松坂に整いつつある「逆襲の舞台」
スポーツライター 杉浦大介
ボビー・バレンタインを新監督に迎えて再出発を切ったレッドソックスが、スタートダッシュに失敗している。開幕シリーズでタイガースに3連敗を喫すると、続いてブルージェイズにも1勝2敗。レイズに連勝してやや持ち直したものの、ア・リーグ東地区で最下位に沈んでいる(14日現在)。バレンタイン監督は巻き返せるのか。そしてメジャー復帰を目指してリハビリを続ける松坂大輔は、迷走するチームを助けることができるのか。
■開幕ダッシュに失敗
昨年9月、7勝20敗という散々な結果に終わったレッドソックスは、シーズン最終日にレイズに逆転を許し、プレーオフ進出を逃した。
歴史的屈辱からの再起に向け、オフには8年にわたって指揮を執ったテリー・フランコナ監督の代わりに陽気なキャラクターで知られるバレンタイン監督を迎えて沈滞ムードの一掃を狙った。
しかし、今季の開幕シリーズでタイガースにまさかの3連敗。新生レッドソックスをアピールする意味でも、どうしても成し遂げておきたかった開幕ダッシュはならなかった。
クロフォードらが故障
「まだ多くを語れるほどこのチームを率いて来たわけではないから、(去年の崩壊がチームの士気に影響しているのかどうか)はっきりとは分からない。ただ試合中、練習中の選手たちの目を見る限り、何か問題があるとは思わないよ」
12日にニューヨークのラジオに出演したバレンタイン監督はそう語っていた。確かに出遅れの要因は負のオーラ以外のところにあるのかもしれない。最初の数戦を振り返る限り、今季のチームには戦力面で穴が多いように思えるのだ。
ダスティン・ペドロイア、エイドリアン・ゴンザレス、デービッド・オルティスらがそろう打線は依然として迫力を保っている。ただ過去3度オールスターのケビン・ユーキリスは昨季中盤以降は不振を続けており、去年の球宴以降(今年4月11日のブルージェイズ戦まで)は打率1割台と低迷。
カール・クロフォードは手首のケガから復帰に向けたリハビリ中で、さらに14日には核弾頭のジャコビー・エルスベリーが故障でDL入りしてしまった。
「オフェンスもまだ素晴らしいとまでは言えないけど、粘り強く臨んでくれている。ただボールが(野手のいないところに)落ちていないだけだ」
バレンタイン監督はそう強がっている。本拠地のフェンウェイパークが打者有利であることを考えれば、極端なオフェンス力不足に悩まされることはないだろう。
しかしエルスベリー、クロフォード、ユーキリスらがフルシーズン使えないとなれば、去年メジャー1位だった得点が少なからず目減りしてしまうだろう。高レベルのア・リーグ東地区で勝ち抜くために、視界良好とはとてもいえない。
不安いっぱいの投手陣
もっと先行きが不安視されるのは投手陣である。去年の開幕時の先発ローテーションのうち、松坂、ジョン・ラッキーの2人が故障離脱中。ラッキーは今季中の復帰は難しい状況で、さらに3番手のクレイ・バックホルツも故障明け。加えて4番手を任されるダニエル・バードもリリーフから転向したばかりで未知数と、様々な面で不安は否めない。
案の定、開幕直後には右のエースであるジョシュ・ベケットが7日のタイガース戦で4回2/3で5本塁打、7失点と痛打され、翌8日のタイガース戦ではバックホルツも4回を7失点。超強力打線を誇るタイガース打線が相手だったとはいえ、「先発陣は盤石ではない」という声を裏付ける結果となってしまった。
クローザーにも大きな穴
ブルペンを見渡しても、クローザーだったジョナサン・パペルボンがオフにフィリーズにFA移籍し、大きな穴が空いてしまった。代役としてアスレチックスで過去3年間で通算75セーブを挙げたアンドリュー・ベイリーを獲得したは良いが、そのベイリーもキャンプ中に故障離脱。
去年までセットアッパーだったバードが前述通り先発に回ったこともあって、ベテランのアルフレッド・アセベスを急造クローザーに起用せざるをえなくなった。
■12点取っても勝てず
