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鯖江発、メガネ通販「返品無料」 米国流で挑むEC市場

新次元の「ものづくり」と「サービス」を融合

ミスタータディを共同創業した清川忠康CEO(左)と六人部生馬COO

送料、返品手数料、返送料などはすべてタダ。メガネを「試着」して、気に入らなければ無料で返品・交換できる――。米スタンフォード大学で経営学修士号(MBA)を取得し、今夏帰国したばかりの人物が立ち上げたインターネット通信販売会社「Mr.Taddy(ミスタータディ)」(東京・中央)が、新手のメガネ通販サービス「OhMyGlasses(オーマイグラスイズ、http://www.ohmyglasses.jp/)」を10月下旬に始める。CEO(最高経営責任者)の清川忠康氏(29)は、世界有数のメガネ産地である福井県鯖江市のメーカーから商品を調達。米国流のEC(電子商取引)手法と融合して、「通販は難しい」とされてきたメガネ通販の新市場を開拓する。

「メガネ業界の"ザッポス"になりたい」。清川氏はそう意気込む。ザッポスとは米国のネバダ州に本拠を構える靴や衣類の通販大手、ザッポス・ドット・コム(Zappos.com)。ファッション関連商品は「試着」が必須なため通販には向かないといわれてきたが、この分野で大成功を収めた伝説の会社だ。

盛り上がるファッション関連のネット通販市場

ファッション分野の通販で先駆けとなった米ザッポス。その理由は明確だ。送料無料はもちろん、「試し履きをしたら足に合わなかった」「色や光沢がイメージと違う」といった顧客の都合でも365日返品でき、おまけに返送料も求めない。徹底したサービスが支持され顧客を呼び込んだ。

伝説を築いた米ザッポス

1999年の創業からおよそ10年で年商10億ドルを超え、09年11月には米アマゾン・ドットコムに買収された。アマゾンはザッポス流のノウハウをすべての事業に注ぎ込み、ファッション関連の売上高を急速に伸ばしている。

国内ではアマゾンジャパン(東京・渋谷)が「ジャバリ」のブランドで靴やバッグなどの小物を扱っており、「返品OK」という欧米流の通販文化が若い女性を中心に広がっている。11年2月には欧州のファンド資本による靴のネット通販サイト「ロコンド」も立ち上がった。各社によるサービス競争も相まって、ファッション関連のネット通販は熱い市場となっている。

そして、靴や衣類に次ぐ有望市場が、ファッションアイテムとして欠かせない存在となっているメガネというわけだ。

鯖江のメガネにかける思い

OhMyGlassesも、送料、返送料などをすべて無料とし、返品可能期間は最短でも14日間とする予定だ。500~1000種類のメガネを中心に、サングラスなども取り揃える。商品の主な価格帯はレンズ込みで2万円強。かなりの高級路線にみえるが、30~39歳の男女の3分の1から4分の1ほどが2万円以上のメガネを購入しているとの調査もあり、あながち高すぎるともいえない。「狙っているのは質やデザインにこだわりを持つ30~40歳前後のビジネスパーソン」と話す清川氏の武器は、「鯖江」ブランドだ。

自身も30本以上のメガネを持つ清川氏が、コレクションの中でも最も気に入っていたのが鯖江のメガネだった。メガネフレームに関して、福井県鯖江市はイタリア、中国と並ぶ世界3大産地の1つ。国内の約90%、世界でもおよそ20%の高いシェアを誇る。安価な中国製の流入による競争激化の波に押され、鯖江のメガネ関連製品の出荷額は、2005年に680億円(統計上の最盛期だった1992年の約6割)まで落ち込んだが、2008年には760億円と若干押し戻した。

鯖江市のメーカー「プラスジャック」では45年のキャリアを持つ職人が手作業でフレームを削る=提供プラスジャック

鯖江市産業環境部の渡辺賢氏は、「海外製品の品質不良や納期遅れを問題視した国内のメガネ量販チェーンなどが、鯖江に発注先を切り替えたことなどがプラスの要因として考えられる」という。再評価されつつある鯖江のメガネを、ネットの力で広めたい。そんな清川氏の思いに共感し、鯖江のメーカーを中心にすでに10社以上が契約を締結した。

地場メーカーにとっても"渡りに船"だった。「自社ブランド製品を作ってみたものの、マーケティング方法が分からなかった」。鯖江市でメガネフレームを製作するプラスジャックの津田功順社長(34)はそう振り返る。

販売予定の「+38」は、わずかに入った繊細な模様が特徴=提供ミスタータディ

自社ブランド「+38A(プラスサバエ)」のフレームは、素材のアセテートを極限まで薄く削り、柔軟性を持たせて掛け心地を追求した。このフレームは、OhMyGlassesの主力商品となる予定だ。鯖江市の牧野百男市長も「鯖江ブランドのメガネを広くインターネットで知ってもらえたら、こんなにうれしいことはない」と、ネットの新潮流に期待を寄せる。

10万本のメガネを販売した米メガネ通販サイト

もっとも、国内メガネ市場には、低価格とファッション性を武器とした大型チェーンがひしめき、ネット通販にも乗り出している。その1つが「JINS(ジンズ)」。最近では日本テレビ系列のバラエティー番組「スッキリ!!」と共同企画したメガネを9月22日の放映直後からオンライン販売。一時はサイト接続が困難になるほどのアクセスが集中し、ネットの在庫は数時間で完売した。

