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「日本のゲームは最低」 波紋を広げたゲーム開発者の発言

ゲームジャーナリスト 新 清士

日本の最近のゲームは「最低だね(Suck)」……。

今年3月5日~9日に米サンフランシスコで開催されたゲーム開発者会議(GDC、Game Developers Conference)。そこで一人のインディーズ(独立系)開発者の発言が会場のみならず大手メディアやツイッターなどソーシャルメディアを巻き込んだ大論争に発展した。

日本のゲームは「最低」発言

GDCの初日に「インディゲーム・ザ・ムービー」というインディーズ開発者たちを追ったドキュメンタリー映画の完成披露の上映会が開かれた。

登場する開発者たちは何億円もの売り上げをあげることに成功している。インディーズ開発者たちの"夢の体現者"たちが登場すると、立ち見が出るほど満員になった会場は、上映終了後にスタンディングオベーションで包まれた。

フィル・フィッシュ氏

"事件"が起きたのは、上映後に行われた監督や登場人物たちとのパネルディスカッションの時だ。質問者として日本のフリーのゲームプログラマー、後藤誠氏が立った。

「インディーズゲームの開発者が、子供時代に日本のマリオやゼルダといったゲームに影響を受けていると言っていることをとても名誉に思う。そこで、最近の日本のゲームはどう思うか?」と聞いた。「日本のゲームはホント、最低だね」。マイクを最初に握ったカナダ人のインディーズゲーム開発者フィル・フィッシュ氏は、こう短くコメントした。

会場は一瞬凍り付き、ざわついた。他の講演者はフォローを入れるようなコメントをしたが、後藤氏はそうした発言が戻ってくるとはまったく想像していなかったために、ショックを受けてすぐに会場を立ち去った。

大騒ぎになったフィッシュ氏の発言

このフィッシュ氏のコメントは、その夜、米国のゲームメディアで報じられたことで、大騒ぎに発展した。フィッシュ氏のツイッターアカウントには全米から非難が集中。「あまりに失礼な発言ではないか」「文化を批判することはひどい」などなど、日本のゲーム愛好家からの批判が一晩中続いた。

フィッシュ氏はそれらの発言に対して、さらに発言している。「ツイッターで自分がコメントをしたのは最近の日本のゲームに対して考えていたことだ」と、向けられた批判を訂正するように求めたり、「国や文化を批判したのではない」といった書き込みもしている。しかし、彼のツイッターには一晩中、大量のコメントが押し寄せ、最後には「もう勘弁してくれ」というニュアンスの発言になった。

質問をした日本人が誰なのかも大きな話題になった。ツイッターを通じて、後藤誠氏であることが明らかになると、フィッシュ氏は最終的には無礼であったことを後藤氏に謝罪した。後藤氏も自分の英語力の不足で、フォローしてくれた他の発言を聞き取れなかったことを述べていた。あるブログでは、フィッシュ氏の発言は、半分はジョークのようなニュアンスを持っていたことを後藤氏が理解できなかったのだろうとも指摘されている。

フィッシュ氏はGDC終了後に「自らのツイッターアカウントを永遠に更新しない」と発言して、関連する多くの発言を削除、整理している。ただ、「あくまで発言は不用意だった」ことは認めたものの、「最近の日本のゲームはどうしようもないほどつまらない」という発言は残している。

日本のゲームはノスタルジー

「FEZ」の公式サイト

フィッシュ氏は「FEZ」というゲームの開発を、事実上2人で、5年あまり続けている。このゲームは「スーパーマリオ」が全盛期であったころのようなクラシックな絵柄に、3Dを加えてマップの展開を切り替えていくという新しいタイプのアクションゲームだ。

映画に登場するゲームでは唯一「FEZ」だけが延期に次ぐ延期で、リリースされておらず、彼が夢の体現者側になれるかわからないまま銀幕のストーリーは終わる。このゲームが、誰もが子供時代に遊んだ、ファミコンやスーパーファミコン時代の懐かしいゲームから影響を受けていることは、フィッシュ氏も認めている。

一方で、フィッシュ氏は挑発的な発言をすることでも知られている。イベントでの「事件後」の米誌Game Trailersのインタビューの中で、超大型タイトルの一人称戦争ゲームを「戦争のポルノゲーム」だと批判して「『コール・オブ・デューティ』(アクティビジョンブリザード)も嫌いだ」とも言っている。

ただ、フィッシュ氏の発言がここまで大騒ぎになったのは、漠然と欧米の開発者が考えていたことを鋭く突いたからなのだろう。日本のゲームにはノスタルジーは感じていても、近年、大きなイノベーションを起こしていないのではないかと、特にインディーズ開発者は感じているように思えるのだ。

ゲームは「3極化」が進んでいる

今、欧米圏のゲームは、3種類のゲームしか系統が存在しなくなりつつある。

トリプルA(AAA)タイトルといわれる、開発費が数十億円かかるような、まだパッケージが強い「超大型ゲーム」か、長期間遊んでもらうコミュニティ性を重視した「ソーシャルゲーム」か、フィッシュ氏が開発しているような「インディーズゲーム」だ。

