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安藤美姫「私がショーで伝えたいこと」

 世界女王として迎えるはずの今シーズン、安藤美姫選手(トヨタ自動車)は試合を休む決断をしました。日本で、米国で、ショーに駆け回っています。1月は5日の名古屋を皮切りに大阪、東京、そして米国へと飛びます。スケートには意欲的ですが、ファンに来シーズン、再び戦う姿を見せてくれるのでしょうか。

1年休む不安はない

休むことに大きな理由はないんです。選手として15年余り過ごし、疲れたから休みたかったというより、休んでもいいんじゃないか? って思ったんです。

不安はありません。男子選手の中には「休むのが怖い。休みたいけれど休めない」という人もいましたけれど、私はないですね。

休むとは言ったものの、昨年10月のジャパンオープンは出ました。フリー演技だけで競う変則的な大会ですが、シーズン初戦には変わりありません。みんな新シーズンのプログラムを披露するので、私もそうした雰囲気を壊したくないから、9月にニコライ・モロゾフコーチに作ってもらいました。ロシアで1カ月の間に体も絞って、3回転ルッツジャンプまでは戻りましたが、試合では納得のいく滑りとはいきませんでした。

緊張感がありませんでした。普通、試合では自然に気持ちが盛りあがります。それがなかったので、集中しようと思いすぎて、うまくいきませんでした。でも、試合後のショーは気持ちをうまく切り替えて、きっちり滑れたのでホッとしました。

純粋にスケートを楽しんでいる

あの大会に出場したおかげで、短期間でも詰めて練習すれば、体もジャンプも戻るんだ、というのが分かりました。いい経験でした。

試合でいい結果を残すことも大切ですが、私はリンクの上にいるだけで幸せ。サポートして下さる方々に「やってほしい」と言われても、久々に純粋に"幸せ"を満喫していたので、(試合に向けて)気持ちの切り替えが難しかったこともあります。

本当は昨シーズンを休もうと思っていました。しかし、震災のためにロシアに変更になりましたが、当初は東京で世界選手権が開かれることになっていたので、ニコライに「東京での大会、しかも世界一を決める大会は特別だから、日本代表として出た方がいい」と言われて続けることにしました。

昨季は悔いのない、選手として求めていたシーズンを送れた

それでも一昨年の夏までは少し気持ちがモヤモヤしていたんですね。休めると思ったのに、また1年頑張らないといけないのか? と思ったりして。でもショーに出るうちに、だんだんと気持ちが試合に向いていきました。

こういう曲でこんな演技をしたいとか、フリーに7つあるジャンプのうち基礎点が1.1倍になる後半に5つ跳ぼうとか、昨季はそんな欲が芽生えてきたんです。

そしてコンスタントに自分の演技ができて、結果(全日本、四大陸、世界選手権優勝)もついてきた。悔いのないシーズンでした。「ああ、選手として私が求めていたのはコレだったんだ」と思ったほどでした。

バンクーバー五輪の直後、「ソチ五輪も出ようかな」と言いました。出るチャンスがあったら、3度目の五輪に出るのもいい、と正直思いました。ただ昨シーズンを、ソチへのステップとして過ごしたわけではないです。

来シーズンのことはまだ分からない

1シーズン、1シーズン、1試合、1試合を大切に頑張ろう。それが選手というものです。多分、日常生活もそうだと思うんです。今日と明日ではフィーリングが違う。今日はこのお茶がおいしくても、明日は違う味のものが飲みたくなるかもしれない。そんな風に気持ちは変わるものでしょう?

来年、競技に復帰するか? 私も分からないんです。 試合が恋しくなるのか? フィギュアスケーターとしてほかの道――例えばショースケーターへの道が開けるのか? この1年で分かるような気がするんです。

シーズン中なのでニコライコーチに会うことはあまりないですが、「どうしてる?」と時々、電話で連絡は取り合っています。

男子はダイナミック、女子はいるだけでいい選手に

自分が試合に出ないと、フィギュアを見る機会は減りますが、男子は本当に面白いですね。みんな4回転ジャンプを跳びだして、4回転ルッツを跳んだ人もいる。パワフルな4回転時代が戻ってきたなって感じがします。

かつて4回転ジャンプが華やかだった、6点満点の時代に世界選手権も出ているので、やっぱり男子フィギュアはダイナミックであってほしいんですよ。その方がカッコイイですし。

女子はどんな選手がいいかといえば……。自分も競技しているので他の選手のことはいえないんですけれど、「リンクにいる。それだけでいい」という人ですね。存在感があって、リンクにいるだけで会場の色が変わるような……。私にとって憧れの女子フィギュアスケーターといったら、ミッシェル・クワン(米国、98年長野五輪銀、02年ソルトレークシティー五輪銅メダリスト、世界選手権5度優勝)。

シニアデビュー戦だった04年の世界選手権ドルトムント大会で、クワンの後の滑走順でした。(緊張する)最終滑走だったんですけれど、まだまだ自分は子供だったし、公式練習から感激して、ワクワクしながら見ていたのを覚えています。

選ばれたメダリストの一人としてショーに出演

先日、ニュージャージー州でショーに出ました。出演者は女子だけ、しかも五輪金メダリストが4人、世界女王も4人、ほかも五輪メダリストだけ。圧巻でしたよ。ナンシー・ケリガン(米国、92年アルベールビル五輪銅、94年リレハンメル五輪銀メダリスト)と同じリンクに立てるなんてとても貴重な経験でした。

人生に一度あるかないかの経験だったということに終わってから気づいたのですが、あのメンバーの中で一緒に滑れたのは、本当に光栄なことでした。

1月にも米国で開催される「Love on Ice」という愛をテーマにしたショーに呼んで頂きました。主催者側から「この曲で滑って」という指定があるので、これから振り付けます。

本当にありがたいです。試合とは別の刺激を受けて成長している姿を、日本でも1月のショーでお見せできればと思います。

トリノ五輪前に注目されて以降、日本ではなかなかリラックスできなくなっていましたが、5年ぶりくらいに日本に拠点を置いて、改めて「いい国だな」と日本への思いも深まっています。

東日本大震災の経験も大きかった。私は被災していませんが、その後の世界選手権、2度目の優勝ができた試合で、自分のためでなく、初めて日本のためにスケートをしている気持ちになれたんです。

「私のように立ち直ってほしい」気持ちを込めて

津波や震災で家を無くしてしまうつらさは分かりません。でも、私も小学校3年で父を交通事故で亡くしています。昨日まで笑顔で家の中にいた人が突然いなくなり、何が何だか分からず茫然(ぼうぜん)としてしまった記憶があります。私も子供なりに事実を受け入れようとしたと思うんですが、そのときは一度スケートをやめました。

何年もかかると思いますが、「早く今の私みたいに立ち直ってほしい」。そんな思いも込めてショーでは滑りたいです。

だから今もほぼ毎日1セッション(45分)、ショーの前は2セッションは氷に乗って、皆さんにお会いする日に備えています。

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