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オン・ザ・グリーン 女子ゴルフ、「綾子門下生」はなぜ強いのか

ゴルフライター 月橋文美

国内女子ゴルフの今季第7戦、フジサンケイレディース(22日まで)で22歳の大江香織がプロ初優勝を飾った。これで今季は早くも3人が初勝利を手にしたことになり、新興勢力の台頭が著しい。

そんな中で、もう一つの話題が、1987年米ツアー賞金女王で「世界ゴルフ殿堂入り」を果たした岡本綾子を師と仰ぐ、門下生たちだ。第6戦の西陣レディース(15日まで)で、新弟子の若林舞衣子が3年半ぶりの復活優勝を果たし、その存在をアピールした。

昨季終わりに直談判して門下入り

若林は、今季でプロ6年目の23歳。昨シーズンの終わりに、岡本に直談判して門下入りを許された。そのときのことを、若林はこう振り返る。

「去年の11月のことです。私自身の最終戦だった大王製紙エリエールレディースの前でした。その日は岡本さんと同じホテルに宿泊していて、みんな(他の門下生ら)で食事しようということになっていたんです。それで、夕飯の前にしばらく時間があったので、意を決して(岡本さんに)電話したんです。『今からちょっとうかがっていいですか? 聞いていただきたいことがあって……』と。部屋のドアをノックする前から、むちゃくちゃ緊張しました」

遠慮があり、なかなか言い出せなかったが…

すでに岡本の門下生となっていた服部真夕とはプロテスト合格同期で仲が良かった。その縁で食事や練習ラウンドなどをともにすることは多く、「ずっと前から岡本さんに習いたかった」という。

しかし、服部のほか、表純子、青山加織、森田理香子と合計4人の門下生に対して遠慮もあり、「なかなか言い出せなかった」そうだ。

「もし自分が入れてもらうことになったら、みんなの(岡本に指導を受ける)時間が減ってしまう。それが申し訳なくて……。1年ぐらいは迷っていました」

しかし、いつまでも尻込みしている場合ではなくなったのが、昨シーズンの終盤だった。9月終わりのミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープン以降の8試合は予選落ち5回。決勝ラウンドに進んだ試合も25位、30位、41位と惨憺(さんたん)たる結果で、プロテスト翌年から守ってきたシード権さえ手放すかという危機に陥っていた。

紹介するかのように門下入りを発表

「本当に苦しくて……。ついに服部さんに相談したんです。それで、(岡本さんに)言ってみることに……」 岡本の目を見て、思いを口にするときは「もう心臓がバクバクでした。優勝を決めるパットを打つ瞬間よりドキドキしました」という。

「わかった。2、3日、時間をちょうだい」

それが岡本の最初の返事だった。2日ほど後、まだ答えをもらわないまま参加した大人数での食事会の席上で、いきなり「若林もこれから一緒にやっていくから。一緒に頑張ろうね!」と、紹介するかのように発表してくれたそうだ。

「うれしかったですね。ホントは涙が出そうでした。あとは、とにかく岡本さんを信じていこうと……」

ぎりぎりでシード圏内に滑り込み

結局、昨年の若林の賞金ランキングは53位。通常ならシード落ちになった順位だが、昨年は米山みどり、古閑美保と、2人のシード選手がツアー引退を表明。資格を返上したため(他に永久シードの不動裕理の分も1枠繰り上がる)、最下位ではあるがシード圏内に滑り込んだ。

シーズンオフは2週間に一度のペースで岡本の指導を受けた。アマチュア時代は新潟・開志学園高2年のときに05年世界ジュニア選手権で個人&団体の2冠を達成、06年日本女子オープンではローアマにも輝いた逸材。シード下位にくすぶっているはずの選手ではなかった。

それでも、岡本は「ゴルフはある日突然おかしくなったわけじゃない。時間をかけて崩れてきたんだから、直すのにも時間はかかるよ。焦らないこと! 焦りは禁物。いいのも、悪いのも、自分自身がやってることだからね」と諭したという。

優勝を聞き、「ちょっと早いなぁ」

だからこそ、今回の西陣レディースでの優勝を聞いた岡本の第一声は「ちょっと早いなぁ……。早すぎる。どうしてそんなに百八十度違うゴルフが突然できちゃうんだろう(苦笑)。でも、立派なスコアだね。よかった」。そんなセリフだった。

若林自身も「今回勝てたのは、かなり運が大きかったと思う。今度は自分の力で優勝できるように、頑張っていきたいと思います」と話した。

この若林の復活勝利で"綾子神話"がささやかれ始めた。「岡本効果てきめん」「若林復活のカゲに綾子あり」「わずか半年で若林を再生」……。

当の岡本は、そんなフレーズを耳にして、違和感を口にする。

「岡本効果ではなく、彼女たち一人一人の努力、練習のたまものです。その努力、練習をしたくなるような教え方をすることこそ、私の役目」

07年、服部のプロ入り直後から指導

謙遜(けんそん)もないわけではないだろう。しかし、この考え方こそが、岡本一門を強くしている理由の一つであることは間違いない。

岡本が本格的に後進の指導にあたるようになったのは07年、服部のプロ入り直後から。「名選手は名指導者にあらず」と口にする者もあったが、翌年の秋、服部がIDC大塚家具レディースでツアー初優勝を飾り、そのコーチ力が注目された。

以降、服部の初V直後には、表がシーズン出場最終戦で4位タイに入ってシード復帰。青山はファイナルQTで17位に食い込み09年のフル参戦権を獲得。09年秋から森田が門下入りし、同年賞金ランキングで服部15位、森田27位、青山35位、表43位と、4人がそろってシード選手になった。

10年10月には森田が初優勝。昨年は服部が13位、表18位、森田21位、青山30位と門下全員が賞金ランキング30位以内でシード権をキープしている。

岡本本人がどう言おうと、"神話"とささやかれるにふさわしい結果は出ているのだ。

コーチングの3つの特徴

岡本のコーチングに特徴があるとすれば、次の3点あたりだろうか。

1、選手を自分の型にはめず、個性を生かして弱点を補強する

2、ゴルフだけでなく人間形成、一般社会人としての行動、言動を注意、指導している

3、度々衣食住をともにすることで、より強固な信頼関係を築いている

この4月2日で61歳となった「世界の綾子」。ゴルフにおいては技術面でも、肉体面でも、ほぼすべての問いに答えを持っていると言っていいだろう。加えて世界の頂点を極めた経験で、どんな戦いのメンタルをも知り尽くす、世界でも数少ないゴルファーだ。ひとことの重みも、他のコーチとは違う。

「一緒にお酒を飲むのも、本当に楽しい」

若林が口にする。

「岡本さんと一緒にお酒を飲むのも、本当に楽しいんです。時にはゴルフの奥深い話をしてくださったり、私たちの財産になることがいっぱい。恵まれてますよね、私」

現在の今季賞金ランキングは8位の服部を筆頭に、若林が10位、森田が32位。表、青山はそれぞれ49位、67位と出遅れてはいるが、世界を席巻中の韓国勢がそうであるように、同門に優勝者が出れば「次は私が」とライバル心も刺激され、好循環が生まれやすい。

近々、また"神話"の真実味を高める、門下生Vが見られるかもしれない。

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