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サッカー女子W杯、世界を驚かす「なでしこ」の魔法

サッカージャーナリスト 原田公樹

サッカーの日本女子代表(なでしこジャパン)が13日行われた女子ワールドカップ(W杯)準決勝でスウェーデンを3-1で下し、初の決勝進出を決めた直後の記者会見は、日本人にとって痛快だった。

なぜ小が大を制したのか

地元ドイツや海外の記者たちが、佐々木則夫監督に「どのようにして勝ったのか」という質問を繰り返したからだ。正確に言えば、ちょっとずつ内容は違うが、聞きたいことはほとんど同じ。多くの記者たちは、「体の小さな者が、いったいどうやって大きな者を倒したのか」と目の前で起こった"魔法"のような現象の理由を知りたがっていた。

佐々木監督は開口一番、「本当に特別なことをしたわけじゃない。選手が今までやってきたことをよくやってくれた。非常にボールも体もよく動いて、集中力もあった。近年にない質の高いサッカーをやってくれた。それが結果につながった」と選手の奮闘をたたえた。

外国人には異質に見えるサッカー

その通りなのだが、外国人記者たちはもっと詳しい戦術を指揮官に語らせたいようで、手を変え、品を変え、質問を飛ばした。

「日本は小柄なので、ボールを動かして、守備でも攻撃でも互いに連係してやっている。全員サッカー。それをやらないと世界に通用しないので、一生懸命練習している」

多くの外国人の記者は、いまひとつ得心がいかない様子だった。なでしこジャパンのスタイルは、技術をできるだけ高め、連動して動き、コンビネーションを極めたサッカー。日本人にとっては、ごく当たり前のスタイルなのだが、外国人にはかなり異質に見えるからだ。

イングランドに敗れたのが良かった

準々決勝で地元ドイツを撃破し、準決勝でスウェーデンを下して初の決勝進出を決めた"勝因"を選手たちに聞くと、イングランド戦での敗戦が大きかったという。

DF岩清水梓(日テレ)は「イングランド戦でうちらが気づいたことが色々あった。あの敗戦が結果的によかった」と話す。

あのとき日本は1次リーグでニュージーランド、メキシコに2連勝し、すでに8強入りを確定。イングランドに引き分け以上で1位通過するという一戦だった。準々決勝で地元ドイツとの対戦を避けるため、最低でも引き分けたい日本。一方、勝たなければ1位通過はなく、最悪大敗したら敗退もあるというイングランドでは、戦闘意欲が違った。

前日会見とまったく逆の戦法

立ち上がりから日本は、得意とする前線からの守備を欠き、士気の高いイングランドに攻めさせてしまった。実はこの決戦の前日会見で、イングランドのパウエル監督は、日本戦の対策を聞かれ、「走って、走って、走って、タフなゲームをする」と話していた。

ところがフタを開けてみると、イングランドはまったく逆の戦法をとり、守備時にDFとMF陣でブロックを張り、日本を待ち受けたのだ。非常に狡猾(こうかつ)だった。

敵陣内にスペースがない日本はボールを蹴るしかなく、リズムを崩して0-2で完敗。準々決勝で地元ドイツと対戦することになった。

この準々決勝を戦う前まで、ドイツとの対戦成績は1分け7敗。親善試合ですら1度も勝ったことがない相手に、W杯という大舞台で、開催国に勝てるはずがない。誰もがそう思ったはずだ。

ドイツ戦を前に悲壮感はなし

だが、このとき、なでしこジャパンのチーム内には、悲壮感はなく、いけるんじゃないか、という雰囲気があった。イングランド戦の敗因が、非常に明確だったからである。

「若手も含めて選手たちが疲れている」と感じた主将の沢穂希(INAC)は、佐々木監督にドイツ戦までの練習量を減らすように求め、指揮官もこれを受け入れた。

さらにイングランド戦では欠如していた前線から相手FWを追い回し、守備をするということをチーム内で徹底させた。さらにDF陣はMFやFWへの無理なパスは禁止し、DFラインでボールを保持する戦術を続けることを再確認したのだ。

ドイツ女子代表の一大キャンペーン

もっとも日本が幸運だったのは、ドイツがイングランドのように守備時にDFとMF陣でブロックを張る戦術を採用しなかったことだろう。

開催国ゆえ、日本ごときにそのような消極的な戦術を使うことはプライドが許さなかった、という背景もある。何度も危ない場面はあったが、延長後半3分、途中出場した丸山桂里奈(千葉)のゴールで日本はドイツを下したのである。

3連覇を目指していた開催国ドイツは、大会前から「ドイツ女子代表」の一大キャンペーンが展開されていた。あらゆる企業の広告にドイツ女子代表選手が採用され、町やメディアには、エースのプリンツ、バイラマイ、クーリックらが繰り返し登場。巨額の資金が投じられ、ドイツが優勝すれば、女子サッカーが一気に国内でメジャースポーツとして確立するだろう、という見方もあった。

こうした事前の仕掛けが功を奏し、大会を通じて観客動員も好調で、国民のほとんどが優勝を信じて疑わなかった。ところが準々決勝で、日本に敗れるという大波乱。この試合はドイツ国内で1700万人がテレビ観戦していたという。国民の2割以上が、ライブ放送を見て、大ショックを受けたわけだ。

決勝は世界最強の米国と

いまだドイツ国内ではその余波が残っている。ドイツの主要メディアは、敗因を丹念に分析し、そのほとんどがシルビア・ナイト監督は退任するべきだ、という論調を展開している。まるで男子サッカーと変わらない、過熱ぶりなのだ。

このドイツ国内の様子を見ると、なでしこジャパンはとんでもないことをしたのだ、ということを改めて実感する。

17日(日本時間18日)の決勝で日本は、米国と対戦する。過去の対戦成績は、国際サッカー協会(FIFA)の記録によると3分け19敗。一度も勝ったことがない。

テクニック、パワー、フィジカル、連携プレーもうまい、現在FIFAランキング1位の世界最強チームとの対戦だ。

今後の女子サッカーのベクトルを定める?

日本がボールを支配してパスをつなぐコンビネーションサッカーで勝てるかどうかが見どころだ。もちろん日本人としては、なでしこジャパンに勝ってもらいたいが、興味はもうひとつ別のところにある。

今後の世界の女子サッカーの発展のベクトルを定める興味深い一戦になるのではないか。つまり、体の小さな者でも大きな者を倒せるかどうか。これは歴史上、稀にみる大実験でもある。

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