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宮市、アーセナルデビューで感じたプレミアの「速さ」

サッカージャーナリスト 原田公樹

タッチライン沿いでウオーミングアップをしていたアーセナルのFW宮市亮(18)に声がかかったのは、後半20分すぎだった。得点は2-1。だが、デビューの瞬間は最後の最後まで焦らされた――。

6シーズンぶりの日本人選手

2011年9月20日は、日本サッカー界にとって、記念すべき日となった。イングランド・リーグカップの3回戦、4部リーグのシュルーズベリー戦で、宮市が史上5人目のプレミアリーグの選手として途中出場したからだ。

2005-06年シーズンに稲本潤一がウェストブロミッジ、中田英寿がボルトンでプレーして以来の日本人選手である。リーグカップ戦とはいえ、6シーズンぶりに日本人がプレミアリーグのファーストチーム(1軍)の公式戦でプレーしたのだ。

この7年、韓国人選手はマンチェスター・ユナイテッドのMF朴智星、ボルトンのMF李青龍(今季開幕前に負傷してしまったが)、今夏アーセナルへ移籍してきたFW朴主永を含めると、9人がプレミアリーグのクラブでプレーしている。

頑張れよ、っていう感じで…

だが、日本人選手は2001~06年の間に4人で、うち準レギュラーとしてプレーしたのは稲本と中田だけ。同じアジア人で肉体的、技術的には大きな差はないはずだが、なぜか日本人にとってイングランドは敷居が高かった。宮市が、その長い、長いブランクを埋めたのである。

背番号31を背負った宮市は、ベンチ前でパット・ライス助監督から入念に指示を受ける。あとで聞くと「セットプレーの守備のことでした。(2-1だったので)失点ができない場面だったので……」と話した。

ベンゲル監督からは「交代しろ、っていわれました。頑張れよ、っていう感じでした」と明かした。

期待されてベンチから送り出された宮市は、第4審判に付き添われ、タッチライン際で交代出場の瞬間を待つ。だが、なかなかゲームが途切れない。ようやく韓国代表主将の朴主永と代わってピッチに立ったのは、同26分のことだった。

ピッチまでは遠かった

「ベンチからピッチまで実際の距離は近いんですが、これまでは遠かったです。本当にうれしかった。ずっと(1軍で)プレーしたいと思っていましたし、ちょっと(実際の交代出場まで)時間がかかったので(笑)。でも楽しくやりました」

エミレーツスタジアムの約8割を埋めた4万6539人の大観衆から「リオ(宮市の愛称)コール」が響く。だが「聞こえませんでした。ウオーミングアップ中にファンがコールしてくれたのは、(聞こえて)うれしかったですけれど」と宮市。18歳の少年は、興奮していたのだ。

3分後、ようやくパスが回って来ると、そのファーストタッチで左サイドをドリブルで攻め上がった。3人のDFに囲まれてもボールを失うことはない。

「自分の持ち味であるドリブルを見せなければ、と思っていました。本当にゴールを狙っていたので、まず仕掛けることを心がけました」

何でもないボールをトラップミス

同34分にアーセナルはMFベナユンが追加点を決め、3-1と勝利の安全圏に入った直後だった。タッチライン沿いで宮市は、何でもないDFギブスからのパスをトラップミスして、ボールをそらしてしまったのだ。

「観客の(落胆する)声が聞こえて、少しナーバスになりました。トラップミスで仕掛けるチャンスをひとつ減らしてしまって……。そういう細かいところを本当に重要だと思いました」

その後はなかなかボールが回って来ない。左サイドで孤立する場面もあり、ロスタイムを含めて約25分のデビュー戦は、ほとんど何もできずに終わった。

イングランド独特の「速さ」に苦労

相手は4部リーグのクラブとはいえ、イングランド独特の「速さ」に苦労した。

昨季終盤から、オランダ1部リーグのフェイエノールトへ期限付き移籍して、12戦で3得点。今季はリザーブリーグ(2軍戦)で2戦に出場した。ある程度「速さ」には慣れていたはずだったが、面食らったという。