今季ここまでで最も象徴的なゲームと言えるのが、延長11回の激闘の末に12-13で敗れた8日のタイガース戦である。先発のバックホルツが打たれて乱戦になったが、打線が火を噴いて9回表まで10-7とリード。
しかし9回にアセベスが3点を守れず、再び2点を勝ち越した11回にはマーク・メランコンが打たれ、手痛い逆転負けを喫してしまった。
「クローザーが離脱して厳しくなったが、ブルペンも何イニングかを除けばそれほど悪いわけではない」
バレンタイン監督はそう強がるものの、この状態では今後が懸念されるのは仕方ない。限られた戦力をやり繰りする能力には定評あるバレンタイン監督だが、1年を通じて苦労しそうな雰囲気である。
マイナー相手に順調な調整
さて、そんなレッドソックスの投手陣に松坂は現実的にどんな貢献を果たせるのだろうか。
昨年6月、右肘にトミー・ジョン手術を受けた松坂は、フロリダ州に長期滞在して調整中。メジャー復帰を目指して現在、中4日のペースで投球練習を続けていて、そこから聞こえてくる評判はなかなか良好なものが多い。
4月2日の実戦形式の練習では早くも球速94マイル(約151キロ)を記録。さらに8日にはマイナーリーガー相手に3回を投げて1安打無失点、5奪三振。12日にも3回で1安打無失点、2三振、1四球と順調な調整を続けている。
もちろんマイナーリーガー相手の登板を過大評価するべきではない。しかし12日の登板後、広報を通じて発表された「今日はカーブとツーシームを多めに投げて試しましたが、まずまずの感触でした。次も課題を持って取り組みたいと思います」という本人のコメントからも、ある程度の手応えを感じていることが伝わってくる。
今季は6年契約の最終年
2006年にファンファーレを浴びてレッドソックス入りした松坂も、早くも今季が6年契約の最終年。3年目以降は不振と故障続きで、地元ボストンでは松坂獲得は"失敗"と考えられてしまっているが、今春のリハビリ調整のニュースを聞く限り、復活に向けての期待が膨らむ。
契約最終年で本人のモチベーションが高いことは間違いないし、日本人投手の調整方法を熟知したバレンタイン監督の就任も松坂にとってはプラスになるはずだ。
右肩の状態さえ万全に戻れば、春季キャンプ中から"松坂再生"に自信をみせていたバレンタイン監督の下で気分良く投げることができるのではないか。
■地元メディアも松坂の状態に興味
今季、レッドソックス投手陣が疑問符だらけなのも何かの運命か。ボストンの地元メディアを見ても、"待望論"とまではいえないが、松坂の状態に興味を示し、未来を予測する記事が目につくようになった。
具体的には、松坂が良いコンディションで先発ローテーションに戻って来れば、100マイルの速球を持つバードをリリーフ役に戻すことも可能になるというのだ。
「(バードの起用法に関しては)もちろん話し合ってはいるが、このまま行くつもりだ。シーズンが進むにつれてアジャストメントの必要は出てくるかもしれないが、現時点での変更は考えていない」
ニューヨークのラジオ番組内でバレンタイン監督はそうコメント。当面は現状の起用法を維持するとしながらも、状況次第での変更を示唆している。
松坂がジョン・レスター、ベケット、バックホルツに次ぐ4番手として確立すれば、先発陣は層が厚くなる。同時にバードをブルペンに送れば、そのころに復帰してくるであろうベイリー、昨季アストロズで20セーブのメランコンとの速球派トリオは強力なものと成り得る。
復帰の時期、やや早まることも
松坂復帰により、先発、ブルペンの両方がてこ入りされて、レッドソックス投手陣がポストシーズンを目指すチームにふさわしい陣容となることは十分考えられる。
松坂の復帰時期は6月あたりと考えられていたが、現在のペースならやや早まることもありそうで、それはちょうど「5、6月くらいまでに成績を上げられないと厳しいかもしれない」とバレンタイン監督が指摘していた「勝負の時期」に重なってくる。
その頃から、松坂とバレンタイン監督が手に手を取り合ってのリベンジが始まるのかどうか。まだしばらく慎重に動向を見守る必要があるが、松坂の"逆襲の舞台"は徐々に整ってきている。