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松井、寂しき10年目開幕 なぜ獲得球団がなかったか

スポーツライター 杉浦大介

3月下旬に日本で行われたアスレチックス―マリナーズの日本開幕戦に続き、米大リーグは4日に米国本土でも開幕。春季キャンプでの調整を終えた全チームの選手たちがスタートラインに立ち、ワールドシリーズでの頂点を目指す戦いが始まった。しかしその中に松井秀喜の姿はない。3年前にはヤンキースでワールドシリーズMVPに輝いた松井だが、アスレチックスからFAになった今オフ、獲得に名乗りをあげたチームはなかった。米国生活10年目、なぜこんなことになってしまったのだろうか。

契約の話が具体化することはなく

イチローが所属するマリナーズがアスレチックスと日本で開幕シリーズを戦っている間も、松井は自宅のあるニューヨークで"孤独な自主トレ"を続けていた。もし松井がアスレチックスに残留していれば、このシリーズは「松井対イチロー」と銘打たれ、日本では歴史に残るほどの盛り上がりをみせていたのではないだろうか。

しかし、一時は引き留めにかかると予測されたアスレチックスも、結局は松井と新契約を結ばないことを選択。ヤンキース、インディアンス、オリオールズ、ドジャースなども候補に挙がったが、契約の話が具体化することはなかった。

37歳で迎えた今オフ、松井の仕事探しが条件面で厳しいものになることは事前から予測されていた。しかし、まさか所属チームが決まらないまま開幕を迎えることになるとは、ほとんどの人が考えなかったのではないか。

DHタイプの打者は軒並み職探しで苦戦

このように松井が"無職"となってしまった背景には、高齢の指名打者(DH)タイプの多くの選手が今季"就職難"に苦しんでいる現状がある。

「薬物検査が厳しくなった昨今のメジャーリーグで、30歳代後半の選手はそれほど魅力的な存在ではない。(高齢ゆえに)コンディションを保てるかは微妙で、力を残していてもそれを発揮できるかは疑わしい。特に守備面で疑問符がつくベテランより、若い選手を登用する方が良いと考えられている」

スポーツ・イラストレイテッド誌のトム・バードゥッチ記者がそう記すとおり、今オフに契約を得られなかったベテランは松井だけではない。

通算449本塁打のブラディミール・ゲレロ、通算2723安打のジョニー・デーモン、オールスター6回出場のミゲル・テハダ、2007年のア・リーグ首位打者マグリオ・オルドネスといったかつて一世を風靡した選手たちも、新たな所属先が見つからないまま4日の米本土開幕を迎えた。

リーグ全体を見渡しても、チームの中で確固たる地位を築いているDHタイプの選手はレッドソックスのデビッド・オルティス、ホワイトソックスのアダム・ダンら数えるほどしかいない。

イバニェス、ラミレスはラッキー?

こんな状況下では、フィリーズ時代よりも大幅な減俸となりながらヤンキース入りを果たした39歳のラウル・イバニェス(1年110万ドル)、マイナー契約ながらアスレチックスと契約した39歳のマニー・ラミレス(1年50万ドル)はむしろラッキーといえるのかもしれない。

松井の代理人であるアーン・テレム氏のグループがドジャース買収に名乗りをあげていたが、結局はNBAの元スター選手だったマジック・ジョンソン氏らのグループへの売却で合意。買収に成功していれば、テレム氏の球団幹部入りが噂されていて、松井にとって追い風になったかもしれないが、失敗したためにそんな可能性も現時点では消滅してしまった。

DHはベテランらの休養のために

なぜ、DHタイプが敬遠されるようになったのか。その理由として、近年ではベテラン選手や故障を抱えている選手の休養のためにDHが使われることが多くなってきている事情が挙げられる。

さらにMLB.com内のブログ「Baseball Talk」では、「打つだけの選手より攻守両面で貢献できる選手に投資した方がお得」という経費面の事情も指摘している。

昨年11月に結ばれた新労使協定で、高年俸チームに課せられるいわゆる「ぜいたく税」の制度が一部変更になっている。詳細は省略するが、大まかにいうと"違反"1年目の税率は17.5%だが、違反を重ねると年々税率がアップしていくシステム。

このため、金満ヤンキースですらも、今オフ中には経費削減を打ち出して話題となったほどだ。そんな状況下で、打つだけの選手に高額年俸を払うのは割が合わないのは事実だろう。

また最近はディフェンスの貢献度を測るスタッツが進歩し、チーム作りの過程において守備面がより重視されるようになった。同時に若い好投手が続々と登場し、前記した薬物検査の徹底もあってか、「投高打低の時代」と呼ばれるようになっている。

