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また入札制度の犠牲者…中島、ヤンキースと破談の理由

スポーツライター 杉浦大介

ポスティングシステム(入札制度)を通じてメジャーリーグを目指した西武の中島裕之の夢はかなわなかった。昨年12月に交渉権を落札したヤンキースとの入団交渉は不調に終わり、1月5日にヤンキース側が破談を発表。日本有数の攻撃型遊撃手は、西武に残留を余儀なくされることになった。昨年の楽天・岩隈久志(昨年海外FA権を取得して、先日マリナーズと契約)に続く交渉決裂。またしても後味の悪い結末を迎えた原因はどこにあったのか。

交渉期限切れ直前に緊急渡米したが…

メジャーへの夢をあきらめきれない中島は1月5日に緊急渡米まで試みた。だが、中島がニューヨークに到着した約3時間後に、ヤンキースが破談を発表。「ヒロユキと合意に至らず残念。来るべきシーズンの健闘を祈る」というブライアン・キャッシュマンGMの談話が載ったプレスリリースが配られた。

「契約が不成立になり、とても残念ですが、今回ポスティングを認めてくれた西武と入札してくれたヤンキースに感謝しています」

29歳のショートストップはそんな殊勝なコメントを発表。最後までメジャー移籍を望み、交渉期限切れ寸前に自ら渡米するほどの意気込みだったのだから、その心中は察して余りある。

最大のネックとなったのが保有権?

しかし、ヤンキースが提示した条件は中島側にとって厳しいものだった。昨季の推定年俸2億8000万円の中島に対し、提示されたのは1年契約で年俸80万ドル(約6200万円)。この点には中島サイドも譲歩の余地はあったようだが、決裂の最大の要因は保有権の問題だったともされている。

ヤンキースの内野にはデレック・ジーター、ロビンソン・カノー、アレックス・ロドリゲス、マーク・テシェイラという豪華メンバーがそろっていて、日本で通算打率.302、149本塁打を残してきた中島がたとえ入団しても控え選手扱い。

こうした状態のため、中島サイドは1年契約満了時にどのチームとも交渉できるFA権を希望したとされるが、ヤンキース側が6年間の保有権を主張して最後まで譲らなかったため、まとまらなかったというのである。

今回の中島の緊急渡米もヤンキースサイドは知らなかったと報道されていて、そんな事実も両サイドの隔たりを物語っていたといえるだろう。

測りかねる入札の意図

そもそもこれまでの入札、交渉という一連の流れを思い返しても、奇妙なものだった。

昨年12月、250万ドルで交渉権を落札したのがヤンキースだったと明かされると、日米両方の関係者から驚きの声があがった。先に述べたようにヤンキースの内野陣はスター選手が顔を並べていて、これといった補強の必要はない。控えにも成長株のエドゥアルド・ヌニェスがいる。

37歳のジーター、36歳のロドリゲスの両ベテランを支えるユーティリティー内野手がいれば越したことはないが、そもそも中島は守備というより攻撃面での評価の方が高い選手だ。

そんな状況下で、ヤンキースが入札に踏み切った意図はどこにあったのか。2006年オフに井川慶に大枚をはたいて失敗した苦い経験があり、キャッシュマンGMは「ポスティングに費やす金額は無駄」と言い続けていた。それだけに、今回の入札は余計に解せなかった。

ヤンキース入りに否定的だった報道

落札が発表された翌日には「CBSスポーツ」の有名記者であるジョン・ヘイマン氏が「ヤンキースは交渉成立に自信を持っていない。中島は日本に戻るのではないか」とツイッター上でコメントしていた。

「ESPN.com」のバスター・オルニー記者も「落札したのはよいが、ヤンキースに中島の役割はない。すぐトレードするのではないか」とツイート。

さらに「ニューヨーク・ポスト」のジョエル・シャーマン記者にいたっては「ボビー・バレンタインが中島を気に入っている。来季にFAでレッドソックス入りするのではないか」とそんな観測も述べていた。現実的に中島がヤンキースに入団すると考えた報道は、アメリカ国内でもほとんど皆無だったといってよい。

そしてその過程で、MLB.comは「あの程度の金額で交渉権を落札できたことはヤンキースにとっても驚きだった」と記している。この見方の根拠がどこにあったかは不明だが、おそらくはそれが真実だったのではないか。

