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イングランドサッカーで愛される悪童、見放された悪童

サッカージャーナリスト 原田公樹

サッカー選手は結構、暇だ。平日はたいてい午前中の練習を終え、クラブハウスで昼食を取ると、午後から夜にかけては何もない。プロのアスリートとして、「休む」ことも重要な仕事なのだが、体力のある若い選手にとっては、この時間が退屈で仕方ないらしい。

自宅の浴室で花火、消防車が出動

ある日の午後、マンチェスター・シティーのFWマリオ・バロテッリ(21)は、自宅の浴室で友達と花火を打ち上げた。その結果、月額家賃7500ポンド(約98万円)の高級アパートメントから失火して消防車が出動。浴室の一部を焼いただけで、幸いケガ人はいなかったが、この前代未聞の事件は、英国中で大きく報じられた。昨年10月のことである。

当初、バロテッリは浴室で花火を打ち上げた理由について英国メディアに「暇だったから」と話し、"犯行"を認めていた。だが、その後は「友達がやったんだ。悲鳴を聞くまで知らなかった」と弁明している。

真相ははっきりしないが、翌週にはバロテッリ自身が「打ち上げ花火は安全に上げようキャンペーン」の大使に就任する発表を控えていたことが分かっている。たとえ、本当に友達が"主犯"だったとしても、バロテッリの責任は免れない。

大騒ぎの渦中でも試合では結果

イングランドでは、こんな大騒ぎの渦中にあっても、選手は試合に出る。すべてのサッカー選手にモラルを求める日本とは、かなり違う。イングランドはこうした"悪童"にとても寛容なのだ。

バロテッリは浴室花火事件の2日後、アウェーでのマンチェスター・ユナイテッドとのダービーマッチに先発。2ゴールを決める大活躍で、6-1の大勝に貢献した。

しかも先制点を決めた直後、ユニホームをまくり上げて、「WHY ALWAYS ME?(なんでいつも俺なんだ)」というメッセージを見せたのだ。どうしていつも俺ばかり目立つのか、という意味だろう。かなりのお調子者でもある。

カレー屋でチャンバラ、交通事故…

その後もバロテッリの怪童ぶりは止まない。「試合の前々日の夜にカレー屋でチャンバラごっこをして門限破り。1週間分の給与、約15万ポンド(2000万円)の罰金」、「試合でゴールを決め、『ラファエラ、愛している』と恋人にメッセージを披露」、「再び試合の前々日夜にストリップクラブへ行き、門限破りで25万ポンド(3300万円)の罰金」……。

このときバロテッリは、クラブの規則を破ったことよりも、ストリップクラブへ行ったことで、恋人を傷つけてしまったことを悔いる発言をし、論議を呼んだ。

最近も、「2日間の休暇中にミラノへ乗り込み、古巣インテル・ミラノのストラマッチョーニ監督の就任会見に突然押しかける」という奇怪な行動に出た。

さらに「愛車の高級車でスピードを出し過ぎて交通事故」も起こし、「練習中にマンチェスター・シティーのマンチーニ監督と口論」になり、試合中には「無理やりFKを蹴ろうとして、チームメートに制止される」という場面もあった。

騒動は起こすが、きっちり結果を出す

とにかくお騒がせ男なのだが、それでも試合に起用され続け、今季リーグ戦22試合で13ゴールを決めた。ピッチの内外で騒動は起こすが、きっちり結果を出す――。

こうした「才能ある悪童」たちは、イングランドでファンたちに愛される。古くは1960年代からマンチェスター・ユナイテッド(マンU)でプレーした北アイルランド代表の故ジョージ・ベストや、1990年代のイングランドの英雄ポール・ガスコイン。

最近ではマンUのリオ・ファーディナンドやチェルシーのジョン・テリー、またかつてマンUでプレーした、レアル・マドリードのクリスティアーノ・ロナルドも、代表的な才能ある悪童だ。

今も昔も英国大衆紙が、この悪童の素行不良ぶりを微に入り細をうがって報じるから、ファンたちは実によく彼らの悪行ぶりを知っている。

悪童たちに対しておおらかな土壌

イングランドで「フットボール」とは、主に労働者階級の人々に愛されるスポーツで、選手たちの多くも労働者階級や移民の家庭の出身だ。こうした"荒くれ"にシンパシーを感じ、更生していく姿を支え、一方破滅的な人生には同情を寄せる。イングランドには、悪童たちに対しておおらかな土壌がある。

プレミアリーグが世界一のリーグとなったのも、こうしたピッチ内外のスキャンダルで、いつも何らかの話題を巻き起こしていることも大きく関係ある。

いまアーセナルで最も尊敬される選手と言われる主将のFWロビン・ファンペルシーも、かつては悪童の代表格だった。オランダのフェイエノールト時代からチーム内でもめ事を起こす常習犯で、2004年にアーセナルへ移籍後も、たびたび高級車で交通事故を起こした。アーセン・ベンゲル監督が、そのたびに説教をしたという。

ベンゲル監督のこんな言葉で…

そのなかでも、もっとも響いたのは、こんな言葉だったという。「サッカー選手は犬と同じだ。犬は1年で4歳、年を取る。サッカー選手の寿命は短い。だから犬と同じように4倍のスピードで成長しなければならない」

プロ11シーズン目の今季は、現在までに自己最多の27得点を決めている。今季序盤は低迷したアーセナルを現在3位へ引き上げた立役者だ。尊敬される人間になったことで、ピッチでのパフォーマンスも上がった好例だろう。

理解者・マンチーニ監督から見放される?

さて稀代のエンターテイナーであるバロテッリだが、先日、ついに最大の理解者だったマンシティーのマンチーニ監督から、サジを投げられてしまった。

4月8日のアーセナル戦で2枚のイエローカードを受けて退場となり、チームは0-1で敗北。優勝の望みがほぼ消滅する原因となったからだ。

「彼は3、4試合、出場停止になるだろう。それにかかわらず残り6試合でプレーしない」と断言。「今夏に放出するのか?」と聞かれ、「確証はないが、たぶん」と公言した。

その翌日、当のバロテッリは代理人経由で声明を発表し、「クラブに失望させてしまい、本当に申し訳ありませんでした」と正式に謝罪。さらに「シーズン終了後にクラブと話をして、今後のことを協議したい」と残留を希望した。

悪童ぶりも度を越す

悪童ぶりも度を越してしまったらしい。もっとも優勝の可能性が消滅し、来季に向けてのマンチーニ監督流の「お仕置き」かもしれない。

急に"いい子"になってピッチの上でのパフォーマンスも落とすような選手ではないだろうが、少しは神から与えられた才能を生かすことも必要だろう。

いつの日か、バロテッリが誰からも尊敬される選手になったら、それはそれでまたサッカーの奥深さを感じずにいられない。

(記録は17日現在)

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