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最終予選開幕へ…復活・本田が日本の攻撃を加速させる

サッカージャーナリスト 大住良之

いよいよやってきた。4年に一度、日本のサッカー界が総力を挙げてその舞台に立つことを目指すFIFAワールドカップ。2014年ブラジル大会の出場権をかけたアジア最終予選が、6月3日に開幕する。

来年の6月まで続く8試合のロングランレース。決して平たんな道ではないだろう。思いがけない困難が待ち構えているかもしれない。それを乗り切るには、しっかりとしたチーム力、どんな相手からも得点を取り切る攻撃力とともに、強い精神力が必要になる。

「6月シリーズ」の重要性

6月3日19時30分に埼玉スタジアムでキックオフされるオマーン戦を皮切りに、アルベルト・ザッケローニ監督率いる日本代表は8日にヨルダン戦(埼スタ)、4日後の12日にはブリスベーンでオーストラリアに挑む。

日本が戦う全8試合のうち3試合が、そして4つあるホームゲームのうち2試合が、初戦からわずか10日間のうちに集中する「6月シリーズ」。それがいかに重要か、説明するまでもない。

アグレッシブな相手に力を引き出された

日本代表は5月23日に静岡スタジアムでアゼルバイジャンと親善試合を戦った。インターナショナル・マッチデーではなく、今年初めには予定になかった試合だったが、5月上旬にシーズンを終えた選手が多い「ヨーロッパ組」が1カ月近くも実戦から離れてしまうのを懸念したザッケローニ監督の要望で、無理やりねじ込んだのだ。

この無理な日程を受け入れてくれたアゼルバイジャンのサッカー協会には、大いに感謝しなければならない。フルメンバーはそろわなくても、ベルティ・フォクツ監督(ドイツ)と選手たちはアグレッシブなプレーを見せてくれた。そして、そのことが日本代表の力を引き出し、最終予選に向けての最高の"スパーリング"となった。

今年、アゼルバイジャンはU-17女子ワールドカップを開催する。日本で行われるU-20女子ワールドカップ(8月19日~9月8日)が閉幕した2週間後の9月22日に開幕、10月13日に決勝戦を迎える。

アゼルバイジャン戦で攻め込む本田

本田を欠いて苦戦続きだった日本

日本とアゼルバイジャンには、いわば同じ年に女子の年代別ワールドカップを開催することになった縁がある。しかも日本は両大会に出場し、ともに優勝候補の一角(日本は前回、10年のU-17女子ワールドカップで準優勝)に挙げられている。

アゼルバイジャン代表との対戦は日本のサッカーが始まってから初めてのことだったが、日本代表は1965年のソ連・ヨーロッパ遠征のなかでアゼルバイジャンの首都バクーに立ち寄り、地元のニフチャク・バクーというクラブと対戦して3-2で勝利を収めている。

今回の対戦をきっかけに、日本とアゼルバイジャンの間に絆が生まれ、深まるのではないかと期待される。

そのアゼルバイジャン戦の最大の収穫は、MF本田圭佑(CSKAモスクワ)の完全復活に違いない。

昨年8月に所属クラブの試合でひざを痛め、9月に始まったワールドカップのアジア3次予選6試合をすべて欠場、9カ月間も日本代表から離れていた本田。その間に、日本は3次予選を突破したものの、ウズベキスタン、北朝鮮という強豪に対しては1勝1分け2敗と苦戦を余儀なくされた。

ザッケローニ監督が苦労したのは、本田を欠く日本の攻撃陣のあまりの「軽さ」だったのではないか。

「重さ」=「安定したキープ力」

本田は日本の攻撃陣のなかでは最も「重い」。

身長182センチ、体重76キロ。体格的には前田遼一(磐田、183センチ、80キロ)、そしてハーフナー・マイク(フィテッセ、194センチ、86キロ)に及ばないが、相手に当たられたときの強さ、体を寄せられても安定してボールをキープする力において、彼らをはるかにしのいでいる。

