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ソーシャルゲームが抱える潜在リスク

「射幸心」あおる仕組みとは

ゲームジャーナリスト 新 清士

ソーシャルゲーム市場が急拡大するなか、その潜在的なリスクが顕在化している。市場を牽引するディー・エヌ・エー(DeNA)とグリーの係争が激しさを増しているうえ、ユーザーの射幸心をあおるようなゲームの仕組みが指摘されているためだ。消費者庁もそうした問題を認識しており、今後、同ゲームが成長するうえでの壁となる懸念も出てきた。

昨年6月、DeNAは独占禁止法で排除命令を受けた。特定のゲーム制作会社がDeNAのライバル会社にゲームソフトを提供しないよう圧力をかけたことに対する措置だ。

DeNAの最大のライバルといえばグリー。最近、両社と取引があるソーシャルゲーム会社の幹部に話を聞いた。彼によると、両社とも「2社に対して公平に(ゲームを)提供することは許さない」という態度を強くしているという。

ゲームソフトを交流サイト(SNS)で公開する際には、まずSNSの運営会社にソフトの内容を示し(公序良俗に反していないかどうかなどの)審査を受ける。もしその段階で公開が認められず、同じ企画をライバル会社に持ち込み、リリースされた場合にはどうなるか。すべてのSNSが該当する訳ではないが、最初に企画を持ち込んだ会社から二度と取引を行わないと「暗にほのめかされる」こともあるという。ゲームをリリースした後ではなく、掲載を認める前段階で圧力を加えるように変化してきている。

こうしたいびつな慣習が続いている一方で、ソーシャルゲームは別の潜在的な問題を引き起こしつつある。

収益性が高い人気のガチャ方式

日本のソーシャルゲームはグリーが提供している「探検ドリランド」に代表されるような「カードバトル」の方式が人気を集めている。

「探検ドリランド」の公式ページ

このカードをランダムで獲得する方式を「ガチャ」モデルという。自動販売機に硬貨を入れてレバーを回すと、オモチャが入っているカプセルが出てくる「ガチャガチャ(もしくはカプセルトイ)」をもじったものだ。

ソーシャルゲームの場合、お金を支払って、ガチャを引く権利を得て、アイテムやカードを得る。ユーザーがレベルアップして強くなるためには、ガチャを何度も行う必要がある。強力なレアカードを獲得するためには、高額なガチャを何度も引かなければならない。

また、レベルの低いカードでも、そのカード同士を一定数集めて「合成」すると、強いカードを得ることができる。レベルの低いカードでも、ゲームを有利に進めることができるような仕組みにしているのが普通だ。

従来、人気があった「ロワイヤル形式」と呼ばれるものでは、お金を使った分だけ簡単にレベルアップすることができた。しかし、新しいゲームでは、強いユーザーであっても、確実に勝ち進めることができないのがポイントだ。

ガチャはパソコン用のアイテム課金式のオンラインゲームで2005年頃に生まれ、日本国内で急速に普及した。熱中するとレアなアイテムを獲得しようと多額の金額を使ってしまう傾向がある。

パソコン向けのオンラインゲーム「真・女神転生IMAGINE」(ケイブ)は、09年のピーク時には、利用者の平均単価が月1万6000円を越える高い客単価となった。このシステムがソーシャルゲームのカードバトルでも普及。多くのカードゲームでは、収益の7割をガチャが占める状態だという。

アイテムの確率に規制がかかるリスク

昨年10月、消費者庁は「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」という発表を行っている。その中で、オンラインゲームの問題にも言及している。

「完全無料でゲームをプレイ可能」と表示しながら、「実際にはアイテムを購入しないと、ゲームが一定のレベルから先に進めない」という点を問題としたのだ。現在では、DeNAが23日に発表したMobage(モバゲー)の「魔法先生ネギま!」(タイトー)のように「基本プレイ無料、アイテム課金制」という形で表示することが一般化している。

消費者庁ホームページ

09年から10年にわたり、国民生活センターには「『無料』とうたっていた携帯電話用のオンラインゲームを遊び、後日高額な請求を受けた」という多くの声が寄せられた。「アイテム課金制」の表記は、こうした苦情を受けたものと思われる。

しかし消費者庁が10月に発表した内容には、業界関係者はホッとしている。消費者庁が「確率」の問題にまで、踏み込まなかったためだ。パソコンのオンラインゲームでガチャが普及し始めたころから「ガチャでレアなアイテムを獲得できる"確率"の問題を行政が指摘するのでは」という懸念がつきまとっていたためだ。

