勢いづく「ジャパニーズ文具」
斜陽を跳ね返す"プチハッピー" 異業種の人材も参入

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2011/10/27 7:00
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文具は会社から消え、個人消費の対象となった。小売りや流通各社は低迷を打破する武器として着目するようになり、文具業界はデザイン性を高めて商品力を増した。結果、いまの活況を生んだ。だが、それだけではない。業界の変質に、消費者の「価値観の変質」という追い風も重なった。そう指摘する関係者は多い。

冒頭のイベントで自身の文具コレクションの一部を披瀝(ひれき)した文具王の高畑氏は、文具ブームの背景をこう分析する。

■「ムリをして買うんじゃないところに幸せがある」

「文具王」こと高畑正幸氏

「文具王」こと高畑正幸氏

「景気のいいころは、車や時計といった高額商品を購入される方も多かったけれど、今はこの景気です。そんななか、文具であれば手の届く価格で、高品質だったり満足感の高いモノを手にすることができる。自分にあったモノを選んだり使いこなすことで、個性を表現することもできる。そんなところが注目されている理由だと思います」

この意見に、デザインフィルの豊田取締役も同調する。

「リーマンショックのあと、会社も個人もダウンサイズを求められた。閉塞感に覆われるなか、どこかで幸せを感じたいと思う消費者が、文具を『プチハッピー』の道具として評価してくれたんだと思います。高級ブランドを見栄張って、背伸びして買うというのは、冷静に考えれば文化度が低い。欧州なら、普通の人は買わないですよ。ムリをして買うんじゃないところに幸せがある。日本人も文化レベルが成熟し、民度が進化しているということだと思います」

ただ、スマートフォンなどの普及で、人はアナログの文具から離れているのではないかという疑問もわく。だが、この10月、季刊誌「ケトル」で文具特集を組んだ嶋浩一郎編集長は、こう話す。

「最近、デジタルで広告を作っている人とかキャンペーンを手がけている人とか、そういう方たちと話をすると、『身体感覚が大事』みたいなことをすごく言っている。デジタルが進むほどアナログのよさが見直されるというか、両方いいねっていうことなのではないでしょうか」

不況がもたらした活況。デジタルがもたらした回帰。個を表現する「ささやか」なアイテムとして勢力を拡大するパーソナル文具の波は、海の向こうにも飛び火しつつある。

■逆境を追い風に、海外展開も

有楽町ルミネに新業態店を出店するマークスは、07年から海外への販路拡大にも積極的に取り組んでいる。いまや同社製文具の扱いは欧州を中心に世界54カ国、8500店舗以上。主力のダイヤリーを中心に売り上げを伸ばしており、パリに構えた海外支社の売上高は11年3月期で前年比80%増と好調だ。

今年9月には、2箇所目となる海外支社を香港に立ち上げ、アジア各地域への物流強化と販路拡大にも乗り出した。「現地では海外初となる直営店の展開も視野に入れており、計画している段階」(広報)という。

MDSの海外直営1号店となる「QIPS(キップス)」香港店

MDSの海外直営1号店となる「QIPS(キップス)」香港店

直営店では、MDSが一歩先んじた。今年7月、海外1号店を香港でオープンさせたばかりだ。トラベラーズノートなど親会社であるデザインフィルの文具も並ぶが、それは全体の15%ほど。オールジャパンで調達し、デザインに優れた文具に加え、一部雑貨も置いている。1日平均1300人を超える来客があるなど好調な滑り出しに、鷲見社長は自信を深める。

「ジャパンプロダクトが世界で地位を落としているなかで、日本の文具は、唯一といっていいほど地位向上の可能性が見えてきた。単価が安すぎて、規模が小さいから誰もさわってこなかったけれど、まとめて戦えば必ずビジネスになる」

海外展開に大きな可能性を感じている鷲見社長は、こうも付け加えた。「エルメスのオーナーは『日本の文具はデザインも品質も価格もすばらしい』と絶賛し、来日すると必ず銀座の伊東屋にたち寄った。幹部たちは、みんなパイロットの万年筆を愛用していた。日本の文具は、もっと世界に誇るべきだと思います」

あらゆる逆境を追い風に前進する「ジャパニーズ文具」。地味だがなんとも頼もしい存在だ。

(電子報道部 井上理)

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