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バレンタイン新監督はRソックスを再生できるか

スポーツライター 杉浦大介

今年のシーズン終盤にまさかの崩壊劇でプレーオフ進出を逃したレッドソックスは、再建の切り札としてボビー・バレンタイン氏を新監督に起用することを決断した。日本でも経験を積んだスター性抜群の指揮官を迎え、メジャーを代表する名門球団は再出発を図ることにしたのである。願い通りのポストを手に入れたバレンタイン監督は、プレッシャーの厳しいボストンで成功できるのか? そして日本での経験は、采配にどんな形で生きてくるのか?

就任会見で笑みを絶やさず

「文化と伝統があり、才能ある選手が集まるチームの指揮を執るのは光栄ないこと。今日は人生最高の日だ」

12月1日、フェンウェイパークでの監督就任記者会見に臨んだバレンタインは満面の笑顔を浮かべてそう述べた。

背番号25の真新しいユニホームに腕を通す際も、晴れやかな笑みを絶やさず、約200人の記者たちが集まった場で、頬を紅潮させ、ときに涙を浮かべ、新たな仕事にかける想いを軽やかな口調で語り続けた。

「春季トレーニングキャンプ開始までの80日間で、やりすぎるぐらいのことをやるつもりだ。それで十分だと良いけどね」

レッドソックス監督の座、自ら熱望

1985年から8年間にわたってレンジャーズの指揮を執ったバレンタイン氏は、96年からはメッツの監督も務め、2000年には悲願のワールドシリーズ進出(同シリーズではヤンキースに1勝4敗で敗れる)。日本でも2度にわたってロッテを率い、05年には日本シリーズも制している。

この輝かしい実績を誇る名物監督のもとにここ数年、オリオールズ、マーリンズ、ブリュワーズなどから次々と監督就任へのオファーが舞い込んだ。それらのチームの誘いには積極的ではなかったとされるバレンタイン氏だが、しかしレッドソックスの指揮官の仕事は自ら熱望したといわれる。

「素晴らしい野球知識を持ち、創造力に富み、開放的で、間違いなく情熱的。どんなことをしてでもも勝とうとする人物だ。私たちは彼こそが12年以降(のチーム)を任せるに適切な人物だと信じている」

Rソックスが迎えた転換期

ベン・チェリントンGMは新監督をそう評したが、実際にスポットライトを浴びるのが大好きなバレンタイン氏にとっても、メジャーを代表する人気チームであるレッドソックスを率いる仕事はやりがいがあるものだろう。

今年のシーズン前にはアメリカン・リーグのダントツの優勝候補に挙げられたレッドソックスだが、9月に惨敗を喫して予想外の形でプレーオフ進出を逃した。そのショックも冷めやらないうちに、「ジョシュ・ベケット、ジョン・レスターらの主力投手が、登板日でない日の試合中にクラブハウス内でビールとフライドチキンのパーティーを楽しんでいた」などというショッキングな報道もなされた。

それらの醜聞が表沙汰になるとほぼ同時に、ボストンに一時代を築いたテリー・フランコナ監督、テオ・エプスタインGMが相次いで退団。その後にクローザーのジョナサン・パベルボンがフィリーズ移籍を発表するなど一気に体制が変わった。過去8年で2度ワールドシリーズを制した名門球団は、1つの大きな転換期を迎えているといってよい。

強力なリーダーシップが必要

そんな状況下で必要なのは、強烈なリーダーシップを発揮してチームを新たな方向に導ける人物。我慢強さが売り物のフランコナ前監督とは正反対のタイプで、存在感とクリエイティビティにあふれたバレンタイン氏は、現在のレッドソックスには願ってもない新監督であるようにも思える。

「私が関わっていないところで、9月に何かが起こった。何人かはやってはならないことをやった選手がいたのかもしれない。そこにはいなかったので、私には真相はわからない。とにかく選手たちと、素晴らしいカルチャーを作り上げていくのを楽しみにしているよ」

そう語るバレンタイン新監督は、就任直後から選手との対話を重視することを明確にしている。崩壊劇の戦犯とされたベケット、レスター、カール・クロフォードらとも、オフの間からコミュニケーションを取っていくつもりだという。

メジャー屈指の豪華メンバー

就任会見の後にはさっそくドミニカ共和国に飛び、今オフにFA権を獲得した主砲のデービッド・オルティスと対面してその身軽さをアピールしている。

こうした行動力が功を奏しさえすれば、レッドソックスの前途は決して悲観すべきものではない。「このチームがそろえているタレントのレベル(の高さ)は、まるで贈り物のようだ」とバレンタイン新監督は語っていたが、過去2年連続でプレーオフ進出を逃した後とはいえ、レッドソックスには現在でもメジャー屈指の豪華メンバーが顔を並べていることに変わりはない。