即日完売した着せ替えメガネ「チェンジ」の販売サイト

ただしJINSの場合、顧客都合の返品は受け付けていない。同じくチェーン展開する「Zoff(ゾフ)」は、商品到着日から8日以内で、送料は自己負担。度入りメガネは、注文時に入力されたデータに合わせてレンズを加工するコストが発生するため、靴のように「返送料なしで試着し放題」のサービスが難しかったのが実情だ。

「通販は難しい」のが常識だった市場だからこそ、挑戦しがいがある。清川氏はそう考えた。日経BPコンサルティングの調査(2011年5月時点)によると、現在使っているメガネの購入先が「インターネット通販・ネットショップ」と答えた人の数は、30~39歳の男女共にわずか1%程度だった。逆にみれば「まだまだ成長余力がある市場」(清川氏)。米国で学んだロールモデル(成功事例)として、米メガネ通販大手「WARBY PARKER」のノウハウを活用する。

「WARBY PARKER」はホームトライオンプログラムの説明ビデオも作成し、より分かりやすいサービスにつとめる

WARBY PARKERは昨年、およそ10万本のメガネをネット販売した(米経済ニュースサイト、ビジネスインサイダー)。価格は一律95ドル。成功の秘訣は、顧客サービスに徹したことで、通販につきものの「不安」を取り除いたことにある。

最大の特徴は、自分が気に入ったフレームを5本まで5日間、無料で試せる「HOME TRY-ON PROGRAM(ホームトライオンプログラム)」だ。試した眼鏡を返却する際、1本も購入しなかった場合でも、送料や手数料は一切かからない。その他にも自分の顔写真を取り込み、オンライン上で試着できるバーチャルトライサービスやコールセンターも開設している。清川氏は、このサービスを研究し尽くした。

「僕ら2人のチームだからできる」

OhMyGlassesも、無料で気になったフレームを試せる「ホームトライキット」や、小売店と連携した購入後のフィッティングサービス、電話やメールで消費者の相談に乗るカスタマーセンターの設置などを導入する予定だ。フェイスブックなどのソーシャルメディアと機能連携し、友人が薦めてくれたフレームを自分の顔写真データ上で試着できる「ソーシャルフィッティング」の開発も進めている。

販売するメガネは1本ずつ撮影し、データ化。ファッションサイトなどと連携したビジネスも模索する

データ領域を担当するのは、共同創業者でCOO(最高執行責任者)の六人部生馬氏(むとべ・いくま、28)。慶応義塾大学法学部を卒業した後、ソフトバンク持ち株会社の財務部門で企業買収を経験。スイスに本店をおくUBS証券の投資銀行本部を経て、ソフト開発ベンチャーのサイジニア(東京・品川)では経営企画室室長として、ターゲティング広告事業を立ち上げた。

「習慣化している消費者の行動を変えるサービスを実現したい」(六人部氏)。「固定費をぎりぎりまで下げ、データを分析しながら仮説と検証を繰り返してサービスや取扱商品を拡大していく。僕ら2人のチームだからできる」(清川氏)。

事前登録サイト(http://www.ohmyglasses.jp/)にアドレスを入力しておくと、サービスが始まり次第招待状が届く

初期は自社で在庫を持たず、中間経費や流通経費を抑える。様々なスタンフォード仕込みの戦略で、日本のメガネ業界に参入する。10月中をめどに、まずはシンプルな通販機能を備えた招待制のサービスを始める計画だ。

一方、実店舗でメガネを販売している既存小売関係者からはネット通販への疑問の声もあがっている。「フィッティングまで責任を持って売るべきだ」「眼科医と連携したほうが質の高いサービスを提供できる」「五感の1つである視覚に大きく影響するメガネは、測定データどおりに作成しても、かけ心地がよいとは限らない」――。ネット通販に不安を持つ既存の小売業者や消費者がいるのも事実なのだ。

「鯖江の眼鏡と共に日本再生に取り組みたい」

だが、OhMyGlassesを始める清川氏の目的は、メガネのネット通販にとどまらない。今回の新規事業を通じて、日本の流通や顧客サービスの変革、ひいては日本経済の復興という大きな課題も視野に入れている。

清川氏の経歴は、六人部氏のそれと似ている。慶応大学法学部を卒業後、米インディアナ大学で会計学修士を取得。UBS証券投資銀行本部を経て、「日本企業の再生に携わりたい」と転職した経営共創基盤(東京・千代田)では、流通や小売業などの事業再生・成長支援に取り組んだ。その後に渡米、今年6月にスタンフォード大MBAを取得した。

「ターンアラウンド(企業再生)からスタートアップ(起業家)に転向したのはなぜか。逆ではないか」。経歴を知る人からしばしば聞かれる質問に対し、「取り組みたいのは『日本の再生』。昔から一切変わっていない」と清川氏は答えている。

スタンフォード大で学んだ時は、日本の存在感のなさに衝撃を受けた。授業のケーススタディーで取り上げられるのは、韓国や中国、アジアの成長企業ばかり。「世界の人々と学んでいると、『日本人として自分は何ができるのか』と考えるようになる。メガネ作りは、日本が世界に誇る技術。今度は起業家として、鯖江のメガネと共に日本再生に取り組みたい」。そう夢を語った。

(電子報道部 富谷瑠美)

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