トリプルAタイトルはビジネス的に博打性が高まっており、そこで使われている技術もどんどん高度なものになっている。少々のことでは他社が追随したり模倣したり争うことはできない領域にまで達しているのだ。「コール・オブ・デューティ」、アクションゲームの最高峰「アンチャーテッド」(ソニー・コンピュータエンタテインメント)などは、もう新興の他社が追いつけるレベルではない。家庭用ゲーム機のパッケージ市場はそれらのゲームとその続編で、ほぼ完結しつつある。

一方で、ソーシャルゲームは新たに全盛期を迎え、ミドルサイズの家庭用ゲーム機向けゲームを市場から駆逐しつつある。質は着実に向上しており、もう、ユーザーはそこそこのパッケージゲームには、50ドルものお金を払ってはくれない。ただ、ソーシャルゲームは無料か限りなく低価格の「サービス」に近いため、ゲームそのものにメッセージ性を込めたり、ストーリー性を含めることが難しい。

だが、ゲームそのものとして、きちんと完結しているものを望むユーザーは決して少なくない。その市場を埋めるように、様々な手法が試されているのがインディーズゲーム市場なのだ。

iPhoneのようなスマートフォン市場で提供される1ドル前後のシビアな低価格ゲームから、Xbox360でマイクロソフトが積極的に推し進めている「Xbox Live Arcade(XBLA)」のような10ドル以上のゲームまで価格帯はバラバラだ。しかし、共通する特徴は、ネット流通を利用したダウンロード販売を行うタイトルであることだ。

XboxLiveArcadeのページ

マイクロソフトは、質の高いインディーズゲームを選んで投入する戦略を採っている。そして、新作は週に1本程度しか追加せず、比較的高い価格水準にゲームの販売価格を維持することで高い収益を生み出す環境を守っている。映画に登場する人々は皆、XBLAで成功した人々だ。

調査サイトよると、XBLAは2011年に1億4400万ドルを売り上げ、前年よりも18%も売上が伸びている。トップ10位のタイトルは20~30万本を販売し、460万ドルもの売上高を達成したゲームも出ている。何百人も抱える大規模なゲームスタジオにとっては小さな金額だが、少ない人数で開発したインディーズ開発者にとってこの収益は巨大だ。

だから、インディーズの開発者がなだれ込んでくるのだ。今では、マイクロソフトは何十億円も開発費が必要な大型タイトルへの投資を絞るようになり、こうしたインディーズゲームの取り込みに力点を移しつつある。

この動きは、ネット流通を展開する他社にも共通している。各社とも優れたインディーズゲームを自社のプラットフォームに掲載するための獲得合戦を続け、完成度の高いゲームができあがったら自社に取り込むのだ。その方が開発費のリスクも小さく、収益も上げやすい。ミドルレンジのゲームを開発していた既存のスタジオは、こうしたインディーズゲームに押されている。半面、収益性が見えにくいため、少ない人数の開発体制でなければ、何年にもわたる開発期間のリスクを負えなくなってきている。

広がるインディーズゲームのムーブメント

GDCPlayの様子

GDCの会場では、新しい試みとして、今年、GDC Playという展示イベントも開催された。ここではインディーズの開発者を中心に小さなブースを持ち、来場者にアピールし商談機会を探ろうという試みだ。企画は大成功し、50ブース以上で展示が行われ、インディーズゲームの博覧会のようになった。

「この開発者は日本の格闘ゲームが好きなんだろうなあ」と感じられる、なぜか武装したセクシーな女性が格闘するゲームなど、「これはビジネスになるんだろうか」と思わせるものもあった。ただ、世界中から多様なゲームが展示されているインディーズゲームの裾野の広さには驚かされた。

そして、インディーズゲームの最高峰は、GDCで行われる「インディペンデント・ゲームズ・フェスティバル(IGF)」の授賞式だ。全世界700タイトルものタイトルから、厳しい審査を受けて勝ち抜いたゲームは粒ぞろいで、見たこともないような新しいイノベーションを実現したゲームが毎年のように登場する。

IGFでグランドプライズを受賞したフィル・フィッシュ氏の様子

最終ノミネーションに残るのは40タイトルあまりで、それらの展示ブースは毎年人でごった返すほど大人気を博す。そして、開発者にとっては、10部門ある賞を取れるかどうかで人生が変わる。セレモニーで見事受賞し、壇上で声を震わせながら、両親や友人たちに感謝を述べる姿には、毎年感動させられる。何年も孤独に耐えながら、自分を信じて作り続けた結果だからだ。

今年、フィッシュ氏の「FEZ」は、最高のグランドプライズを受賞した。過去、日本製ゲームの受賞歴はない。冒頭で紹介したフィッシュ氏の"刺激的"な発言を好意的に受け止め代弁すると、日本に対して言いたかったのは、「今のゲームの世界を牽引するインディーズで、革新的なゲームを作って勝負してこい」ということかもしれない。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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