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「ソーシャルゲーム」の収益性を計る米ジンガの上場

ゲームジャーナリスト 新 清士

2億3000万人のユーザーを抱える世界最大のゲームプラットフォームに成長した米ジンガが昨年12月16日にナスダックに株式を上場した。昨年の米国証券市場で最大規模の上場とあって注目を集めたが、その結果は今のところ「ソーシャルゲーム」に対する期待と落胆がない交ぜなものとなった。

ジンガのホームページ

ジンガの時価総額は2011年2月時点で70億~90億ドルともいわれ、上場時には100億ドルに達するとの観測もあった。ふたを開けてみると公開価格は10ドルで、10億ドルを調達した。しかし、その後はすぐに値下がりし、10%低い9ドルを割り込んだ。それでも米エレクトロニック・アーツに並ぶ水準といえる。

ただ、そもそもの設定価格が高すぎたのではないかという疑問と、上場プロセスで明らかになったジンガの成長性と収益力への不安が指摘されている。

ジンガは現在でもフェイスブック上のゲームで圧倒的に優勢な地位にある。ユーザー数では約2億3000万人と、第2位のエレクトロニックアーツの約5000万人、3位に躍り出た独Woogaの約3600万人に比べても断トツだ。

2億3000万人のうち課金は3%

12月の上場直前に米マーク・ピンカスの最高経営責任者(CEO)は投資家に対し、ジンガに関する一部の情報を開示した。その情報は衝撃的だった。

2億3000万人のユーザーを抱えながら、11年9月までの1年間の間にアイテム課金を行ったのは770万人という内容だった。これは全体で3%以下のユーザーにしか課金していない計算になる。

米メディアのBusiness Insiderは、ジンガの成長はすでに止まっていると指摘。09年に急成長した後、同社は10年に入ってから2億5000万人のユーザーの「壁」を越えられていないことから、「ジンガの成長には限界が見えてきたのではないか」と分析している。

同社は10年秋にも2億人を割り込む時期があり、そのときにも成長の限界が指摘された。しかし、10年12月にリリースした、街を育てるゲーム「CityVille」によって、ピーク時には9000万人近いユーザーを集めることに成功し、再びユーザーを取り戻している。このゲームのユーザーは現在では約4900万人まで減少しているが、ソーシャルゲームの中ではトップの人気を保っている。

ジンガのプレイヤー人数のランキング

一方、この年末商戦では、10年ほどの大ヒットを生み出すことができなかった。上場直前の昨年10月、目玉のタイトルとしてリリースした「Mafia Wars2」は、ピーク時には1630万人を集めたものの現在では、400万人を割り込んでいる。

11月にリリースした城を育てるゲーム「CastleVille」はピーク時には3800万人を超えたが、その後大きく伸びず、現在では3400万人になっている。成長をけん引する新しいキラータイトルが見えていない状態にある。

また、この18カ月間、ジンガの収益はほとんど増加していない可能性がある。

11月4日に米証券取引委員会に提出された上場申請の書類では、11年第1四半期より、11年第3四半期の9カ月間売上高は上昇している。ただ、将来の販売額を示す予約受注(Booking)は横ばいで、この数字の方が実態に近いとみられている。予約受注はアイテム販売などで遅れている収入に連動するからだ。

ジンガの売上と予約受注額の変化(出典:米証券取引委員会への提出書類より筆者作成)

予約受注だけをみると、11年第1四半期は2億8700万ドル、11年第2四半期が2億7500万ドル、11年第3四半期が2億8800万ドルとほぼ横ばい。これは、ジンガのユーザー数が伸びていないと傾向にも重なっており、これらの数字を根拠に今後の成長性への疑問が浮上している。

収益を得にくい新興国のユーザー

フェイスブック上で展開するゲームには、様々な問題があることも見えてきた。

フェイスブックは昨年、全世界で8億人以上のユーザーを抱えるまで規模が拡大している。しかし、ソーシャルゲームを開発・販売するゲーム会社にとっては、収益を上げにくい状況が生まれつつある。最新の数字をみると、米国が1億5700万人と依然トップにあるが、第2位のインドネシアの4000万人をはじめ、10位中6カ国が発展途上国で、その合計は2億人を超えている。ただし、購買力が低いユーザーが多いためアイテム課金をしている層は少ないとみられる。