日本人野手への評価低下

入札と年俸を合わせて300万~350万ドル程度の金額で実績ある選手を獲得できればもうけ物だから、とりあえず入札はしてみよう。250万ドルでは落札できないかもしれないが、そうなっても控えの予定の選手だから大きな痛手ではない。

落札できた場合には、低額の年俸提示で入団してくれればラッキー。いわゆる「ロー・リスク、ハイ・リターン」。その条件をのんでくれないようなら、必要以上に追いかけることはしない。ヤンキース首脳陣の考えを推測するに、そんなところだったのではないか。

11年に日本で打率.297、16本塁打、100打点をマークした今が旬の遊撃手に対し、随分と冷淡な姿勢にも思える。その背後には、現時点で日本人選手、特に野手への評価が著しく低下している現実がある。

「日本人野手は第4の外野手か控え内野手」

イチロー、松井秀喜といったごく一部の例外をのぞき、これまで日本人野手は投手と比べてメジャーで目立った実績を挙げてこられなかった。松井稼頭央、城島健司、福留孝介らへの大型投資はすべて失敗とみなされている。

とくにポスティング制度を通じて昨年ツインズに入団した西岡剛が、ケガもあったとはいえ散々な成績(打率.226、0本塁打)に終わったことが決定打となった。

「日本人野手は、第4の外野手か控えのユーティリティー内野手としての起用を考えるべきだ。日本での役割より格下げし、チームに適応するか考えなければならない」

スポーツ・イラストレイテッド誌のトム・バードゥッチ記者は、昨年11月に電子版の記事でそんな某メジャー関係者の意見を紹介していた。実際に西岡、中島と同じくポスティングを通じてブルワーズが交渉権を得た青木宣親にしても、入団が決まってもレギュラー確定ではないのだろう。

日本人野手が鳴り物入りのスター候補としてメジャーに迎えられた時代は過ぎ去った。現在はフィールド上での活躍を通じて、日本人野手の中ではイチローや松井に続く「例外的な存在」として認めさせなければいけない時代だといってよいのかもしれない。

運命が変わってしまった岩隈

ポスティング制度で落札されながら、その後の交渉が決裂したのは、昨オフのアスレチックスと岩隈に続き2年連続のこと。中島、岩隈の両ケースとも、落札したチームはメジャーに挑戦したい選手の思いなど熟慮せず、「獲得できなくても……」といった考えで入札に臨んでいるような印象が残る。

契約しなかった際のペナルティーも定められていない現行システムのままでは、このような残念な結果はいつでも起こりえる。

昨オフにアスレチックスから提示された4年1525万ドルの提示額を蹴って楽天に戻った岩隈は、右肩の故障もあって11年は6勝(7敗)止まり。その価値を大きく下げてしまい、このほどマリナーズと1年約150万ドルで契約した。

もちろんケガは予測できないことだし、ある意味で自己責任なのだが、この岩隈のケースは"ポスティング制度によって運命が変わった例"といえないこともない。

注目されるダルビッシュの交渉

中島とヤンキースの契約が不調に終わったことで、現在レンジャーズと交渉中のダルビッシュの動向にはより大きな注目が集まっている。

レンジャーズがダルビッシュに戦力として多大な期待を寄せているのは確かのようだが、これまでの水面下の交渉では契約年数、金額において両者に隔たりがあるのではないかという声が聞こえてきている。

「(日本人投手はメジャーでは)2年間の成功のあと、急激に失墜し、ついには消えていってしまう傾向にあるようだ」

前記したバードゥッチ記者の記事内で、レンジャーズのアシスタントGMであるサド・レバイン氏がそんな発言をしたと記述しているのも気になるところだ。

過去の傾向を重視したレンジャーズが、年俸、契約年数などについてダルビッシュ側の要望を大きく下回るような提示をし続けた場合、交渉が予断を許さない状況になる可能性は否定できまい。

問われるポスティング制度

たとえ契約がまとまらなくても、チーム側にとって失うものは特に大きくはない。決裂した場合は莫大な入札金額も返還されるのだから、昨年の岩隈のケースと同じく、ダルビッシュとの交渉で強気に臨めるのはレンジャーズの方に違いない。

1996年に起こった伊良部秀輝投手の移籍トラブルに端を発して創設されたこのポスティング制度は、これまで数々の問題点が指摘されてきた。そして今オフに再び中島という"犠牲者"が生まれたことで、その是非が改めて問われている。

まずはダルビッシュのケースが泥沼に陥らないことを願いつつ、近い将来、ポスティング制度自体に何らかの改善がなされることを願いたいところである。

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