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テレビを見ない若者、動画サイトで「会話」を楽しむ

ゲームジャーナリスト 新 清士

最近、若い人たちのテレビ視聴のあり方が大きく変容しているようだ。

大学で講義を頼まれた際、必ず最初にどんなゲームやサービスを利用しているのか手を挙げてもらう。「ニンテンドーDS」や「PSP」では半分近くが挙手する半面、最新の据置型ハードは少数派だ。一方、携帯電話の「ソーシャルゲーム」を遊んでいる人は1~2割。感覚的には意外と少ないという印象だが、市場の趨勢を反映しているのだろう。

ところが、どの大学でもほぼ100%、学生が手を挙げるサービスがある。動画サイトの「ニコニコ動画(ニコ動)」だ。無料で登録して視聴できるため、有料のゲーム機やサービスとは単純に比較できないが、詳しく聞くと若者の放送メディアの視聴習慣はがらりと変わっているようだ。日本は24日に「完全地デジ化」へ移行するが、既存のテレビ放送と違う視聴スタイルが、若者の間に浸透しつつあることを痛感させられる。

今回はニコ動のサービスを積極的に利用している女子大生の「彩」さん(ハンドルネーム)の姿を通じてその変化を見ていきたい。

20歳代の2人に1人がアカウント持つ「ニコ動」

ゲーム分野ではニコ動が情報発信源となる事例があふれている。ゲーム動画の配信については著作権上の問題があるものの、プロモーション効果が大きいこともあり、事実上、ゲーム会社が黙認している状態が一般化している。そのため日々、多数のゲーム関連の動画がアップされており、ニコ動の中でも人気のジャンルとなっている。

最近では、4月に「エルシャダイ」(イグニッションエンターテインメント、PS3、Xbox360)の発売前プロモーションが異常なほどに盛り上がった。これは、ゲームのプロモーション動画があまりにもユニークだったため、ニコ動を中心に口コミで評判を呼んだためだ。主人公の「大丈夫だ、問題ない」という決め台詞(せりふ)は、ゲームユーザーの流行語にまでなっている。ニコ動の予告編動画は450万回以上再生され、42万ものコメントが付いている。

5月31日に行われたカンファレンスで、「ニコ動」の運営会社、ニワンゴの杉本誠司社長が明らかにした無料登録ユーザー数は2180万人で、月間約35万人ペースで増加しつつある。毎月525円の有料会員の登録者数はそのうち5%程度の126万人で、月間約3万人ペースで増えている。

注目すべきなのはユーザーの年齢構成だ。10歳代が23.2%、20代が45.5%と、20代以下が7割近くを占めている。「(計算上は)日本国民の20代の2人に1人が、ニコ動ユーザー」であり「10代にはまだ伸び代がある」と杉本社長は述べている。

他の動画サービスと比較してニコ動が大きく異なるのは、映像の上にオーバーラップする形でユーザーが自由にコメントをつけることができる機能にある。ニコ動に投稿したユーザーは、それぞれの映像シーンにつけられたコメントによって、擬似的に知らない人と、一緒に楽しんでいるような気分になる。動画を通じて間接的に「会話」をしているのだ。

「20代の人と違い、40代以上の人には動画を使って会話することがピンと来ません。こうしたコミュニケーションの必要性がないんです。顔と顔を合わせてやればいいじゃないかと」(杉本氏)

ニコニコ生放送に熱中する一人の女子大生

ニコ動には、「ニコニコ生放送(ニコ生)」というリアルタイムにユーザーが番組をストリーミングで流すことができる機能もある。原子力安全・保安院の記者会見や、小沢一郎氏の会見などを流し、その存在は社会的にも着目されている。

「ニコ生」はニコ動の有料会員を伸ばすための付加価値的な要素として位置づけられている。有料会員になれば、何度でも放送を流すことができるが、1回の放送は30分間という時間制限がつけられている。

ニコ生でもゲームは8つのカテゴリーのうちで人気が高い分野だ。プレー動画などコンテンツ(情報の内容)を作りやすいということもあるのだろう。例えば7月17日の22時台は、全体で約7000番組が放送され、そのうち2100番組以上がゲームだった。

都内の音楽大学2年生のハンドルネーム「彩」さんは、昨年11月にニコ生を始めてから9カ月間で実に370回も放送を行っている。彩さんはごく普通の快活な印象を与える女子大生だ。リアル(現実社会)の友人も多く、「モンスターハンターポータブル3rd」(カプコン)を講義の休み時間に日常的に遊んでいるほどのゲーム好きだ。しかし、オタクっぽい雰囲気は全くない。

友達との「おしゃべり」と変わらない放送

彩さんがニコ生を始めたのは、昨年、彼女の好きな作曲家がニコ生でライブをやるのを見てからだ。それ以降、様々な放送を視聴し、お気に入りの人の放送を継続的に見るようになった。そして「自分でもやってみようかな」と思って始めたという。

始めることに抵抗はなかったが、1回目の放送はとても緊張して声が震えたという。放送開始直後は、当然リスナーはゼロの状態で始まる。しゃべり続けていなければ、ちょっとのぞきに来たリスナーもどこかに行ってしまう。話し通しだったため、最初の30分間を終えると酸欠に近い状態になってしまうほどだったという。

