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米大リーグ、ストーブリーグの「勝ち組」と「負け組」

スポーツライター 杉浦大介

大リーグの春季キャンプ開始も間近に近づき、各チームの戦力補強もそろそろ終わりに近づいている。まだ投手ではロイ・オズワルト、野手ではジョニー・デーモン、松井秀喜といった著名選手もマーケットに残ってはいるものの、今オフの目玉といわれた選手の去就はほぼすべて確定。今オフのストーブリーグの結果はどうだったのか。今回は「勝ち組」「負け組」を探ってみた。

<勝ち組>

投打の目玉を獲得したエンゼルス

過去2シーズン、レンジャーズにア・リーグ西地区の優勝をさらわれたエンゼルスは、覇権奪回をかけて今オフに大補強を敢行した。

現役最強打者といわれ、カージナルスからフリーエージェント(FA)となったアルバート・プホルスを、10年2億5400万ドルの超大型契約で獲得。さらにライバルであるレンジャーズのエースで、過去2年間に通算31勝を挙げたCJ・ウィルソンにも5年7750万ドルの好条件を提示し、首尾良く今オフの投打の目玉を手に入れた。

なぜこんな大盤振る舞いが可能だったのか――。それはエンゼルスと地元テレビ局の「FOX」が20年30億ドルという途方もない新契約を結び直したため。おかげで資金豊富になり、同時に新たな目玉スターがほしいというビジネス上の事情もあり、2人の選手に総額3億3150万ドルを費やすという超大型補強が可能になったのである。

現在32歳(実際はもっと上との説もある)のプホルスに、10年契約を与えるのは危険という声もある。契約5、6年目以降は"不良債権"となってしまう可能性も少なからずあるだろう。だだ少なくとも向こう3~4年は、過去11年連続で30本塁打以上をマークしているスラッガーが打線に大きなインパクトを与えることは間違いあるまい。

このプホルスに加え、今オフにはハウィ・ケンドリック(昨季打率.285、18本塁打)と4年3350万ドルという比較的リーズナブルな価格で契約延長。さらに09年に打率.306、34本塁打をマークしたが、故障のために昨シーズンは棒に振ったケンドリー・モラレスも今季復帰予定だ。

プホルス、トリー・ハンター(昨季打率.262、23本塁打)、ケンドリック、ボビー・アブレイユ(.253、8本塁打)、モラレス、バーノン・ウェルズ(.218、25本塁打)、マーク・トランボ(.254、29本塁打)らがそろった打線は魅力十分といって良い。

さらに先発投手陣にもウィルソンが加わり、これでエースのジェレッド・ウィーバー(昨季18勝8敗、防御率2.41)、ダン・ヘイレン(16勝10敗、3.17)、アービン・サンタナ(11勝12敗、3.38)という強力先発ローテーションが完成。質量ともに、フィリーズ、ジャイアンツ、レイズなどと並びリーグ最高級の先発投手陣が誕生した。

今オフの補強の後でも、過去2年連続ワールドシリーズに進出したレンジャーズの方が依然として優勝候補筆頭だと見る関係者は多い。しかし少なくとも、その差をエンゼルスが詰めたことは確実。今季のア・リーグ西地区では、戦力充実の2強の間でハイレベルな優勝争いが展開されそうだ。

ダルビッシュ獲得のレンジャーズ

2年連続ア・リーグ王者のレンジャーズは、目立った補強としてはポスティング制度を通じてダルビッシュ有を獲得したのみ。今オフの目玉の1人だった強打のプリンス・フィルダー争奪に参戦との噂もあったが、フィルダーは結局タイガースと契約した。通算159勝の右腕、オズワルトにも興味を示してはいるが、2月上旬時点でまだ獲得成功には至っていない。

メジャーで実績のないダルビッシュに1億1170万ドル(ポスティングで5170万ドル+6年6000万ドルの契約)もの投資は、リスクが大きいことは間違いない。今オフの主な動きはこの"ギャンブル補強"だけで終わりそうなこともあり、中にはレンジャーズを「負け組」に含めている記者もいる。

ただ2年連続でア・リーグを制し、充実した戦力を誇るレンジャーズにとって、もともと足りない部分は多くなかった。攻守にバランスの取れたチームで、唯一必要とされたのが大試合を任せられるエースピッチャーだった。

そして今オフにマーケットに出た投手の中で、「エース級のポテンシャルを持つ」と評価されたのはダルビッシュのみ。だとすれば、その投手が手に入った時点で今オフの補強は成功と考えても良いのではないか。

