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なでしこが誇る「黄金の中盤」の卓越した技術

サッカー女子のロンドン五輪最終予選で、日本は3大会連続4度目の五輪出場をかけて8日の北朝鮮戦に臨む。幾度となく死闘を繰り広げてきた強敵になるが、日本には歴代最高のタレントがそろった「中盤の4人」がいる。

多彩なキックを操る宮間

日本の大黒柱といえるのは主将の沢(INAC)だが、実際に試合の行方を左右するキーマンは宮間(岡山湯郷)の方だろう。日本の効果的な攻撃はいつも宮間を経由して生まれている。宮間がどれだけたくさんボールに触るかが、日本の攻撃のできを左右する。

ロブ、ライナー、ゴロ、カーブ、チップキック、バックスピン……。宮間はありとあらゆる球筋のキックを使い分け、味方との距離に応じて最も適切なパスを送る。長すぎず、短すぎない距離感で。

技にたけた「なでしこ」のなかでもキックの技術はピカイチで、職人芸の域。変幻自在に多彩な球種を投げられるプロ野球の投手のようでもあり、狙った地点に正確なアイアンショットを刻むプロゴルファーのようでもある。

ダイレクトパスを多用

しかも宮間はダイレクトパスを多用する。5日のオーストラリア戦、自分に向かってきたパスの8割方をダイレクトでさばいた。

待ち構える間もなく急所をパスで突かれるから、豪州DFは宮間のパスについていけない。9分に中央からFW永里(ポツダム)に送ったスルーパスはその1例。ダイレクトパスが意表を突きすぎて、ときに味方の受け手さえも不意を突かれることがあるけれども……。

代表での出場は102試合を数え、実績でも沢(175試合)に続く。記者の質問にもよく吟味したうえで答え、勝利にも決して浮つかない。高い理想を追い求める、求道者のような雰囲気さえ漂う。

選手同士で息がかみ合わなかった8月19日の慈善試合後は「この(最終予選前の)時期に課題が見つかった方がいい。最初から完璧にはいかないものです」。FWが決定機を逃し続けた5日のオーストラリア戦では「チャンスを積み上げたことが大事。中国に入って練習時間はあまりないし、FWはボールを(練習でたくさん)けることが大事なポジション。問題ないです」と擁護した。

沢とならぶピッチ内の指揮官

試合中は指示を飛ばす声がよく通る。「こっち! 逆サイド! 出せ!」。沢とともに、宮間はピッチ内の指揮官なのだ。

「単純にDFの裏に出すだけではDFの背後は取れない。(いったん別方向にボールを動かすなどして)角度を付けて狙わないと、背後は取れない」。安直にDFの背後を狙って失敗する選手も多いなかで、宮間はサッカーというものをよく知っている。

ここにパスを出せばこうした変化がピッチ上で起こることを把握しながら幾筋ものパスを描ける。このうえにパスを出した後に自らも惜しまず動く「動ける選手」になり、ゴール前に飛び込む回数がもっと増えれば、宮間はよりスーパーな存在になれる。

大野はゴールに突き進むことに生きがい

主力を温存した1日のタイ戦の前半は、宮間や大野(INAC)の存在の大きさを浮き彫りにするものだった。実力ではタイより1枚上手でも、日本が「らしく」なってきたのは宮間と大野がピッチに送りだされた後半。宮間の配球と大野の突進力で少しずつチャンスを作りだした。

宮間がパスでほかの選手を生かすタイプなら、大野は自分でゴールに突き進むことを生きがいとするストライカー。

チーム全体のバランス、パフォーマンスを上げるために右MFという持ち場を受け入れているが、根はFWである。

辛勝だった3日の韓国戦で日本を勝利に導いたのは大野の決勝点。ずっとFWとして生きてきた得点感覚があるから、あの場面でも好機にゴール前へときっちり駆けつけることができた。