その「重さ」=「安定したキープ力」は、日本の攻撃陣の中では他の選手にはない特異な能力だ。

本田の「重さ」こそ、岡崎慎司(シュツットガルト)や香川真司(ドルトムント)といった他の攻撃陣に最大の力を発揮させる要素である。

本田のキープがスペースをつくる

3次予選でウズベキスタンや北朝鮮と対戦したとき、いずれも攻撃が非常に窮屈な感じだった。なかなかスペースを見つけることができず、パスがスムーズに回っていかなかったのだ(唯一の例外が吉田麻也の後半ロスタイムの得点により1-0で勝った11年9月2日に埼スタで行われた北朝鮮戦)。

それは間違いなく本田を欠いたためだった。本田がボールをキープし、前を向いてくれるから、相手の守備陣が引きつけられ、周囲の選手への注意がそれる。

フリーになる選手が生まれ、そこをすかさず使うから、岡崎や香川はスペース(相手選手がいないところ)でボールを受けることができ、一気に優位に立つことができるのである。

アゼルバイジャン戦は、それを再確認させた試合だった。

オマーンの守備思想とその裏付け

最終予選では、対戦相手はリスクを冒して攻め込むようなことは決してしないだろう。それはオーストラリアでさえ同じに違いない。ブンデスリーガで2連覇したドルトムントの中心選手として活躍した香川らの攻撃力を警戒しているからだ。

とくに初戦で対戦するオマーンは、日本での試合(オマーンにとってアウェー)ということもあり、徹底的に守備を固めてくるに違いない。現在のオマーンは、「相手を0点に抑えれば道は開ける」という思想のチームだからだ。

そのための裏付けとして、イングランドのウィガンで活躍するスーパーGKのアリ・アルハブシの存在がある。

アゼルバイジャン戦で先制ゴールを決める香川

06年ワールドカップのアジア1次予選(今大会の「3次予選」に当たる)の初戦、埼スタに乗り込んできたオマーンは、徹底した守備でジーコ監督率いる日本を苦しめた。

アルハブシは、当時アジアで最高のプレーヤーだった日本のMF中村俊輔のPKを止める活躍を見せた(試合は後半ロスタイムにFW久保竜彦が決勝点を入れて1-0で勝利)。

テンポアップと精度アップ

そうした守備を崩すために、ザッケローニ監督は、攻撃のテンポを上げること、そしてプレーの精度をさらに上げることを要求している。

ただ急ぐだけでは、精度というのは自動的に落ちる。しかしそこに本田がいて、「重さ」を生かして一瞬キープしてくれれば、その後のプレーは高い精度を保ったまま、テンポアップすることができる。

チームづくりで最も危ういのは、特定の選手一人への依存度が上がりすぎることだろう。ケガや出場停止などなんらかの事情で、その選手が欠けたらチームが機能しなくなるようでは、チームとしての目標に近づいていくことなどできないからだ。

替えのきかない選手

しかし、どのチームにも「替えのきかない選手」はいる。現在の日本代表なら、本田は間違いなくその一人だ。

そしてその本田が非常に良いコンディションにあると確認できたのは、ザッケローニ監督を大いに喜ばせたに違いない。

「最終予選には、闘莉王とか気持ちの強い選手が必要」

5月下旬、あるスポーツ紙に、カズ(三浦知良=横浜FC)のこんな言葉が載っていた。

香川がいても、本田がいても、今回の最終予選を楽に勝ち抜けるとは、私は思っていない。思いがけない苦境に陥ることがあるかもしれない。

「ザック・ジャパン」の粘りの根源

しかし、楽に「ブラジル」に到達するより、苦労があったほうがいい。苦しい状況を乗り越えたとき、選手としてもチームとしても大きく飛躍することができるからだ。

カズの言葉は、苦しいときにこそ力を発揮し、周囲をぐいぐいと引っぱっていくような精神力をもった選手が、予選を勝ち抜くうえで不可欠ということだろう。

しかしいま、その役割を誰か一人の選手が負うべきとは、私は思わない。現在の日本代表は、多くの選手がそうした精神力をもち、経験ももっているからだ。それこそ、年齢的には若い選手が多くても、「ザック・ジャパン」が驚異的な粘り強さを示す根源的な力になっている。

6月3日に始まるアジア最終予選。それは波瀾(はらん)万丈の旅になるに違いない。しかしその終着点に、現在よりひと回りもふた回りも大きくなった日本代表と、「ブラジル2014」の切符があることを期待したい。

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