世界18位の市民ランナー マラソン・川内優輝(上)
普通の市民ランナーと同じようにネットで好みの大会を探し、参加を申し込む。参加費の入金を忘れて申し込みが無効になったりもする。もちろん航空機や列車やホテルの予約も自分でこなす。考えてみれば当たり前のことだ。川内優輝(埼玉県庁、24)は市民ランナーなのだから。

埼玉県庁職員が世界選手権出場
「僕はもともとマラソン大会に付随するものが好きだったんですよ。レースが終わったら、観光名所を訪ねて、おいしいものを食べて、温泉に入って。子どものころから家族で旅行がてら、あちこちの大会に出ていたけれど、楽しかったのはレース後です」
世界選手権(9月、韓国)の調整のために出た士別ハーフマラソン(7月、北海道)を終えると、1人で旭山動物園を訪れ、旭川でラーメンを味わった。そんな話を楽しそうにする。
2009年、埼玉県庁に就職すると春日部高(定時制)に事務職員として配属された。勤務時間は午後0時45分から同9時15分。平日のトレーニングは午前中にこなす。月間の走行距離は600キロ。その走量は市民ランナーの中ではトップクラスだが、1000キロも走る実業団や強豪大学の選手と比べると少ない。
負荷をかける練習は週2度だけ
しかもスピード走やロング走など、負荷が重い「ポイント練習」は週2度だけ。「実業団のように週に3度もポイント練習をするのは無理。そんなに集中できない。大切なのはメリハリと切り替えです」
水曜をスピード練習の日とし、主にインターバル走に臨む。例えば3分~3分5秒の設定の1000メートルを15本。疾走の設定はきつくせず、むしろ、つなぎの緩走を大事にし、200メートルを遅くても60秒で走る。学習院大の監督だった津田誠一の教えで、心拍数をあまり落とさず次の疾走に入る。
土曜は駒沢公園(東京)に足を運び、大会などで知り合ったランニング仲間とロング走をこなす。1キロを3分30秒前後のペースで30~40キロ。それ以外の日はジョグのみで、1キロ=5~6分で15~20キロをゆったり走る。休養日はつくらないが、メニューの組み方にメリハリを利かせている。
狙った大会の前は40キロ走を4、5回入れるが、スピード練習で1キロを2分台のハイペースで走ったりはしない。「僕のしていることは普通の市民ランナーでもできること」
夢は市民マラソン巡りを続けること
タイム設定は高くせず、きちんとこなせる速さにする。「目標を高くして『きょうもできなかった』の連続では走るのが嫌になる。メニューをこなした達成感、充実感が自信につながるんですから」。雑草のようなランナーがそうやって力を養い、世界選手権で走る(18位)までになった。
そんな立場になっても市民マラソンに盛んに出る。競り合いがある分、自分をとことん追い込めるレースを、最高の練習の場と考える。「大会が気分転換の場にもなるし」
とにかく川内は市井のランナーなのだ。「僕は生涯現役の市民ランナー。市民マラソン巡りを続けることが小さいころからの夢」。市民マラソンを取り巻く空気に触れると、生気がみなぎる。
=敬称略
[日本経済新聞夕刊2011年11月28日付]