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経営者であり社員 複業起業家は「レアキャラ」目指す

若宮和男さん

会社経営者、タレント社員、ファシリテーターなど様々な顔を持つ若宮和男さん

ある時は会社経営者、またある時は会社員やファシリテーター……。その正体は、複業や新しい働き方を実践・提案している複業起業家の若宮和男さんだ。「会社の箱に収まりきれない部分を切り捨ててしまうのではなく、別の箱を使って世の中に役立てられるのが複業のすばらしさ」と話す若宮さんのオシゴトに迫る。

どのような仕事に携わっているか教えてください

uni'que(ユニック)の経営者、ランサーズのタレント社員、コアバリューファシリテーターなど、さまざまな仕事に取り組んでいます。

それぞれの仕事を簡単に説明しますと、まずわたしが経営しているユニックという会社は、スマートフォンアプリからオリジナルのネイルシールをオーダーできるサービス『YourNail』(ユアネイル)を提供しています。社員はわたしと、もうひとりのエンジニア以外すべて女性で、しかも全員がそれぞれ別の仕事を持っているという少し珍しい会社です。

もうひとつのタレント社員というのは、クラウドソーシングサービスのランサーズが働き方の多様化を進めるために作った「タレント社員制度」に基づいた立場で、わたしは「複業社員」として会社に所属しています。ランサーズでの役割は、サッカーでいうと守備だけでなく攻撃にも参加するリベロのような柔軟なポジションで、会社が将来に向けて取り組むべき組織上の課題やビジネス上の課題をみつけては経営陣に提案し、一緒に解決していくという役割を担っています。

最後のコアバリューファシリテーターというのは、いま申し上げたふたつの仕事とは別に、これまで培った新規事業開発や起業経験を活かし、企業や個人の固有の価値(コアバリュー)を見つけ、ビジネスやキャリアに生かすワークショップを開いたり、新規事業の相談に乗ったりする活動です。

このほかにも執筆や登壇、個人的なキャリア相談などもしていますし、仕事の忙しさは定常ではないので、1日の過ごし方は日によってさまざまです。ざっくりとしたイメージでいうとユニックが7割、ランサーズが2割、残りの仕事が1割ぐらいの比率が多いでしょうか。でも現実にはそれぞれの仕事の境目があいまいなことが多いので、厳密に分けるのは難しいですね。

■若宮さんのキャリアヒストリー
22歳(1998年)
大学の建築学科を卒業後、都内の建築設計事務所に就職。駅や病院、水族館など、主に公共建築物の設計に携わる。在職中に1級建築士資格を取得
26歳(2002年)
設計事務所を退職し大学に学士編入。美学芸術学の研究に取り組む。その後大学院に進学し研究者になるも博士課程には進まず卒業。就職の道を選ぶ
30歳(2006年)
新卒でNTTドコモに入社。8年間の在籍期間中はヘルスケア事業の立ち上げなど、一貫して新規事業畑を歩む
38歳(2014年)
DeNAに転職し3年間在籍。この間、新規事業開発や社内インキュベーションプログラムの立ち上げなどに従事する
41歳(2017年)
前職を退職後、ネイルシールのオーダーアプリを開発するuni'que(ユニック)を創業。6月にランサーズのタレント社員となる

複業するために工夫をしていることはありますか?

実は複業に取り組みはじめたころは日程調整にかなり苦労していました。15分、30分のスキマ時間に予定をどんどん詰め込むものですから、すぐにカレンダーがテトリス状態に。平日に入りきらなかった予定は土日に持ち越すので、家族からの評判はガタ落ちです。それでやっと考え方を根本から変えないとダメなことに気がつきました。

若宮さんが経営するユニックは女性の活躍を促す雇用創出、事業創出を行ってきた実績を評価され、Work Story Award 2018でイノベーション賞を受賞した

解決策が見えたのは、お願いしていたスタッフがYourNailの地方イベントに来れなくなり、急きょ出かけることになったときのことです。どうしても小学生の娘を預けることができず、スタッフのひとりとして一緒に連れていったところ、とくに大きなトラブルが起こるでもなく、娘自身はもちろん、先方のみなさんも喜んで対応してくださいました。それを見て「こういうやり方もありかも」と思いました。

いまにして思うとわたし自身、複業や新しい働き方を勧める立場でありながら、無意識に「仕事はきちんと振り分けるべき」「プライベートと仕事はきっちり分けなきゃダメ」という凝り固まった考えに縛られていたのでしょう。

この経験以来、わたしはこうした固定観念をなくし、可能な限り予定と予定、仕事と仕事の間にある壁を「溶かす」ようになりました。

仮にAという予定に1時間、Bという予定に1時間と仕事を割り振っていくと2時間必要ですが、AとBの予定の間にある壁を「溶かす」ことができれば、ふたつの仕事をいっぺんに片付けられるかもしれません。