「今オフに請われて移籍したジオ・ゴンザレス(ナショナルズ)、マット・ラトス(レッズ)、マイケル・ピネダ(ヤンキース)、トレバー・ケーヒル(ダイヤモンドバックス)、クリス・ボルスタッド(カブス)といった投手たちと比べても、私はダルビッシュが上だ考える。彼はすぐスターになるのではないか」

スポーツ・イラストレイテッド誌の有名記者、トム・バードゥッチ氏はそう記している。そんなバードゥッチ氏の言葉通りに進めば、レンジャーズのオフ戦略は大成功となる。特にプホルスを獲得したエンゼルスとのライバル対決の際には、ダルビッシュの右腕に全米が注目することになりそうだ。

新生マーリンズを機に大補強

マイアミに完成した新球場に移転し、旧称フロリダ・マーリンズは今季からマイアミ・マーリンズとなって新たなスタートを切る。

その目玉として、昨季のナ・リーグ首位打者ホセ・レイエス(6年1億600万ドル)、通算161勝左腕のマーク・バーリー(4年5800万ドル)、3年連続40セーブ以上のヒース・ベル(3年2700万ドル)といったFA選手と契約。さらに通算125勝右腕のカルロス・ザンブラノもトレードで獲得するなど、スター選手を次々に手に入れた。

もともとマイク・スタントン(22歳、昨季34本塁打)、ローガン・モリソン(24歳、同23本塁打)といった若手タレントは豊富だったチーム。新入団の実績あるベテランとヤングスターがうまくかみ合えば、戦力アップは確実。

近年はフィリーズの天下が続いているナ・リーグ東地区で、今季はマーリンズが台風の目になっても不思議はない。

ただ、そんな楽観論の一方で、マーリンズの補強の効果に懐疑的な関係者も少なからず存在する。

故障の多いレイエス、絶対的な投手とはいえないバーリー、すでに34歳のベルは本当に高額投資に値する選手なのか。レイエス加入のおかげで三塁コンバートを余儀なくされたチームの看板ハンリー・ラミレスは気分良く働けるのか。「問題児」ともいわれているザンブラノはチームに難題をもたらさないか。

こうした懸念が当たってしまった場合は、強力なリーダー不在のチームが空中分解してしまう危険性もありそうだ。そんな事態を避けるべく、まずはリーダーシップの確立が当面の課題となる。

新たに獲得されたどのスター選手より、今季からマーリンズの指揮を執る名将オジー・ギーエン監督が最も重要な"新戦力"という見方もできるのかもしれない。

タイガース、フィルダー獲得で破壊力満点

タイガースは昨季打率.330、12本塁打、103打点の好成績を残したビクター・マルチネスが故障離脱すると、代役としてまだマーケットに残っていたプリンス・フィルダー(昨季.299、38本塁打、120打点)と素早く契約。なんと9年2億1400万ドルという破格の好条件を提示し、業界関係者の度肝を抜いた。

27歳の若さとはいえ、すでに体重超過気味のフィルダーとの長期契約は賢明ではないという見方もある。プホルスの大型契約と同じく長期的に考えた場合、チームにとってマイナスになりかねない。

そしてフィルダーが一塁、ミゲル・カブレラが三塁を守る今季のタイガースの内野陣は、守備力ではメジャー最悪になったとの指摘も的を射ているだろう。

ただそれでも、少なくとも短期的にはプラス要素がマイナス要素を上回る。カブレラ(昨季.344、30本塁打、105打点)、フィルダーというタイガースの新3、4番の破壊力はおそらくメジャー最高級。さらにアレックス・アビラ(.295、19本塁打)、ジョニー・ペラルタ(.299、21本塁打)、デルモン・ヤング(昨季プレーオフ通算5本塁打)らまで含め、もともと強力だった打線がさらにパワーアップすることは確実だ。

先発投手もジャスティン・バーランダー(24勝5敗、防御率2.40)、ダグ・フィスター(昨季移籍以降8勝1敗、防御率1.79)、マックス・シャーザー(15勝9敗、4.43)という3本柱が揃い、ブルペンにもホセ・バルバーディ(49セーブ、防御率2.24)が控える。

有力選手がそろうパワーハウスとなったタイガースは、今季のア・リーグ中地区でダントツの本命と目されることだろう。

ヤンキース、1日で先発投手補強

今オフのヤンキースは当初、不気味なほど静かだった。目立った動きは3年連続19勝以上のCC・サバシアと5年1億2200万ドルで契約延長し、ベテランのフレディ・ガルシア(昨季12勝8敗、防御率3.62)とも1年400万ドルで再契約したくらい。

エースレベルではないと判断したウィルソンに目もくれず、ダルビッシュへのポスティング投資にも本腰は入れぬまま。課題と言われた先発陣のてこ入れは果たせずじまいで終わるかと思われた。

