なぜ日本人選手が集まるか 独ブンデスリーガの魅力
サッカージャーナリスト 原田公樹
3日連続でスタジアムが熱かった。ゴール裏のホームのファンたちは熱狂的で、少数派のアウェーのファンも負けていない。この観客が作り出す雰囲気は、ワールドカップをはるかに凌駕(りょうが)していた――。
先週末、ドイツ・ブンデスリーガ(1部リーグ)の開幕戦の取材へ行った。金曜の5日夜から日曜の7日まで。計3戦を取材したが、何がすごかったかというと、場内の雰囲気だ。
■殺気だった空気の中にファミリームード
香川真司の所属するドルトムントとハンブルガーSVの一戦は、なんと8万720人の観客で埋まった。岡崎慎司のシュツットガルトと内田篤人のシャルケの対戦は6万人、宇佐美貴史のバイエルン・ミュンヘンと大津祐樹のボルシアMGのカードには6万9000人が入った。
記者席にいながら、3日連続で背中がゾクゾクして興奮した。
イングランド・プレミアリーグや、スペイン1部リーグも試合によっては同じような雰囲気はあるが、ドイツは少し違う。
観客が男性だけではなく、女性や子供も多いからだろうか。殺気立った空気のなかに、和やかなファミリームードが調和し、実に楽しい雰囲気なのだ。
入場料収入安定するとクラブ経営も安定
これに選手たちも応えて奮闘し、より場内の緊張感は増す。今季開幕戦の全9試合の観客総数は46万2099人で、1試合平均は5万1344人を数えた。
サッカークラブの収入源は入場料、テレビ放映権、スポンサー料が3大柱といわれる。入場料収入が安定していると、クラブ経営も安定し、より有能な選手を獲得できる。
人が人を呼び、またそれが人を呼ぶ。ブンデスリーガは1試合平均で世界一の観客数を誇るサッカーリーグだが、この調子なら今後数年は、このトップの座を明け渡すことはないだろう。
「海外組」は史上最多
この熱いブンデスリーガに今季、日本人選手が10人(前述の5人のほかウォルフスブルクの長谷部誠、アウクスブルクの細貝萌、ケルンの槙野智章、フライブルクの矢野貴章、2部のボーフムに所属する乾貴士)も集まった。
欧州の主要1部、2部リーグでプレーする日本人選手は男女合わせて約30人いて、いわゆる「海外組」の数は日本サッカー史上最多だ。
数年前、いつの日か南米やアフリカ諸国のように「海外組」だけで日本代表が編成できるようになれば、もっと日本は強くなる。そんな時代が早く来ればいい、と思っていたが、ついに実現したのである。
そのうちおよそ半数がドイツだ。男子10人に加えて安藤梢、永里優季、熊谷紗希らなでしこ勢が3人。さらに日本生まれの北朝鮮代表FW鄭大世を含めると、計14名もの日本育ちの選手が、ドイツでプレーしていることになる。
「非ドイツ人枠」を撤廃
なぜドイツに集中するのか。いくつか理由がある。まず外国人枠がないことが大きい。ブンデスリーガは2006-07年からいわゆる「非ドイツ人枠」を撤廃。
現在、1部、2部を合わせて全体の47%が、ドイツ人以外の選手だ。また英国と違って、非EU(欧州連合)籍の選手でも、労働許可証が取得しやすいといった点もある。
代理人のクロート氏の存在
またトーマス・クロート氏というドイツ人の有能な代理人がいることも大きい。過去にドイツへ移籍した日本人選手のほとんどが、このクロート氏の仕事によるものだ。
現役時代はケルン、フランクフルト、ドルトムントなどでプレーし、ドイツ代表歴が1試合ある。だから顔がやたらと広く、各クラブのGMや監督に直接、携帯電話をかけて交渉する。
移籍後も選手が試合に出られないと、監督に電話したり、会ったりして、その事情を聞き出し、選手に助言を与えるという。
順応しやすく、暮らしやすい
そして真面目な日本人選手は、ドイツ人から好かれる。ピッチ外で時間やルールを守るのは当然のこと。ピッチの中でもチーム戦術に則って、黙ってまじめに監督の指示に従うからだ。
また普段の生活でも、たとえば町行くドイツ人たちが、ほぼ間違いなく信号を守るように、日本人のメンタリティーと似ている部分が多い。だから選手たちもイングランドやスペインでの生活より順応しやすく、暮らしやすいのだろう。
だが、開幕戦に出場したのは、日本人男子10選手中、先発がウォルフスブルクの長谷部とドルトムントの香川だけ。途中出場してゴールを決めた岡崎を含めて3人しかいない。これが現実であり、今後の課題だろう。
打開のヒントは、ドイツでも高く評価されている香川のプレーにあると思う。ドイツサッカーとは本来、選手の役割がはっきりしていて、堅い守備で攻撃はダイレクトプレーを多用するスタイルだ。見ていて面白みはないが、パワーと堅実さが売りだ。
プレースタイルが少しずつ多様化
ドイツ人をはじめ、その周辺国の選手たちの多くは、こういうプレーしかできない選手が多い。だが、ドイツ代表にMFエジルやMFゲッツェが入り、プレースタイルが少しずつ変わってきた。
これに呼応して、リーグ全体のプレースタイルも少しずつ多様化してきている。昨季のブンデスリーガで、ドルトムントが、香川らを軸とする連動したパスサッカーで優勝したことも、大きな刺激になったはずだ。
ドイツ人と同じようなプレーでは意味がない
ドイツ人と同じようなプレーをしていたのでは意味がない。伝統のスタイルへの味付けになる、細かいボールテクニック、視野の広さ、俊敏性、また連動して動けるセンスを日本人選手が発揮すれば、もっと試合に出られるだろう。
チーム戦術という規律のなかで、独自性を発揮していくことだ。そうすれば、来季はもっとブンデスリーガでプレーする日本人選手が増えるはずだ。