/

大リーグで燻るストライクゾーン変更の臆測

スポーツライター 丹羽政善

今年、米大リーグでア・リーグの最優秀選手賞(MVP)を受賞したのは、タイガースのジャスティン・バーランダーだった。

平均打率、ジワリジワリと下がる

投手としては、1992年のデニス・エカーズリー(アスレチックス)以来、先発投手としては86年のロジャー・クレメンス(レッドソックス)以来の受賞。異例と報じられたのは、そうした背景がある。

このことは、昨今の"投高打低"の象徴と見る向きもあった。今年、ナ・リーグの平均打率は.253。ア・リーグは.258。ここ20年ほどさかのぼっても、最低レベルの数値である(次ページの表参照)。

ここ4~5年は平均打率がジワリジワリと低下しており、それは今年の開幕前の時点でも話題になっていたが、結局、今年も歯止めがかからなかった。

ストライクゾーンの変化を指摘する声

原因としては、ストライクゾーンの変化を指摘する声がある。レンジャーズのノーラン・ライアン社長をはじめ、デービッド・オルティス(レッドソックス)、トリー・ハンター(エンゼルス)らベテランも、ストライクゾーンが広がったと感想を述べている。

投手にしても、2008年と09年にナ・リーグのサイ・ヤング賞を受賞したティム・リンスカム(ジャイアンツ)が「もう少し、楽しませてくれよ」と意味深な言葉を残すなど、そうしたことをにおわせている。

ただ、データ分析に定評のある「FANGRAPHS」、「BASEBALL PROSPECTUS」などが調べても、"ストライクゾーンが広がったから、平均打率が下がった"という結論までは導ききれていない。

そもそも、「FANGRAPHS」によれば、ストライクゾーンが変わったとして、それを実感できるのは、平均して1試合に1球程度という。

ア・ナ両リーグの
過去20年の平均打率
ナ・リーグア・リーグ
20110.2530.258
100.2550.260
090.2590.267
080.2600.268
070.2660.271
060.2650.275
050.2620.268
040.2630.270
030.2620.267
020.2590.264
010.2610.267
000.2660.276
19990.2680.275
980.2620.271
970.2630.271
960.2620.277
950.2630.270
940.2670.273
930.2640.267
920.2520.259

それでも、こういう状況を受けて、リーグがストライクゾーンを狭くするのではないのか、という臆測が燻(くすぶ)っている。点の入らない"投高打低"状態が続けば、いずれは、ファン離れを招くのでは、という懸念がリーグに根強いのだ。

過去にマウンドを5インチ下げたことも

過去、1度だけリーグは投高打低傾向の改善を目的として、マウンドを低くしたことがある。

1968年、ア・リーグの首位打者の打率が.301まで下がり、ア・リーグの平均打率が.230ちょうど、ナ・リーグの平均打率が.243まで下がると、マウンドの高さを5インチ(約12.7センチ)下げた。

わずかな差にも聞こえるが、当時の米総合誌「スポーツ・イラストレイテッド」はその変化を、「富士山がユタ州の塩類平原になった」と表現し、投手による苦言、打者による歓迎の言葉を並べていた。

このとき、実は、リーグがストライクゾーンにも手を加えている。これまでは膝頭の下までをストライクゾーンとしていたが、それを膝頭の上までに変えたのである。ボール約1個分と考えていい。

それなりに効果

結果、どうなったかといえば、ア・リーグの平均打率は.230から.246に、ナ・リーグの平均打率は.243から.250に上がっている。思惑通り、それなりに効果をもたらしたわけである。

今回、さすがにマウンドを下げるとまで予想する人はいないものの、ストライクゾーンを狭めれば、過去の例から、得点力が上がるとの考え方があるため、そろそろ"介入"があるかもしれないとの読みにつながっているのだろう。

しかし、今年の平均打率は確かにここ20年では最低クラスでも、もう少し対象を広げて数字を拾えば、極端に低いものではなく、バド・セリグ・コミッショナーも、「こういう時代は過去にもあった」と話すなど、ルール変更には慎重な立場をとっている。

コミッショナーの発言だけで十分では

効果のほども、実のところ疑問。ナ・リーグを見ると、70年以降、平均打率が2割4分台までたびたび落ちている。

手を加えるなら、ルール変更ではなく、コミッショナーが「少し、ストライクゾーンが広がっている」と、発言するだけでも十分だろう。ここ数年の傾向に関して言えば、何年か前に彼が「試合時間が少し長い」と話したことをきっかけに、審判が暗黙のうちにストライクゾーンを広げて、時間短縮を図ったとの見方もあるのである。

ルール変更は極めて稀

ところで、ルール変更そのものは、極めて稀(まれ)だ。

1900年以降の近代野球では、04年にマウンドの高さが15インチを上限と定められてから69年の見直しまで一切変更はなく、そして今に至る。ようは、マウンドの規定は1度しか変わっていないのである。

ストライクゾーンも、1887年に大枠が制定されてから、1907年に低めは膝までと曖昧に決まり、69年に膝上となったあと、96年に膝下に戻した程度である。

成熟というよりは、保守的と映るが、ルール変更の歴史は、なかなか奥が深い。たとえば25年には、ホームランの最低飛距離は250フィートと定められている。どういうことだろうか?

次回もルール変更の背景を探ってみたい。

(次回は26日掲載予定)

初割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン