶなんてことはほとんどない。それが戦う相手、邪魔する相手がいるサッカーという競技の醍醐味(だいごみ)でもある。

ひょっとすると、私がいまだに監督という仕事にこだわっているのは、自分が理想とするイメージがピッチ上で表現される、という見果てぬ夢を追っているからなのかもしれない。

その夢の続きを見る機会を神戸で与えられた。Jリーグでは40代そこそこの日本人指導者がどんどん増えている。若返りが進んでいるのかもしれない。神戸ではそういう彼らに挑戦する立場だと思っている。まだまだ生きている、というところを見せられたらと思っている。

(J1神戸監督)

=おわり

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