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飛ばないボールで飛べなかった今年のプロ野球

静かなプロ野球のレギュラーシーズンが終わった。飛びにくいボールの採用で、野球の風景も一変。派手なドンパチが少なく、息詰まる投手戦も一皮むけば味気ない貧打戦。玄人受けはしたかもしれないが、多くのファンは楽しめたのだろうか。

使用球の統一は英断だったが

五輪やワールド・ベースボール・クラシック(WBC)などの国際舞台で必ず問題になるのが、使用球だった。

日本で普段使っているボールは国際球と比べて、飛びすぎたり、手触りが違ったりで打者も投手も勘が狂う。また、日本では数社の球が公認されていて、球団ごとに使う球も違っていた。

これではとても国際的に通用しないということで、加藤良三コミッショナーが使用球の統一を進めたのは英断だった。

「世界標準」という言葉に敏感で、国際社会の流れがこうだといわれると、つい右ならいしてしまうのが日本人。コミッショナーの決断がみんなに支持されたのもうなずけるが、今年のボールはショーとしての野球には向かない球だった。

投高打低だった半世紀前に戻ったような数字

各リーグの打撃10傑で、打率3割以上だったのはセ・リーグが4人、パ・リーグが5人。投手の防御率は半世紀前の投高打低の時代を再現したかのような数字が並んで、大エースがそろうパ・リーグは田中将大(楽天)の1.27を筆頭に1点台が4人、セも吉見一起(中日)、内海哲也(巨人)の2人が1点台をマークした。

いつも投手コーチの気分で野球をみている私としては、この傾向は悪くないのだが、逆に教えていた人は面白くなかっただろうな、とも思う。

そこそこの投球をすればだれでも2点台の防御率が出せるというのでは誰がコーチをしても同じではないか……。

そういう個人的な思いは別として、野球はショービジネスなのだから、もう少し点が入って、ゲーム性、ギャンブル性が高まらないとつまらない。

今年はストライクゾーンが広かった?

今年の投高打低の原因は私の見るところ、もう一つある。私の見るところ、というのはあくまで印象の範囲でいうなら、ということだが、今年はストライクゾーンが広くなっている傾向がみられた。左右上下、いずれも緩く、これなら投手は楽だろうなという線である。

東日本大震災にともなう節電の必要から、今年、プロ野球は3時間半を越えては新しいイニングに入らないなど、時短策をとった。

広めのストライクゾーンもそうした節電モードの一環だったのだろうか。近年時間短縮が課題となって、攻守交代を急ぐとか、いろいろやっているけれど、一番手っ取り早いのがストライクゾーンを広げること。そうすればアウトがポンポン増えていく。

来年以降、考え直してみたい部分も

今年は事情が事情だから試合進行を急げという指示が出ていた、とは聞かないが、審判が心理的に先を急いだとしても無理はない。そんな節電一色の列島であり、1年だった。

飛びすぎ禁止といえば禁止、節電といえば節電。こういうことがマスゲームのようにぴしっと組織的にできて、みんなが守れるところに、誇るべき日本人の美徳がある。

ただプロ野球を興行として見た場合、来年以降、考え直してみたい部分がある。

飛びにくいボールを継続するならば、ストライクゾーンはもう少し狭くしてもいいだろう。でないとあまりに打者が不利過ぎる。

ボールをもう少し飛ぶものに戻すという選択肢はないだろうか。今のボールはメーカーも相当の苦労の末に開発したもので、飛び方や感触もメジャーの使用球に近い。日本ハムのダルビッシュ有が「あしたからメジャーに行きます」といってもすぐ対応できるものになっている。

アメリカはかなり自由

それを元に戻せ、とは言いづらいのだが、日本は日本のやり方があっていいんだ、という考え方も忘れてはいけないのではないか。

大リーグのワールドシリーズで3打席連続本塁打を放ったアルバート・プホルス(カージナルス)らをみればわかるように、打者のスイングの強さには日米でまだまだ大きな開きがある。

日本の野球を野球らしい一発逆転もあるようなゲームにするには、少々飛ぶ球を使ってもいいのではないか。

アメリカなどはその辺、かなり自由に考えているという印象がある。私が1970年代にコーチ修業で向こうに行ったとき、ストライクゾーンは高低でいうと今より相当下にずれていた。腰より少しでも高い球はボール、その代わり、地面につきそうな低いところもストライクにとっていた。

野球というゲームが一番盛りあがるように

それがだんだん上がってきているのはおそらく、その時々の攻守のバランスを踏まえ、野球というゲームが一番盛りあがるようにとの「見えざる手」が働いてのことかもしれない。

メジャーは本塁打が出すぎと思えば、ボールも調整するようだし、臨機応変に構えて、「ストライクゾーンとはこういうものだ」式の固定観念にとらわれることがない。

根底にあるのはプロ野球はショービジネスだという一点だ。面白くなくては意味がない。そのためにはルールの解釈にも多少のさじ加減があっていいという考え方だろう。

「世界で戦うため」が前提だが…

生真面目な日本人は「そんな適当なことでは困る」となるのだが、あまりにかたくななのも考え物だ。今年、両リーグを制したのは中日とソフトバンク。ともに投手力を前面に押し出したチームが当然のように勝った。

中日はヤクルトを大逆転したが、12球団最低のチーム打率での優勝は史上初の珍事。ソフトバンクも鼻白むほどの圧勝だった。

「野球は投手」を改めて証明したもので、ともに文句のつけようのない優勝だったが、ペナントレース全体としては淡々と進んでいった感が否めなかった。

飛びにくいボールの採用は「世界で戦うため」という目的を前提としている。しかし、私が取材した2009年のWBCにしても、実施競技から外された五輪にしても、真に世界一を決める大会にはなっていないのが実情だ。

日本には日本の野球があってもいいのでは

五輪には米国のメジャー選手は出なかったし、WBCも米国はオープン戦の延長といった気分で、選手も出たければ出るといった具合。とてもベストメンバーを組めていなかった。

血眼になっているのは日本と韓国、そしてキューバだけだった。このままの大会であるなら、多くのことを犠牲にしてまで精力を傾ける必要もあるまい、というのが私の感想だ。

日本には日本の野球があってもいいではないか。いい意味でのテキトーさをもって、大胆に事に当たらないと、この何かと困難で縮こまった状況を打開するための知恵もパワーも出てこないと思う。

(野球評論家)

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