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「株に先高観、それいけ」の愚、今こそ賢い分散投資

「株に先高観、いざチャンス」――。こんな風に相場観で売買することを投資ではなく投機と呼ぶ。逆もまた真なりで株安=預貯金退避という姿勢も好ましくない。あなたが老後の資産作りを目指すなら投資対象は初めから複数に分けるべし。これを分散投資という。注意しなければいけないのが分ける=分散の意味。多くの個人投資家は分散投資という言葉を知っていても正しく理解できておらず、効果をあげられないでいる。分散投資は応用力が要求されるが、退職金などまとまった資金を手にしたときにその巧拙が鮮明にでるため、ぜひ会得したいテクニックだ。今回はその一部を解説する。

あなたはこうして失敗する

2011年12月、あなたは35年勤務した会社をめでたく退職し、一時金として1500万円を得た。ご苦労さまでございました!これから第二の人生スタートだ。おっとその前に1500万円というひときわ重い資金が手元にある。

さてこの資金、何に投じるか?目線を市場に振り向けると株式相場の急上昇ぶりが飛び込んでくる。日経平均株価は2月下旬に9700円台を回復した。世界的な過剰流動性や欧州危機の後退を背景に景色は一変。株式投資の好機が巡ってきたように思える。

問題は銘柄選び。少数のブルーチップ(優良株)に絞りたい気持ちもあるが「卵を1つの籠(かご)に盛るな」という投資の格言を聞いたことがある。銘柄をできるだけ分散したほうが万一のときのリスクは小さい。

実際、堅実な知人がいて日本航空株と東京電力株を保有していた。「絶対つぶれそうにない」「配当利回りが高い」というのが選択の理由だったが、両社とも経営危機に直面し、100万円以上の投資損失を出してしまった。気にいった銘柄に惚れ込んで財産の大半を投入する、といったことはつつしまなければならない。

考え抜いた末、日本を代表する銘柄の多い自動車株、電機株、さらに機械株を300万円ずつ買った。さらに分散効果を高めようと日経平均連動型のETFに残り600万円を投じた。これで分散効果はそれなりに働くだろう。

やがて数年が経過――。世界的な景気後退の波が襲ってきた。自動車、電機・機械とも輸出減による業績悪化で株価は急落した。投信も元本を割り込んで含み損が膨らんだ。

「分散投資をきちんと実行したはずだ。まるで効果が出ていないではないか!」。あなたの慟哭(どうこく)が聞こえてくる。

銘柄分散の限界、システマティック・リスク

まず初歩的なことばの意味を押さえておこう。分散投資の狙いは変動要因=リスクの分散にある。分散すればするほどリスクを低減できる。だが先の事例のように輸出株にいくら分散しても景気が悪くなるとまとめて売られてしまう。

ではどうするか。電鉄、食品などディフェンシブ関連株を買えばよい。原発問題という特殊な問題を除けば電力・ガス株も立派なディフェンシブ株。景気が後退しても業績が大きく悪化することはない。

だが実はこれでも限界がある。2008年のリーマン・ショックや2011年の欧州財政危機などのように、世界からリスクマネーが引き上げられるような局面だ。日本株はまとめて売られるから、日本株のどの銘柄に散らしても分散効果が働かない。日経平均採用銘柄がまとめて売られるので、連動型ETFも当然大幅安になる。

分散対象が増えるにつれてリスクはたしかに低下するものの、やがて一定水準以下に下がらなくなる。このように分散投資によって消すことができないリスクを市場リスク、またはシステマティック・リスクと呼ぶ。

分散は分けるではなく組み合わせ・選択の問題

この限界を乗り越えるにはどうするか。そう、株式がダメなら債券に投資すればよい。米国がぐらついて不安なら、中国やインドに投資すればよい。銘柄分散の限界を越えるには、商品分散、あるいは地域分散、通貨分散を実践すればよいわけだ。

そろそろ答えが見えてきただろうか。分散投資の最大のポイントは性質が反対のものを選ぶということだ。たとえば、株式と債券は相関関係が正反対なので最適の組み合わせになる。

必ずしも反対になるという金融商品ばかりではないから、そういうときは無関係のものを選べばよい。たとえば主要国と新興国。最近は比較的連動性が高まっているが、それでも経済成長率などはまだ独自性を保っている。ほとんど同じベクトルを描く日本-米国の株価(投信)などよりも、日本-新興国のほうが組み合わせとしては好ましい。

企業年金連合会は国内株、外国株、国内債券、外国債券の大きく4種類に分散している。資産配分の構成比が公表されていてWebサイトで閲覧できるので参考にしてもよいだろう。

応用力を養えば企業の収益力分析も

一般に分散ということばのイメージに引っかかり、「分ける」ことだけに考えが向かいがちになる。このため多くの銘柄に散りばめても、結果的に同一商品の枠の中での投資に偏り、分散どころか集中投資に陥ってしまう。これが分散投資の落とし穴といえる。

実際は散らすのとは全く逆で、選び抜く作業になる。多数の母集団から反対の性質のものを選び、組み合わせるというフローが求められるのだ。そして、選別にはβ(ベータ)という相関係数などを利用する。

別表には分散の一覧表を出した。今回はこの表の一部を紹介したが、分散投資を極めるとリーマン・ショックや欧州財政危機などの歴史的な波乱局面においても一定のリスク回避が可能になる。それどころか事業ポートフォリオを見極める分析眼も養われ、企業の収益力を判定できるようにもなる。

なぜあなたは株・投信で失敗するのか―データで読む危ない銘柄の見分け方48のルール

著者:田中 彰一.
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,680円(税込み)

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