ジャコビー・エルズベリー、ダスティン・ペドロイア、エイドリアン・ゴンザレスら今が旬のスターが並ぶ打線は脅威。クロフォード、ケビン・ユーキリスといった昨季不振に終わった選手たちも、2年連続で失態を繰り返しはしまい。

高い意欲さえ取り戻せば…

投手陣にしても、ベケット、レスター、クレイ・バックホルツら、今オフに様々な形でヤリ玉に挙げられた主力たちの来季へのモチベーションは高いはず。加えてもともと資金豊富なチームだけに、抑えのパペルボンが抜けたブルペンにも今後さらなる補強を行うに違いない。

総合的に見て、レッドソックスのメンバーのバランスは現時点でも決して悪くない。バレンタイン新監督の指揮下で高い意欲さえ取り戻せば、12年は再び優勝争いに絡んでくる可能性は高いといってよいだろう。

しかし、こうしたポジティブな部分も数多く指摘できるものの、バレンタイン新監督の起用はギャンブルと懸念する声が多いのも事実である。

強い自己主張、周囲との軋轢生む

指揮官として確固たる名声を築いてきたバレンタイン氏だが、実はレンジャーズ、メッツでの計15年の監督歴で地区制覇を果たしたことは一度もない。しかもメジャーの監督業からは02年以来離れているだけに、プレッシャーの大きいボストンでの仕事に戸惑いを覚えることも少なからずあるかもしれない。

もともと自己主張の強いパーソナリティーが災いし、バレンタイン氏はこれまで様々な形で騒ぎを巻き起こしてきた人物でもあることも忘れるべきではない。

ボストンと同じく大都市のニューヨークでメッツの監督を務めた際も、当時のGMだったスティーブ・フィリップス氏と激しく対立したのは有名な話。加えてニューヨークのメディアとも良好な関係を保っていたとはいえず、「あの男だけは我慢がならない」などと語る記者もいまだに存在する。

心配される新GMとの関係

今回の就任会見でもすかさず厳しい質問が飛んだことから推し量れるように、ボストンのメディアの辛辣さはニューヨーク以上。来季開幕後、レッドソックスが少しでも不振に陥れば、バレンタイン新監督も即座にヤリ玉に挙げられ、地元記者との間に軋轢(あつれき)が生まれるかもしれない。

そして何より心配されるのは、36歳の新GMチェリントン氏との関係ではないだろうか。選手の人事にまで口を出すバレンタイン氏はフロントにとって扱いやすい監督ではなく、今オフに就任したばかりのチェリントン氏にとってはなおさらのことだろう。

現にバレンタイン氏の起用を決めたのはレッドソックスのオーナーサイドであり、チェリントン氏自身はこの人事に積極的ではなかったとの報道もあった。

「ベンとボビーはうまくやっていけるよ。それは間違いない。その自信がなかったら、ベンはボビーを私に推薦しなかったはずだ」。オーナーのジョン・ヘンリー氏は会見ではそう語り、2人の関係は良好であると明言した。

日本での監督生活から多くを学んだ

しかし、壇上に並んだチェリントン氏とバレンタイン新監督を見ていて、どこかぎこちなさが感じられたのも事実。今後のFA戦線、あるいはトレードでの戦力補強を通じて、両者の言動に必要以上の注目が集まってしまうのは避けられないところだろう。

「過去を振り返ろうとしすぎるのは生産的ではない。私は誰よりも多くのミステイクを犯してきた。そしてそれらから学んできたんだ」

バレンタイン新監督自身は周囲の懸念をよく理解しており、就任会見時には自らの協調性の進歩を強調しようとしているようにも感じられた。そしてそれと同時に、日本での監督生活の中からも多くを学んだことをアピールしていた。

「日本で通訳を通じてコミュニケーションを取ることは簡単ではなかった。そこで(文化的背景などに)違いのある選手と接し、意見の違いなどを受け入れられる幅が広がった」

言うはやすし、行うは難し

ただ、言うはやすし、行うは難し。特にヤンキースとの激しい争いが宿命づけられているレッドソックスの監督として、1年中がプレーオフのような喧噪(けんそう)の中で、常に周囲とうまくコミュニケーションを取っていくのは並大抵のことではないはずだ。

日本でも長い時間を経験したバレンタイン新監督が、選手とどれだけうまく対話し、GMやメディアとも円滑な関係を築けるか。その部分が、来年のレッドソックスの大きなポイントの1つといえるのかもしれない。

もともとハイレベルでエキサイティングなア・リーグ東地区に、ボビー・バレンタイン新監督という新たなスパイスが加わった。新監督の下で、レッドソックスが来年、雪辱を果たせるかどうかはわからない。ただ少なくとも、その戦いがより興味深くなったことは事実である。

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