フェイスブックの上位10カ国の利用ユーザー数

このため、フェイスブック上のゲームでは、実数としてのゲームユーザー数に、収益が追いついていないと考えられる。

実際、フェイスブックと連動した携帯電話を通じてゲームを楽しむユーザーはインドネシアで急増している。ジンガも昨年3月、現地企業のINDOMOGを通じてジンガのゲーム用のプリペイドカードを販売している。ただ、月に50万ドル程度の売り上げにとどまっている。東南アジア地域では悪くない数字だが、先進国の企業にとっては、収益を上げにくい難しさを示している。

デジタル流通へのシフトが明確に

とはいえ、SNSやスマートフォンで楽しめる安価なゲームは家庭用ゲーム機に大きな影響を与えている。米ゲーム市場は日本の3倍以上の規模で、各ゲーム会社にとって最も重要な市場といえる。そこでの動向はゲーム関連企業にとって最大の関心事でもある。

調査会社の米NPDは、米国の消費財市場で最も繁忙期であるクリスマス商戦(12月)の販売実績が、昨年同期の50億7000万ドルから、今年は39億9000万ドルに21%も低下したと分析している。内訳は、ハードウエアが28%減、ソフトが14%減、アクセサリーが27%減。一人称シューティングのヒット作「コールオブデューティ3」や、RPG「エルダースコールV」といった超大型タイトルに売上が集中したようだ。

ただ、パッケージゲームの新作、中古、デジタルダウンロード、ソーシャルゲーム、モバイルなどを含めると、「米市場では2011年に163億~166億ドルが使われており、これは2010年に比べると2%の低下でしかない」という。家庭用ゲーム機のパッケージから、ネット流通を含めた多様なゲームへと選択肢が広がっていることが鮮明になっている。

この状況を、NPDのデビット・マクイラン氏は「驚くべき状況ではない」と述べている。「デジタル流通は、米国だけでなくグローバルでもはっきりと流通しており、これは避けられない方向性だ」という。

新たな収益源はどこに

ジンガの上場に対しては評価が分かれている。一般消費者を対象にしたゲームは、「結局はヒットビジネスであり、それを継続できなければ難しくなる」という見方や、「課金システムなど、新たに収益を上げるビジネスモデルの脆弱性はあるのか」といった点が指摘されている。最も厳しいものは、「ソーシャルゲームバブルが終わりを迎えつつある」という見方だ。

KindleFireのホームページ

フェイスブック上で事業を展開しているゲーム首位のジンガで今後の成長が難しいとすると、それ以外のゲーム会社はさらに厳しい状況にあるだろう。

一方、期待が高まっているのが、アマゾン・ドット・コムが昨年11月に発売した「キンドル ファイア(Kindle Fire)」を通じた新しい市場への展開だ。現状は米国のみの販売だが、年末だけで600万台を売り上げるほど成功している。

ジンガも「Words With Friends」というスクラブルのゲームをリリースしており、キンドルでの本格展開の可能性を探っているものと思われる。

Kindleのユーザーは、年齢層が高く、すでにアマゾンでクレジットカード利用に慣れているユーザーだ。これは、米国でソーシャルゲームを楽しんでいる中高年層と重なっている。

販売地域を絞ることができる上に、ハードウエアから課金モデルまで、パッケージになっていため、今後、強力なタブレット端末になる可能性が高い。他社がアンドロイド端末によるゲームプラットフォームを確立できていないなか、アマゾンは大きくリードしそうな気配を見せている。

現在はアイテム課金されていないが、さほど遠くない時期に本格展開されると見られているだけに、ソフト会社の期待は高まっている。

ジンガの上場で明らかになったことは、「ユーザー数」よりも「収益性」が重要であるという、当然の帰結だろう。ゲーム各社にとって、新たな収益源がどこにあるのかを探る時代に突入している。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(IGDA日本)副代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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