現在のカードバトルゲームのキャラクターの原型は、1985年にロッテが発売して大ブームとなった「ビックリマンチョコ」に付属していたシールの絵柄にあるといわれている。ウエハースのおまけとしてシールが付属しており、その中で、ホログラム素材を利用したレアなカードがあった。キャラクターはホログラムできらきらと光るディフォルメされた二頭身。くっきりとした色調で人気が高かった。

今の日本のカードゲームのプレイヤーの中心層は30歳代である。子供時代に慣れ親しんだ絵柄に近いことが、今のソーシャルゲームの人気を作っている要因だといわれている。

ただし、「ビックリマン」は、特別なレアカードの枚数をコントロールしていたため、「子供の射幸心をあおっている」という社会的な批判を受けた。大量に買い占める「大人買い」という言葉も登場し、カードを手に入れた後のお菓子が大量に廃棄されるといった事態まで起きるようになった。

批判を受ける形で、1988年に公正取引委員会(現在は消費者庁に移管)が、レアカードなどの登場比率を同じにようにするように業界に自粛を求めた。ロッテは特定のカードの登場比率を自由に設定することをやめ、そのためレアカードの価値が下がってブームが去る原因になったといわれている。

ガチャモデルは「ビックリマンチョコ」に似ている要素がある。ゲームのシステムも同様に見えるが、根本的に大きな違いがある。

パチンコに近い確変システムが登場

ガチャを使ったソーシャルゲームの場合、それぞれのカードの登場比率は、ユーザーのゲーム内の情報を見ながら、ゲーム会社がコントロールするのが一般的だ。もちろん、それらの情報は、ゲーム会社にとってはゲームシステムの中核となる部分だ。ユーザーからは、登場するレアカードの登場比率を確認しようがない。そのため、さらにハマってしまうことが引き起こされる。

「ドラゴンコレクション」の公式ページ

ユーザーが熱中するガチャの仕組みは、パチンコの確率変動システムにも近づきつつある。「ドラゴンコレクション」(コナミ)では1月にガチャを連続して利用していると、次に登場するレア性の高いモンスターが登場する場合、予告が出るようになった。ユーザーが「予告」を見ると、さらに連続してガチャをやりたいという気持ちになりやすい。

ソーシャルゲームで「カード」と呼んでいるものは、物理的なカードと異なり、一種のデータに過ぎない。このため一つのカードを制作するコストはゼロに近い。それを何度も引いてもらえば、大きな収益につながる。さらに登場確率をコントロールすることで、射幸心をあおりやすいゲームデザインへと向かい始めている。すぐに、他社も追従してくると考えられる。

ユーザーが納得して支払っているとはいえ、一人のユーザーから月にいくらまでなら、課金することが妥当なのか、社会的なコンセンサスができているとは言い難い。ソーシャルゲーム各社にとって、ユーザーがどの程度の料金を支払い、年齢や性別、職業など、どのような分布になっているかという情報は、最大の企業秘密だ。表に出てくることはまずない。

業界団体で自主規制する時期はくるのか?

相対的な比較としてパチンコ・パチスロの例を挙げよう。05年に財団法人社会安全研究財団が行った調査では、パチンコ・パチスロの一回の投資額(戻ってくる場合があるため利用額とは言わない)は、1万1500円~1万3100円で、月来店の頻度は約3回という結果がでている。パチンコ・パチスロのユーザーの月平均利用額の概算は3万4500円~3万9300円。この金額が社会的に適切かどうかは判断が難しいが、一つの目安にはなると考えられる。

日本遊技機工業組合の公式ページ

パチンコ・パチスロの業界団体である日本遊技機工業組合は、「風営法に基づいた遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則」を意識しながら、内規によって自主規制を定めている。今後、類似するようなルールを、DeNAやグリーといったソーシャルゲーム会社が共同で決める事態が生まれる可能性はある。

国民生活センターの「最近の事例」(昨年12月の更新)では、アイテムを獲得する確率の問題は、相談の中には含まれておらず、ユーザー側から問題視する動きは見えていない。ガチャの人気は日本特有のもので、海外の法令も参考にならない。とはいえ、今後何かの出来事をきっかけにして、社会問題化するリスクを内包していることは、意識しておいた方がいいだろう。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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