たとえば、地方でワークショップ開催の依頼が入ったとします。この仕事を受ければ、同時期に近くで自社のイベントも開催できるかもしれませんし、ワークショップの参加者にクラウドソーソングの利点を説明することも、YourNailのコラボイベントへの参加を呼びかけることだってできます。もしこの場に娘をスタッフのひとりとして連れていけば、この依頼は彼女にとって貴重な社会勉強の機会と、楽しい家族旅行を提供することになるでしょう。

もちろん相手あっての仕事です。必ずしもわたしの都合通りになるわけではありません。でもこうした試みを繰り返すうち、予定を厳密に割り振らなくても効率よく仕事を回せるようになりました。

ご自分のこれまでのキャリアをどのように捉えていますか?

いまのような複業スタイルで仕事をするようになる前は、商業建築を手掛ける建築設計事務所の1級建築士、建築史やアートを専門とする研究者、NTTドコモとDeNAで新規事業開発に携わっていました。

一見すると一貫性がないキャリアに見えるかもしれませんが、自分のなかでは一定の共通項があると思っています。

建築はアートやテクノロジーと近しい関係にあるのはいうまでもないでしょうが、実は建築とITサービスの新規事業立ち上げにも似ているところがあるんです。システム開発には建築でも使われる「アーキテクチャー」という言葉が使われますし、ユーザーの導線を考えた設計が重要なのも、多様な専門家の協力とテクノロジーが必要なのも同じです。

事実、頭の使い方もよく似ていましたし、わたし自身、さまざまな要素を組み合わせ、ひとりでは実現できない大きな課題を解決していくことが得意だし好きだったから、こうしたキャリアを選んできました。

大事なのは、こうした共通項は後から振り返って気づいたことであって、すべてを理解した上でキャリアを選択していたわけでないということです。

実際、興味や関心があることに集中して取り組んだ後、「なぜこれをやろうと思ったのか」と冷静に振り返ってみてはじめて見えたことが少なくありませんでした。

若宮さんは、働き方や時間の使い方についての固定観念を取り払えば、複数の仕事で力量を発揮することは十分可能と説く

こうした振り返りを繰り返すことで、徐々に自分のやりたいことが整理され、その後のキャリアの筋道が明確になっていったんだと思います。

これから社会に出る若者たちに伝えたいことはありますか?

ふたつあります。ひとつは人生に黒歴史はないということ。そしていま手元にある選択肢がすべてではないということです。

仕事人生において、自分が思い描いた通りの道をまっすぐに歩ける人はそうはいません。ほとんどの人は寄り道をしたり、回り道をしたりしながら前に進んでいきます。

夢がかなわなかったり、一度は志した道からドロップアウトしたりすると、ほとんどの人はこうした経験や失敗を黒歴史と思い、なかったことにしようとしがちですが、わたしはそれがとてももったいないことだと思います。なぜならレアキャラになれるチャンスを捨ててしまっているからです。

わたし自身のキャリアを振り返ってみてもそうです。新規事業の立ち上げ経験者や起業家は日本にごまんといますし、わたしより優れた人もたくさんいます。

でもそうした人のなかで、従業員数2万人規模のNTTドコモ、2000人規模のDeNA、200人弱のランサーズ、20人にも満たないユニックと、さまざまな規模の組織で新規事業を立ち上げたり、失敗したりした人はそう多くないはずです。もっといえば、そのなかで、建築とアート、ビジネスをつなげて語れる人なんてまずいないでしょう。

個人のバリューは、必ずしも会社の箱に収まりやすい形をしているわけではないので、型にはめようとすると、どうしてもはみ出てしまう部分が出てきます。そのはみ出た部分を切り捨ててきたのがいままでの働き方だとすると、複業はそのはみ出た部分を別の箱で生かし、世の中に役立てる働き方といえます。だから無理をして会社の箱に自分を合わせる必要なんてないんです。

それにこれから10年の間に消える仕事もあれば、新たに生まれる仕事もあります。つまり、いま手元にある選択肢から選ばなくても、これから将来有望な選択肢が現れる可能性があるわけです。だから自分をもっと信じて、好きなことや関心があることに取り組んでください。キャリアの答え合わせは後からいくらでもできますから。

ひとつの道を極めることは素晴らしいけれど、でもそれだけがすべてではないというのがキャリアの面白さです。

無駄に思える経験、失敗したとしか思えない経験も、それぞれを掛け合わせてみたら、唯一無二のレアキャラになるために欠かせない要素だったということはよくあります。黒歴史もあなたの大切な一部です。だから自分のキャリアから消し去る必要なんてないんですよ。

(ライター 武田敏則)

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