近賀との息はぴったり

相手DFと向き合ってグイグイとけしかけるプレーを好む。サイド際で待ち構えるよりは、内側にしかけて切り込む。

これは日本の右サイドには好都合で、そうやって大野が内に入って空いた外側のスペースを右SBの近賀(INAC)がオーバーラップで襲うのがお決まりのパターンだ。

日テレ時代からINAC、代表とずっと一緒に歩んできた2人は動きがきれいにかみ合う。攻撃参加を控えているときの近賀に「もっと(上がって来い)」と促すくらい、大野は攻撃好きだ。

FWとして武器だったスピードは守備にも生きる。大野が相手ボールをしつこくチェイスしてくれるので、後方のDFはパスコースを読みやすくなる。

ミックスゾーンでは陽気で天真爛漫(らんまん)、強気なセリフが目立つが、左MFのプレーを集めたDVDをスタッフからもらって研究するといった勉強熱心な一面もある。

動く、空ける、そこを突く

大野―近賀コンビと同じ崩し方は、逆サイドの宮間―鮫島(ブレーカーズ)の間でも繰り広げられる。いろんな方向へパスを出そうと宮間は、自然と中央、中央へ寄って位置取るようになる。

そうやって空いた大外を鮫島が駆け上がる。そこにどんぴしゃりのパスが、中盤の底の阪口(新潟)から届けられる。日本はサイドを制して相手を押し込む。

1人が動いて生まれたスペースをほかの1人が埋めていく。「動く、空ける、そこを突く」という連携が現チームは実に巧みで、オートマチックに連動しているのではと思うほどに成熟している。この連携の良さは守備でも同じで、中盤の4人は至るところで相手をサッと包囲網にかける。

沢がDFのひき付け役に

オーストラリア戦で沢は「相手MFが自分にマンツーマン気味についていたので、私がそれを引き連れて空いたスペースを阪口が使えるようにした」と語った。

「監督にもそうやると話した」というから、指示待ちではなく、自分たちで考えて判断して効果的に連動していたのだろう。

そのオーストラリア戦、阪口は左右へ長短のパスを散らすとともに、正面の2トップへも効果的なくさびのパスを通した。

DFの1列前にいる阪口は攻撃を組み立てる時の「最初の1歩」になるが、相手が1人、2人と至近距離まで近寄ってきてもギリギリまで引き付け、かわしながらパスを渡していく。

不動のカルテット

ボールを取られそうで取られない。ボールタッチの感覚やコントロール技術が高くなければできない芸当だ。阪口のようにボール1個分のコースさえ空いていればパスを通せる器用さを備える選手は、オーストラリアには見あたらないし、アジアでもそういない。このうえ遠めからミドルシュートの腕前が上がれば文句なし。

代表での出場試合数は沢が175、宮間が102、大野が96、阪口が46。それだけの試合をともに戦い抜いてきた。

この2年ほどは不動のカルテットとして中盤を支える「なでしこ」の心臓。日本戦を俯瞰(ふかん)していると、4人がいいあんばいで距離感を保ちながら滞りなくパスを交換していく様がよく分かる。

そして6日に33歳を迎えた沢。「同い年の女性だと『年を取るのが嫌』という人が多いのだけど、私は毎年がとても充実していて、今年はどんな年になるか楽しみ」と語る。

苦しんだときに頼れる沢

「リーダーシップといった面など、年を重ねるごとに良くなっている」とは上田栄治団長。初戦は温存され、ここまで出場した2試合はノーゴール、目立った仕事はまだしていない。それでも存在感は際立っている。

相手を突き飛ばすような激しいタックル、男子選手かと見まがう強烈なシュート。力強いプレーの沢を基準に見てしまうと、粒ぞろいの現チームもおとなしい子どもたちにみえてくる。

沢はチームが苦しんだときこそ決定的なゴールをもぎ取ってきた。5日で3試合を戦う強行日程のなか、ここまで3連勝の日本は比較的に順風満帆。この先、強烈な向かい風に立ち会ったとき、おそらく頼れるのはワールドカップ(W杯)でMVP、世界制覇の立役者になった背番号「10」だろう。

(岸名章友)

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