「オランダとはプレッシャーのスピードが違いました。オランダでは1対1の局面が多かったんですが、イングランドはプレッシャーに来るのが速い。フリーキックもすぐリスタートする。本当に展開が速いし、守備の戻りも速い。そういうところに慣れていかなければならないと思います。早く慣れて、もっと自分を出したい。連係を高めて、ゴールを決めるようになりたいです」

スタジアムの雰囲気にも…

さらにスタジアムの雰囲気にものまれたという。

「雰囲気が全然違うなぁと感じました。プレミアリーグのアーセナルという名門のユニホームを着て戦う重みとか、偉大なクラブでプレーする雰囲気。そのなかで試合ができて本当によかったと思います。将来はアーセナルの主軸として活躍したい。今日は夢だったエミレーツスタジアムでプレーできた。それに満足していないけれど、まずはスタートラインに立てた。この先チャンスがあれば、それをつかんでいきたい。そのためには日ごろからの準備が大事だと思います。頑張ります」

試合後の宮市は、いつも通り爽やかだった。悔しさものぞかせたが、素直にファーストチームの公式戦でデビューできたことを喜んだ。キラキラと目を輝かせ、でも地に足がしっかり着いている様子が印象的だった。

自炊でパスタも

これからピッチ内で活躍するには、まず英国での生活になじむことがカギを握る。

「ずっとホテル暮らしだったんですけれど、最近アパートが決まって、生活も安定してきました。サッカーに打ち込むための生活の基盤ができた。あとは自分が、ピッチ上で結果を出すだけです」

自炊もしているという。「パスタとか。ちゃんとソースから作ってます。レシピを見ながらですけれど(笑)。(ロンドン中心街のある日本食材店)ジャパンセンターへも行きます。あと(英国の高級スーパー)マークス&スペンサーはお気に入りです。(出来合いの料理とか)新鮮ですし……」

18歳の少年が、異国の地で、自分で作ったパスタを食べながら頑張っている。

チームメートとの交流も深める

さらに普段からチームメートとの交流を深めることが、ピッチ内での連係を深めるためにも重要だ。過去に海外でプレーした日本人選手のなかには、ピッチ外でのチームメートとの交流を重要視せず、力を発揮することなく退団した選手が何人もいた。

「選手たちは本当にいい人ばかりで、みんな話しかけてくれます。でも英語はまだパーフェクトじゃないんで。英語も日々頑張って、早くなじんでいきたい。(ピッチ外での交流が重要なことは)昨季、フェイエノールトで学びました。フェイエノールトに移籍したばかりのころと、何カ月かたったあとでは、全然違いましたから。時間をかけて、コミュニケーションをとっていきたいです」

チームメートの前でおどけることも

近くチームの食事会が催される予定だという。こうしたチーム内のイベントで、いかに楽しむかも重要だ。宮市はなじむためにチームメートの前でおどけることもあるという。

「僕はそういうことが基本的に苦手ではありません。おじぎとか、日本のことをやると結構ウケるんです。みんな日本語も覚えてくれます」

この十数年間、海外でプレーした日本人選手を取材してきたが、これほど素直に、自分の考えを言葉にできる選手はいない。これは宮市のもうひとつの武器だろう。もっと英語が話せるようになったら、宮市のよさは、さらに評価されるはずだ。

チーム内での序列は4、5番目

現在、宮市のポジションである左ウイングには、アルシャビン、ジェルビーニョ、ベナユンと3選手がいる。さらにウォルコット、ロシツキー、朴主永も左ウイングとしてプレーできる。いまのところ宮市のチーム内での序列は4、5番目といったところか。

リーグ戦で先発する日は、少し先かもしれないが、すぐにまた、欧州チャンピオンズリーグなどで途中出場として、プレーする日は来るだろう。

こうして巡ってくるチャンスをいかにものにするか。自作のパスタをほおばりながら、日々、自力で努力を重ねるしか、道はない。

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