痛かった昨年の不振

こうしたDHタイプの選手に厳しい状況下で新たな職を得るには、打撃で卓越した数字を残していないといけなかったが、松井の場合、昨季打率.251、12本塁打、長打率.375とメジャー9年間で最低といってよい成績だったことも痛かった。

「(投手に有利の)オークランドを本拠地とした多くの選手と同じく、松井の長打力は疑問視されるようになっている。昨季はホームでわずか4本塁打、長打率も.340に終わってしまった」と前述のバードゥッチ氏は指摘する。

ヤンキースの世界一に貢献した09年は28本塁打、長打率.509だったものの、エンゼルスに属した10年は21本塁打、長打率.459、そして昨季と成績は急激に下降している。

昨年は外野手としても27試合に出場したが、決して名手とはいえず、守備面での貢献はそれほど期待できない。

松井に"逆襲"のチャンスは…

もともと膝に古傷を抱え、いつ爆発するかという不安も残る。打撃成績は下降傾向で、守備や走塁への貢献も高くはない。そんな選手に対する昨季の年俸425万ドルは決してリーズナブルとはいえないだろう。そうした状況を考えれば、今オフに仕事が巡ってこなかったことは決して意外ではなかったのかもしれない。

今後、松井に"逆襲"のチャンスは残っているのだろうか。いまだ所属先の決まらないベテラン選手の動向を占う記事は、米国内でも数多く出回っているが、松井に関する指摘は好意的なものばかりではない。

「オークランドでも二流の成績で終わったとなっては、ゴジラの住処はもうアメリカにはない。松井は依然として国際的なヒーローだが、アメリカでのキャリアは終わった。日本に帰るのが本人にとっても最善だろう」

いつも刺激的な内容の記事を書く「ブリーチャーレポート」のジャレッド・フェルドマン記者はそう記している。確かに「ここまで来たらもう母国に帰り、故郷の人々の前で野球生活を終えるのが最善ではないか。いったいなぜそうしないのか」と考えている人はアメリカにいるようである。

けが人や不振者が出れば…

しかし、松井がシーズン中にメジャーに復帰できる可能性はまだまだあるのではないか。

ケガはいつでも起こりえるだけに、どこかのチームで欠員が生じることはありえるはず。あるいは得点不足に悩むチームがDHのてこ入れを図ろうとしたとき、そのレーダーに松井が引っかかることは十分に考えられる。

いくら固定DHではないとはいえ、昨季323打数で105三振を喫したウィルソン・ベタミットをメインで使う予定のオリオールズ、同じく昨季打率.220にすぎなかったルーク・スコットを登用するレイズなどに注目が必要かもしれない。

松井、ジョニー・デーモンも候補に挙げられながら、最終的にイバニェスを選んだヤンキースにしても、その選択には当初から疑問の声が多かった。そして案の定、昨季は打者有利のフィラデルフィアを本拠地としながら打率.245に終わったイバニェスは、今季オープン戦で打率.150(4日現在)と低迷している。

「松井が目を向ける場所が一つあるとすれば、古巣ヤンキース。イバニェスがこのまま不振を続けた場合、ブライアン・キャッシュマンGMは松井の電話番号をまだ覚えているはずだ」

CBSスポーツのトレント・ロースクランス記者はそう記す。

これまでも何度も松井の復帰の可能性が話題になったヤンキースは、本拠地の右翼が狭いこと、自宅があること、地元ファンから好意的に迎えられるだろうことなど、条件的には松井にとって理想に近い。

再び活躍の舞台が与えられるか

もちろん、高齢選手が多いヤンキースに、松井のようなタイプが特に必要とは思えない(それはイバニェスも同じだが……)。しかし09年ワールドシリーズでの活躍の印象はいまだに強烈。ヤンキースは昨年のプレーオフで貧打に泣いた末に敗退しているだけに、電撃復帰の可能性があるチームとして、最後まで注視していくべきだろう。

いずれにしても、松井に再び活躍の舞台が与えられるとすれば、条件に合うチームからケガ人か不振の選手が出た場合。完全に他者頼みで、自身の運命を自らの手でコントロールし切れない厳しい立場ではある。

もし契約できても、例年通り夏場に向けて徐々に調子を上げていく余裕はない。すぐに結果が残せなければ、直ちに見限られてしまうだろうだけに、現在、一人で行っている自主トレに精を出し、いつでも力を出せる状態に仕上げておく必要がある。

輝かしい松井の野球人生で、おそらく最後にして最大のピンチ。これまで多くの喝采を浴びてきた選手が、このままフェイドアウトしてしまうとしたら余りにも寂しい。チャンスを1人で待つ松井に、リベンジの機会は訪れるだろうか。

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