番組を何回か続けると常連のリスナーが現れるようになる。インタラクションがあまりにも楽しくて、毎日のように放送した。次にゲーム中継をするようになる。2月に「ファイナルファンタジーX-2(FFX2)」(スクウェア・エニックス)のプレー中継放送を行い、20数回で最後までクリア。現在は「ファイナルファンタジー8」(スクウェア・エニックス)と「メタルギアソリッド2」(コナミ)の放送を不定期に続けている。「そのゲームが好きな人が視聴してくれるのでリスナーさんに参加してもらいやすい」と彩さんは言う。

ゲームはクリアするのに時間がかかるため、30分の放送枠はすぐに使い果たしてしまう。終了後、次の枠を予約して、それが取れるとまた放送開始。1日5回ぐらい放送し、次々と回数を重ねることになるのだという。500回、1000回の放送をやっているユーザーはザラにいるのだそうだ。

また、自分の放送が終わると、逆に聴きに来てくれたリスナーの番組をのぞき、今度は自分がコメントをする側にまわる。ニコ生の会話は「友達と話している感覚と変わらない」と彩さんは言う。「少しだけ違うとすれば、友達と話している以上にリスナーを楽しませようという感覚が出てくるところでしょうか」(彩さん)

最近、同じ日の午前0時、同1時に行われた雑談の放送を視聴させてもらったが、とても不可思議な印象だった。彩さんが放送を開始してずっと聴いているリスナーは10人ちょっと。リスナーは彩さんが話していることについて、コメントの書き込みを通じて「ツッコミ」をする。それを受けて彩さんは話を続けていくが、たわいもない会話が続く。

どのゲームのプレー動画を中継するかも、リスナーからの書き込みで決めたりする。「ゲームはコメントしながらやるのが楽しい。一人でやるより感動が倍になる。倒せなかった敵を倒せたら(コメントで)『ぱちぱちぱち』とか言ってもらえて、感動を分かち合えるのがいい」(彩さん)

「バーチャル」で多様な経験を楽しむ若者

ニコ生では自分の放送に誰が来ているのかもわからないし、男か女なのかもわからない。しかし、そうした人々と話すことに「抵抗感はない」(彩さん)という。「知らない人と話す方が楽しい。相手が自分のことをあまり知らない人の方が話せることもある」(同)

人気のあるニコ生では視聴者が5000人に達するような放送もある。しかし、彩さんは人数が増える方向を目指すのではなく、今の20人以下のリスナーぐらいで、それぞれの人と近い距離感で会話をする規模がいいと考えている。

ニコ生の利用によって彩さんの生活習慣はがらりと変わった。「テレビをまったく見なくなった」というのだ。大学から帰宅して、パソコンでニコ生の再生を始めると、ずっと「ながら視聴」をする。下手なバラエティー番組より楽しく、コマーシャルもない。コメントを通じて主体的に番組にかかわれる楽しさもある。

現在の若者が積極的に対外的な活動をしない「草食系」という言葉があるが、私は今の大学生たちの状況はちょっと違うと思っている。「肉食系」として消費をしたくても、そもそも手持ちのお金がないのだ。総務省の調査では、1990年からの20年間で、家計所得は12%減少したが、教育費は減少していない。学生の親からの仕送り額は減り、デフレでアルバイト収入も下がっている。携帯電話を持つのが当たり前であるため通信費も増大している。学生たちが使えるお金は減り、「草食系」になるしかないのだ。

彩さんが遊ぶゲームは「プレイステーション2」時代の中古ゲームが基本で、7000円もするような新作タイトルを買うことは、まずないと言う。古いゲームでも十分に面白く、また画質の粗いニコ生で放送するには、ハイビジョンの画質はなじまないのだそうだ。

前述の「エルシャダイ」は、事前に大きく話題になった割には、実際の販売本数は約7万本と振るわなかった。定価が7980円と高いうえ、話題性を作ったニコ動ユーザーたちと実際との購買層の間にミスマッチがあったのだろう。彩さんも「面白そうだとは思ったが、買おうとまでは思わなかった」という。

彩さんは「旅行をしたい」と漠然と考えているが、国内旅行でもそれなりの額を用意しなければならない。ところが、ニコ生であればゲームといった共通の「ネタ」を通じて、地方の人とも簡単に知り合うことができ、まったく違うタイプの人たちと話す機会もできる。リアルで動くには何かとお金がかかるが、バーチャルであれば空間の制約を受けることはなく、余計なコストも掛からない。

彩さんの姿は、今の新しいゲーマー像といえる。自分が積み重ねられる経験を、どうすれば多様性のあるものにできるのかを思案し、工夫しているのだ。従来の放送が一方的な「受け身」だったのに対し、ニコ生は双方向的な機能を持つメディア。自分が気軽に放送する行為が生活習慣のなかに組み込まれつつあり、そこではリアルとバーチャルを区分することは意味をなさなくなっている。

新清士(しん・きよし)
 1970年生まれ。慶應義塾大学商学部及び環境情報学部卒。ゲーム会社で営業、企画職を経験後、ゲーム産業を中心としたジャーナリストに。国際ゲーム開発者協会日本(igda日本)代表、立命館大学映像学部非常勤講師、日本デジタルゲーム学会(digrajapan)理事なども務める。

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