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プロ御用達「為替の指標」 視野を広げ相場観養う

欧州債務危機が再燃する兆しを見せ始めるなど、円相場は不安定な値動きが続く。こんなとき、外貨資産の長期運用を考える個人投資家はどう動けばいいのか。一つのヒントとして、為替取引のプロが円相場との連動性から注目している指標を参考にする方法がある。

ギリシャのユーロ離脱懸念を材料に、再び円高圧力が強まっている。だが市場の思惑とは裏腹に、中長期的な相場動向を示す指標は必ずしも円高に向いているわけではない。「21世紀に入ってから、初めて需給要因が本格的に円安に向かうシグナルを示している」と話すのは、野村証券チーフ為替ストラテジストの池田雄之輔氏だ。

短期売買を繰り返すヘッジファンドなどの取引は一時的に相場の乱高下を招く。だが、中長期的な相場の方向感は経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)で決まることが多い。

指標(1) 需給要因

そこで池田氏は、為替取引の中からヘッジファンドや個人の外国為替証拠金(FX)取引による投機的な売買を除外し、貿易・サービス収支や所得収支、投資信託や生命保険会社による外貨資産投資といった需給要因だけを指数化して円相場の推計値を算出した。この推計値を実際の円相場に重ねる(グラフA)と、投機的な売買で短期的に乖離(かいり)する局面があるものの、ほぼ同じ軌道を描いていることが分かる。

先行きの相場動向を予想することもできる。推計値に野村証券の経済予測を当てはめると、先行きの景気シナリオで水準は変わるが、2012年末に1ドル=82~84円、13年末には87~90円まで円安が進むという結果になった。円安予想の最大の理由は、貿易・サービス収支の変化だ。輸出大国の日本も、予測では12年度に5兆6000億円の赤字、13年度も5兆5000億円の赤字になる。

ただ貿易・サービス収支は米欧経済やエネルギー価格の動向などに左右される。個人で推計値を算出するのは難しいが、毎月発表される貿易統計国際収支を見ていけば、相場の方向感を探れるはずだ。

指標(2) 金利差

個人が比較的見やすい指標は金利差だ(グラフB)。一般に為替取引では、金利が高い通貨に資金が流れる。円相場の場合、2年物国債で見た日米金利差との連動性が最も強い。日米金利差が開けば円安、逆に縮めば円高に振れやすくなる。

なぜ2年債なのか。金利動向は中央銀行の金融政策に影響されやすい。日銀が金融緩和に動けば金利が下がり、金融引き締めに転じれば金利が上がるといった具合だ。みずほ証券チーフマーケットエコノミストの上野泰也氏は「金融政策の効果が実体経済に表れるのに2年程度かかるとされており、市場参加者も2年債の金利差を意識しやすい」と説明する。

年初以降の円相場と日米金利差を見ると、円相場の方がやや円安方向に乖離している。これは日銀が2月に実施した「サプライズ緩和」に市場が反応したからだ。直近では再び80円前後の円高水準に戻ったが、市場では「金利差との乖離が修復される自然な動き」との見方も多い。

ちなみに円の対ユーロ相場の場合は、日独の2年債金利差と比較的連動しやすい。ドイツがユーロ圏で最も大きな経済力を持っているからだ。

指標(3) 金相場

ファンダメンタルズ指標以外にも為替のプロが見ている指標はある。商品市場にも詳しいクレディ・スイス証券外国為替調査部長の深谷幸司氏が注目するのは、金相場との関係だ(グラフC)。

円相場と金相場の連動性が強いのは「どちらも世界経済のリスクが高まったときの安全資産とみられている」(深谷氏)からだ。特に08年のリーマン・ショック以降は金がドル不安時の代替資産と位置づけられることが多くなり、金相場の上昇と円高が同時に進みやすくなった。

ただグラフを見ると、米経済の不透明感に欧州債務不安が加わった11年半ばから、金相場の方が円相場よりも上昇しやすくなっている。世界経済の先行き不安が一段と高まり、円と比べて実物資産の裏付けがある金の方がより安全との認識が強まった結果だ。

リスク回避資金が最終的に金相場に流れ込んだ分、深谷氏は円相場の先行きを予想するうえで「逆に市場のリスク回避志向が弱まれば、真っ先に金が売られやすく、円安に転じるシグナルになる」と注目する。金相場には動きが早いヘッジファンドなどの投機資金も流れ込んでいる。高値圏のもみ合いが続く金相場が本格的に下落に向かえば、長引く円高局面の転換点になる兆しかもしれない。

この1年の為替相場は、欧州債務不安や米経済を巡る思惑から、リスクオフ(回避)の円高とリスクオン(許容)の円安を繰り返してきた。ギリシャ政局を巡る混乱はなお続いており、今後も相場の方向感は定まらない可能性が高い。短期的な相場の乱高下に一喜一憂するのではなく、円相場との連動性が強い指標をじっくり眺め、自分なりの相場観を養うことも大切ではないだろうか。

(編集委員 小栗太)

[日本経済新聞朝刊2012年5月23日付]

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