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サッカー日本代表が抱えるシステムよりも重大な課題

サッカージャーナリスト 大住良之

チェコと0-0で引き分け、タッチを交わす日本代表イレブン(7日)

6月1日から7日にかけて行われたサッカーのキリンカップで、日本代表はペルー、チェコと戦い、ともに0-0で引き分けた。チェコとペルーの対戦も0-0の引き分けだったため、今年の大会は3チームの同時優勝という珍しい結果に終わった。今回のキリンカップの大きなテーマは「3-4-3システム」だったが、どうだったのだろうか……。

ザック監督「チームの成長に喜び」

1日に新潟・東北電力ビッグスワンスタジアム、そして7日に日産スタジアム(横浜国際総合競技場)に詰めかけた計10万を超すファンに勝利を届けることはできなかった。しかし、アルベルト・ザッケローニ監督は、「チームの成長に喜びを感じている」と語った。

昨年10月、アルゼンチンに1-0で勝利した初采配以来、今年1月のアジアカップまで、ザッケローニ監督は一貫して「4-2-3-1システム」で戦ってきた。

現在の世界のトップクラスでは4バックをベースにした4-2-3-1や4-2-2-2が主流で、3バックで戦っているチームはほとんどないといっていい。

キリンカップで3-4-3の新システムを試したザッケローニ監督

3-4-3でプレーの幅の拡大狙う

岡田武史監督時代の日本代表も4バックだったし、日本代表がプレーするJリーグやヨーロッパのクラブも例外なく4バックでプレーしている。だから選手たちが慣れている4-2-3-1からスタートしたのである。

しかし3-4-3はザッケローニ監督がイタリアのクラブの監督をしている時代に熟成させ、成功を収めたシステム。その長所を知り尽くしたザッケローニ監督にすれば、4-2-3-1だけでなく3-4-3でもプレーできるようになれば、日本代表のプレーの幅が大きく広がると考えたのだ。

だが、1月のアジアカップ以来初の国際試合となったペルー戦では、3-4-3のいいところはまったく出なかった。

「たった2日間の練習では難しかった」とザッケローニ監督は説明したが、それ以上に、中心選手が何人も欠け、そこに若手が入ったチームでは、新システムを使いこなすのは無理だった。

若手では新システムは無理

日本代表は前日に合流したばかりの本田圭佑(CSKAモスクワ)、長友佑都(インテル・ミラノ)、吉田麻也(VVVフェンロ)の3人を先発から外し、体調不良の内田篤人(シャルケ)も出場を見合わせたため、4人の若手を起用した。

右FWには関口訓充(仙台、25歳)、右MFには西大伍(鹿島、23歳)、左MFには安田理大(フィテッセ、23歳)、そしてDFには栗原勇蔵(横浜M、27歳だが代表歴は浅い)である。

3-4-3は両サイドのMFがFWの両サイドと組んで相手のサイドバックに対し2対1の形となり、ぐいぐいとサイドを突破して主導権を握ろうというシステム。ところが西と安田はサイドバックのような低い位置に下がることが多く、その結果3-4-3ではなく、5-2-3のような形になってしまった。

シュートわずか5本の"貧攻"

これは彼ら2人だけの問題ではなく、DFラインの両サイド、右の栗原、左の伊野波雅彦(鹿島)の問題でもあった。

その結果、FWは孤立無援になり、中央のMFである長谷部誠(ウォルフスブルク)と遠藤保仁(G大阪)は相手の3人のMFに対して劣勢となり、日本は攻撃の形をつくることができなかったのだ。

ザッケローニ監督は前半の45分間で新システムのテストをあきらめ、ハーフタイムには本田を投入して4-2-3-1にし、さらに後半22分には長友を入れて攻撃の強化をはかった。

しかし、いちど狂ったリズムを本来のものにすることはできず、90分間でシュートわずか5本という"貧攻"で0-0の引き分けに終わった。

6日後のチェコ戦で、ザッケローニ監督は再度3-4-3システムを試みた。この試合では本田、長友、内田、吉田の4人が先発し、ほぼ現状のベストの布陣がそろった。ただ、中央のFWを務める前田遼一(磐田)が足を痛めたため、アジアカップ決勝戦で決勝ゴールを挙げた李忠成(広島)が初めて先発で起用された。

