2019年9月18日(水)

若きエリートこそ地方めざせ

2018/7/5 10:00
保存
共有
印刷
その他

高学歴の学生に最初の就職先として人気の外資系コンサルティング会社。将来は経営者や組織のリーダーを見据える人も多い。地方にビジネスや成長の種があると主張する経営共創基盤(IGPI)の冨山和彦最高経営責任者(CEO)は、「プロとして意思決定できる経営人材を目指す若きエリートこそ、地方を目指せ」と説く。

――名門のボストン・コンサルティング・グループを経て起業という冨山さんの経歴は、経営者や起業を目指す若者にとってお手本となると感じます。

「私たちの頃のコンサルタントは、戦略を立案するための考え方や技能を体系的にまとめた枠組みのようなものが今ほど確立していなかったので、毎回、自分の頭で考えるしかなかった。でも今は枠組みがあり、それを勉強すればある程度の成果は出せるので、難関大学を卒業した人には悪くない職場でしょうね」

「経営者も勉強はできないよりできたほうがいい。でも本質ではありません。そこそこの力があればいいんです。経営者に問われるのは、答えが1つではない問題に対峙したときにどうするか、ということ。試験は正解が用意されているけれど、経営は情報が不完全な状態で意思決定しなければならない。方程式を自分で組む力は、正解に効率的にたどりつく、という訓練だけでは身につきません」

「これが本当の『地頭』だと思います。経営が難しいのは、人が最大の変数になってしまうことです。環境は変わるから一般的な方程式は当てはまらないし、人への洞察力がなければ判断を見誤る。方程式に当てはまるような仕事なら、いずれ人工知能(AI)に置き換わると思いますよ」

――コンサルタントで実績を積めば、経営リーダーになれますか。

「組織にはプロフェッショナルかサラリーマンか。意思決定者かアドバイザーか。この2軸があります。コンサルティング会社はサラリーマン型の組織ではありません。『個』ありきのプロ集団です。そして企業のトップもたった一人なので『個』。プロなんです」

「多くの日本企業はサラリーマン型組織で、一人ひとりが歯車の役割を果たすよう求められ、十分な意思決定の訓練をしないままトップに上がってしまう。サラリーマンの価値観を続けてもプロにはなれません」

「コンサルティング会社はプロフェッショナルになる教育をするので、リーダーを目指す上で間違ってはいないんです。ただコンサルタントは選択肢を見せて助言するだけ。最後の一つを自分で選んで決断を下し、結果を自分で背負う訓練は受けません。私たちの会社はプロフェッショナルであり、かつ意思決定もできる『経営人材』を育てることを目的としています」

――そうした経営人材をどのように育成しているのでしょう。

みちのりHDは経営不振のバス会社を次々に買収して再建(福島交通のバス)

みちのりHDは経営不振のバス会社を次々に買収して再建(福島交通のバス)

「企業再建のお手伝いをしていますが、まさに再建の過程で人を育てるのです。代表的なのが2009年に設立した、みちのりホールディングス(HD)です。福島交通や茨城交通といった経営不振に陥った地方のバス会社などを傘下に収め、再建して経営しています。人を送り込み、経営に携わっているんです」

「最初からプロの意思決定者にはなれません。経営人材になるには必修基礎科目があります。1つは戦略コンサルタントとしての基礎的な論理的思考力やプレゼンテーション能力などです。一般のコンサルティング会社と同じですね。違うのは2つ目です。大企業を相手にする戦略コンサルタントは、日々の資金繰りまで考えることはありません。当社は簿記会計や財務会計も学んでもらいます。当社で5年も働けば、転職市場でとても価値があると思いますね」

「コンサルタントとしての仕事もあるし、みちのりHDの傘下企業のような地方の現場で経営実務もできる。人事労務や人の情理の部分も学べる。働き方改革の重要性が高まっており、人事労務の知識は必須です。小さな会社でも若いうちに(財務や人事といった各分野の最高責任者を指す)『CXO』として意思決定の経験を積むことが、経営リーダーを育てる近道だと思います」

――みちのりHDが地方の業績が悪化した企業を次々に傘下に入れているのはなぜでしょうか。

「当社の仕事は、知恵出し、(経営者を送り出す)人出し、カネ出しの大きく3つです。最も深刻な経営状況の場合は、この3つをすべてやる。その典型が地方のバス会社だったんです。要は『会社の総合病院』なんです。さまざまな患者さんが運び込まれてくる」

――「患者」の共通疾患はなんですか。

「経営者です。経営者が劣化したか、経営者のそれまでのやり方や能力が環境と合わなくなったかのどちらかですね。会社は頭から腐っていくんです」

――地方にこそ可能性があると説いていますね。

「さまざまな企業の再建に携わり、肌で感じたことです。日本は戦後、加工貿易で利益を出す形にし、国内市場をおろそかにしてきました。大企業は海外の安い労働力を使って利益を出したけれど、我々日本で働く人の大半は恩恵を受けていない。この経済構造を変えていく必要があるんです」

「欧州や南米の強豪国には、地域に根付いたサッカーリーグがあります。その上に各国代表チームがある。だから選手層が厚く、強いわけですが、ビジネスでも優位性があります。ワールドカップは4年に1度しかないので、各国代表チームだけでは大きなビジネスにはなりません。英国やスペインのように大きなクラブを作ると、テレビ放映やネット配信で大きな収入があります。欧州のサッカークラブは地域、国、グローバルチームの3つがそろい、大きなビジネスになりました」

「ほかのビジネスもローカルが基盤にあります。若いエリートはどうしても、『オリンピック』や『ワールドカップ』などの世界市場に目がいってしまいます。しかし、そこに参加できる企業は限られる。非常に厳しい戦いです」

「グローバルな企業で世界一を目指すのか、地方の企業でいい経営をし、生産性を上げ、賃金を上げるか。伸びしろでいけば、地方にこそ可能性があるんです。若い世代にもチャンスはあるし、やりがいもあると思いますね」

(聞き手は松本千恵)

事業規模の拡大も
 企業再生というと赤字会社を合理化し、価値を高めて売却するイメージが強い。経営共創基盤が100%出資する、みちのりホールディングス(HD)は東北や北関東のバス会社を8社も買収し、路線の再編や成功例の共有により事業規模を拡大する独自の事業モデルだ。最高経営責任者(CEO)の松本順氏は、産業再生機構で冨山氏とともに九州産業交通などの再建を手掛けた。冨山氏のいう「会社の総合病院」を支える「名医」であり、そのメスさばきが注目される。

[日本経済新聞夕刊2018年5月24日付]

保存
共有
印刷
その他

関連企業・業界 日経会社情報DIGITAL

電子版トップ



[PR]

日本経済新聞社の関連サイト

日経IDの関連サイト

日本経済新聞 関連情報

新しい日経電子版のお知らせ

より使いやすく、よりビジュアルに!日経電子版はデザインやページ構成を全面的に見直します。まず新たなトップページをご覧いただけます。

※もとの電子版にもすぐ戻れます。