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イチロー、なぜ際どい球に… 200安打逃した理由(2)

スポーツライター 丹羽政善

当てるのさえ難しいボール球をヒットにしたことで、ストライクゾーン(手を出すボールの範囲)が広がったのではないか。前回、イチローにとってのストライクゾーンが広がった理由の一つとしてその可能性に触れたが、ここ数年、大リーグ全体においてもストライクゾーンが拡張傾向にあるといわれている。

ハンターらが「ストライクゾーン広がった」

もしそうであるなら、イチローに限らず、すべての打者が自らのストライクゾーンを少し広げて、これまではボールと判断して手を出さなかったボールも振りにいく必要に迫られている、との見方もできる。

たとえば今季の終盤、エンゼルスの中心打者であるトーリ・ハンターは「低めに広がった」と話し、通算7度のノーヒット・ノーランを記録した大投手で現在はレンジャーズの社長を務めるノーラン・ライアン氏も今年の開幕前、米全国紙「USAトゥデー」の取材に対し、「少し、ストライクゾーンが広がったように思う」と2010年シーズンを振り返っていた。

また、今年からブルワーズの指揮を執ったロン・レネキー監督は「高めに広がった」と同紙に答えており、そうしたことがここ数年の「投高打低」現象を招いているのではという点で、三者の見方は共通していた。

「fangraphs.com」がデータを公開

ストライクゾーンが広がったというのは、どちらとも判定できるような際どいボールが、よりストライクと判定される傾向を指し、その証明は容易でない。だが、08年4月から10年8月に関しては、データ分析で定評のある「fangraphs.com」が具体的な公開していたのでそれを紹介したい。

表の見方は、判定においてストライクとボールと判定される確率が「50%-50%」、つまりイーブンであることをを基準とし、50%を割っていれば際どい球がボールとコールされる確率が高いことを示し、50%を上回っていれば、その逆ということになる。

際どいボールがストライクと判定されるかどうか
2008年2009年2010年
4月46.7%51.0%51.0%
5月48.5%49.8%51.2%
6月47.7%50.4%51.1%
7月48.5%50.8%52.5%
8月50.7%53.3%53.5%
9月49.2%52.3%

(fangraphs.comによる)

なぜ、月ごとに調べてあるかというと、それは昨年8月にレッドソックスのデービッド・オルティスが、「シーズンが進むにつれてストライクゾーンが広がっている」と不満を漏らしたことを受けて「fangraphs.com」が調査したからである。

8月の数値が2.5ポイント上昇

これを見ると確かに、10年は4月と比べると8月の数値が2.5ポイントほど上がっている。オルティーズの眼力もなかなかのものだ。

また、図らずもこのデータはここ数年でストライクゾーンが広がっている傾向を示しており、ライアン社長らの指摘も間違ってはいなかった。

ところが、「50%-50%」の球がどれだけあるかといえば、比率にして1試合に約1球というから、さほど影響はないのでは、というのが「fangraphs」の見立てである。

ただ、投手の制球力や、その日の主審次第ではグレーゾンの幅が広がって、その確率も変動するはずではないだろうか。

全審判の傾向を調査

「fangraphs.com」では08年から10年までの3年間を対象として、際どいコースに対する全審判の傾向を調査。全審判の判定の平均値を算出した後、それに対して各審判がそうしたコースをストライクとコールする確率が高ければプラス、低ければマイナスで示していた。

それによれば、一番投手に厳しい判定を下すのが、デビッド・ラッキーという審判でマイナスの6.6%。逆に一番ストライクゾーンが広かったのは、ブライアン・ランジという審判でプラスの3.5%だった。2人の審判には約10ポイントの差がある。

さて、その調査を元に4月のマリナーズ戦を担当した主審を調べてみた。4月に絞ったのは、イチローがシーズンの最後に、5、6月の不振は4月に起因すると口にしたからで、その4月にもしもストライクゾーンの広い主審との顔合わせが多ければ、イチローがストライクゾーンを広げたことの一因となりうる――という仮説を立てたからだ。

突出した数字とは言い切れず

だが、結果としては平均値に対してプラスの審判は15人、マイナスの審判は13人で、明確なものが見える、というほどではなかった。

プラス1.0%以上の審判は7人いて、その試合に関してイチローがボール球を振った確率を調べると34.9%だった。

これも突出した数字とは言い切れず、イチローが審判によってストライクゾーンの拡張を迫られたという捉え方にはやはり無理があり、可能性の一つをつぶすことができた、という程度の結果だった。

ボールなのにストライクと判定される確率が高い投手は

では、対戦投手はどうか。

実は、ストライクゾーンについて調べているうちに、面白いデータを見つけた。それは、ルール上はボールなのにストライクと判定される確率で、「Baseball Analytics.org」によれば、今季最も高かったのがヤンキースの守護神の17.9%だった。

2位はヤンキースのベテラン右腕、バートロ・コローン(16.8%)、3位はナショナルズのリバン・ヘルナンデス(16.7%)で、彼らは打者1人に6球ずつ投げるとすれば、だいたい1球は審判の"誤審"を引き出す、という結果が導かれていた。

ストライクなのにボールに…

その反対のデータも存在し、「ストライクが、ストライクと判定される確率の低い投手(つまりストライクなのにボールと判定されてしまう投手)」というリストもあり、アスレチックスの左腕、ジョシュ・アウトマンが66.7%で1位だった。

この数字は100%なら、ストライクが正しくストライクと判定されたこと示しているので、アウトマンは10球ストライクを投げても約3球ぐらいはボールと判定されてしまっていることになる。

マリナーズのクローザーを務めるブランドン・リーグは70.3%で8位。リーグ平均は78.8%だそうで、本来はストライクであるべき投球の約2割がボールと判定されている実態も明かされている。

こうしたことを踏まえ、4月のマリナーズ戦に先発した相手投手を調べてみたところ、タイガースのエース、ジャスティン・バーランダー(15.0%)だけが「ボールをストライクと判定される確率の高い投手上位25人」の中に含まれていた。

"迫られた"わけでなく、自ら"広げた"

つまり、これでは主審を味方につけるのがうまい投手との対戦が続いたことで、イチローがストライクゾーンを広げることを迫られた、ともいえない。要するに、ここでも可能性をつぶすことができただけである。

以上の結果から、イチローはストライクゾーンを広げることを"迫られた"わけではなく、自ら"広げた"と考えたほうがよさそうである。

ただ、データ的にもイチローのストライクゾーンが広がったのは09年以降であり、これはリーグの傾向と一致している。また、ワールドシリーズなどを見ていて、外的要因がまったくないかといえば、決してそうした可能性も排除できないように思う。

1試合に1球でも影響は小さくない

たとえば今年のワールドシリーズの第7戦、カージナルスは五回2死満塁のチャンスで、ヤディエル・モリーナがカウント3-2からの際どいボールを選んで押し出し四球を得て、チームに貴重な追加点をもたらしたが、あの右打者に対する外角いっぱいの球は、審判によってはストライクだろう。

仮にあれがストライクであったなら、カージナルスの選手に限らず両チームの右打者は、あれ以降、外の球に対して相当神経質になったはずで、ストライクゾーンを広げざるをえなかったに違いない。1試合に1球のことであっても、状況次第では、もたらす影響は小さくないのである。

ちなみにこのときの主審はジェリー・ライン。先の「fangraphs.com」の調査ではマイナス1.0%。平均よりやや投手に厳しい審判だった。

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