チェコ戦の後半、FKを放つ本田

ベスト布陣でもサイド攻撃のスピード上がらず

しかし、この試合でも3-4-3のメリットは明確には見えなかった。サイド攻撃のスピードがまったく上がらなかったのだ。

チェコが日本のサイド攻撃、とくに左サイドの長友の攻撃を警戒し、サイドバックだけでなくボランチが寄り、サイドのFWまで懸命に下がってスペースを消しにかかった。その結果、長友は突破どころかバックパスを繰り返すばかりだった。

「バイタルエリアは空いた」

「確かにサイドではスピードが出なかったが、相手が両サイドを警戒した分、バイタルエリア(ゴール正面)にスペースができ、そこを使うことができた」

ザッケローニ監督は「バイタルエリアを空けることも3-4-3のメリット」と話した。

監督のいうように、前半35分過ぎからここを生かせるようになり、後半は本田が右サイドから中央に入るなど動きに変化を見せ、中央から攻める形も多くなった。

結局、名GKチェフの壁を破ることはできなかったものの、両サイドのMFに内田と長友が入ったことで、ペルー戦と比較すると3-4-3システムははるかにスムーズになった。右の内田と本田、左の長友と岡崎慎司(シュツットガルト)のコンビも悪くなかった。

DFの両サイドを務めた伊野波と吉田も、この試合では積極的に前線へのフィードを送り、攻撃を活気づかせた。

システムですべてを解決できるわけではないが、ザッケローニ監督が必要と考えたときにこのシステムも使うことができると、ある程度確認できたのは、この大会の大きな収穫だったのではないか。もっとも、新システムはまだまだ熟成が必要であり、その変更にはまだ選手交代を使わなければできないことが課題として残ったが……。

FWの中央を務める選手に大きな課題

新システムの熟成より大きな課題と思えるのが、FWの中央を務める選手である。ペルー戦では前田が、そしてチェコ戦では李がプレーしたが、MF陣や両サイドFWの本田、岡崎らと比較すると「弱さ」は明白だった。

繊細な技術をもつ前田だが、ペルーの厳しいチェックに対し満足にボールをキープすることができず、シュート0に終わった。

相手を背にしてボールを受けようという前田に対し、李は動きながらボールを受けようとするタイプのFW。だが、プレーは大半がワンタッチで、しかもトリッキーなタッチで前のスペースに流す形が多いため、非常に確度が低い。

うまく次の選手にパスが通れば決定的な形ができそうだが、チェコ・クラスの守備陣だと、そのプレーがほとんど読まれていた。足もとに送られてきたパスをきちんと止めてさばければ、次のプレーで決定的な形が生まれる可能性も高いのだが、非常に残念だった。

FWの中央は本田しかいない?

このままだと、現状のメンバーでは本田をFWの中央に置くしかないのではないか。昨年のワールドカップで岡田監督が使い、今年のアジアカップでは、退場で10人になったときにザッケローニ監督が使った形だ。だが、この形だと、本田の良さは半減してしまう。

日本にとって9月に始まるワールドカップ予選までテストとして使えるのは8月10日に札幌で行われる韓国戦1試合だけだが、予選が始まってからでも、新しいFWを試していくべきではないか。

U-22日本代表の永井謙佑(名古屋=22歳)のほか、川崎の矢島卓郎(27歳)、仙台の赤嶺真吾(27歳)、柏の北嶋秀朗(33歳)、甲府のハーフナー・マイク(24歳)など、Jリーグで好調なFWを試していく必要があると思う。

チェコ戦の前半、攻め込む岡崎

集中力を切らさず懸命にプレー

自分で得点するだけでなく、安定したポストプレーで周囲の選手を生かせるFWを持つことは、依然として、このチームの最大の課題といえるだろう。

キリンカップでは、長谷部、長友、岡崎ら「ヨーロッパ組」に疲労の色が濃かった。昨年のワールドカップを含み、もう2年近く休みなくプレーしている選手もいる。

それでも、選手たちは最後まで懸命に走り、決勝点を取ろうと、そして相手の攻撃を阻止しようと、集中力を切らさずにプレーした。

この姿勢がある限りチームは成長

昨年のワールドカップで見せた選手たちの姿勢により、「日本代表チームの価値」は大きく上がった。その姿勢がワールドカップから1年たった今もまったく揺らがず続いているのは、うれしい限りだ。その姿勢がある限り、ザッケローニ監督が言うようにチームは成長を続けることができるだろう。

キリンカップでは得点を生むことができず、ホームのファンの前で勝つ姿も見せられなかった。しかし「FW探し」という課題を抱えながらも、ワールドカップ予選を前にこれほど代表チームが充実しているのは、日本サッカーが始まって以来のことであるのは間違いない。

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