しかし、ヤンキースはやはりヤンキース。1月13日に、マイケル・ピネダ(昨季9勝10敗、防御率3.74)、黒田博樹(13勝16敗、3.07)という2人の上質な先発投手を獲得して業界をあっと言わせた。

大型ホープの捕手ヘスス・モンテロを放出してまでトレードでゲットした23歳のピネダは、一部スカウトが「モンスター級の才能」と呼ぶほどの素材。100マイル近い剛球を投げ、昨季新人ながらオールスターに選ばれたスター候補である。

将来性豊かだがまだ粗削りなそのピネダに加え、安定感抜群の黒田を1年1000万ドル契約で獲得し、うまくバランスを取ったのも大きい。

こうしてヤンキースの投手陣補強はたった1日で完了。昨季はローテーションに常に不安がささやかれたチームが、現時点でサバシア、イバン・ノバ、ピネダ、黒田、ガルシア、フィル・ヒューズ、AJ・バーネットと7人の実績ある投手を抱えるに至った。その気になればこの中から1、2人をトレード要員にして、開幕後にでも必要箇所にさらなる補強を図ることもできる。

ヤンキースはここで改めて「オフの王者」らしい姿を誇示し、今季も優勝候補筆頭と呼ばれるにふさわしい陣容を整えてみせたのである。

<負け組>

レッドソックス、インパクトのある新顔は監督ぐらい

昨季は終盤の歴史的な崩壊劇でプレーオフを逃し、その後にテリー・フランコナ監督、セオ・エプステインGMといった黄金期の立役者たちがチームを去った。新たな第一歩を踏み出すために、インパクトのある補強をしたかったところだろう。

しかし目立った新戦力は、FAでフィリーズへと去ったジョナサン・パペルボンに代わる代役クローザーとして、アスレチックスからアンドリュー・ベイリー(昨季24セーブ、防御率3.24)を獲得したくらい。このベイリーにしても、プレッシャーの厳しいア・リーグ東地区で働けるかどうかはまったくの未知数だ。

しかも昨季までのショートストップだったマルコ・スクータロとジェド・ロウリーを放出してしまい、現時点で確固たる正遊撃手が不在(ニック・プントとマイク・アビレスの2人が候補)という状態になっている。

もちろん打線は依然として強力だけに、それほど大きな心配はないのかもしれない。投手陣もジョシュ・ベケット、ジョン・レスターが力を発揮し、ダニエル・バードの先発転向が成功し、松坂大輔が予定通り復帰できれば先発ローテーションもハイレベルになる。

しかし着実な戦力アップを遂げたヤンキース、タイガース、エンゼルス、レンジャーズといったア・リーグの他の強豪に比べ、今オフのレッドソックスはやや後れをとっている感は否めない。

そんな中で最もインパクトのある"新顔"といえるボビー・バレンタイン新監督が、チームにどう活力を注入するかが注目される。

主砲と名将が去ったカージナルス

昨季、通算11度目のワールドシリーズ制覇を果たした喜びもつかの間、直後に名将、トニー・ラルーサ監督が退陣を表明。さらに主砲プホルスもFAでエンゼルスに去り、長くチームの顔であり続けてきた両輪を一挙に失う結果となった。

新たに2年2600万ドルで獲得されたカルロス・ベルトラン(昨季打率.300、22本塁打)はまだ力を残してはいるが、プホルスとは比べるべくもない。新監督のマイク・マシーニー氏は人望厚いが、指揮官としての経験はゼロ。

現在の陣容では、たとえエースのアダム・ウェインライト(09~10年の2年で合計39勝。昨季は右肘手術で全休)が完調で復帰したとしても、カージナルスの連覇は難しいのではないか。

主力が次々に流出のアスレチックス

今オフにジオ・ゴンザレス、トレバー・ケイヒル、アンドリュー・ベイリーといった主力投手たちを次々と放出した。契約切れ前にスター選手をトレードして若手タレントを得るのはアスレチックスの常とう手段だったが、この3人は数年先までFAにはならないだけに、その動きに疑問は残る。

野手陣を見渡しても、ジョシュ・ウィリンガム、松井秀喜、デビッド・デヘススといった昨季の主力はそろって流出。この一連の"チーム解体"は、15年までにもくろむサンノゼ移転へ向けての準備というのが建前となっている。

ただ実際には、サンフランシスコに本拠を置くジャイアンツの反対で移転話も暗礁に乗り上げている。そんな状況下で、主力を売り払っているのは「単なる経費削減ではないか」という声も飛び出している。

このままでは、マリナーズとの今季開幕戦で来日する残りメンバーの士気も高まらないに違いない。

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